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2025年12月10日 日経MOOK

次世代パワー半導体が急速に普及

ロジック半導体やメモリー半導体が脳だとすれば、心臓だと例えられるパワー半導体は、電力の制御や供給を司り、あらゆる電子機器に搭載されている。特に大電力を用いる電気自動車(EV)や産業用機器、通信基地局、再生可能エネルギーといった分野では核となる重要なパーツであり、市場は今後も拡大していく見込みだ。消費エネルギーの削減などを視野に新たな技術開発も加速している。

過酷な環境でも安定した作動ができるよう、バンドキャップの広いパワー半導体が急速に普及している。シリコン製の従来の半導体と比べ、シリコンカーバイド(SiC)や窒化ガリウム(GaN)を用いた半導体は高温条件下でも安定性を保ちつつ性能が発揮できるばかりか、高電力・高周波に優れており、量産に向けた開発が進んでいる。

ただ、こうした次世代パワー半導体の開発において設計者は新たな課題に直面していると田中貴金属工業の伏見恵典氏は話す。「電力の大容量化に伴う高熱への対応や数千回に及ぶ熱サイクルでの接合信頼性の維持、そして大型化するチップ(ダイ)の大面積の接合です。従来のはんだペーストやエポキシ樹脂接着剤では、こうした要求を満たすのが難しくなってきたのです」

伏見氏
田中貴金属工業
製品営業部
接合材料営業セクション
Ag接着剤 製品責任者
伏見 恵典
北岡氏
田中貴金属工業
製品営業部
接合材料営業セクション
Ag系接合材製品責任者
北岡 慎一朗

素材による課題解決で自由なモジュール設計を

田中貴金属では、こうした課題を解決する材料を提供している。その1つがダイ接合を変える「Ag接着剤」だ。開発した樹脂強化型の焼結銀(通称:ハイブリッド焼結銀)は、従来の焼結銀とは一線を画す材料になっている。「高い熱伝導による優れた放熱性はもとより、独自の樹脂システムによる熱サイクル下での高い信頼性を両立させ、車載用途による過酷な環境要求にも応えられます」(伏見氏)。特に小から中サイズのダイ接合で威力を発揮し、パワーデバイスの長寿命化と高容量化に寄与すると伏見氏は自負する。

もう1つが、大面積の接合に最適な「AgSnTLPシート」だ。「大型ダイやモジュール全体の接合に有効な、Ag-Sn液相拡散接合のボンディングシートです」と開発に携わる同社の北岡慎一朗氏は説明する。

その特長は大きく3つある。1つ目は信頼性。このボンディングシートは接合後、Ag(銀)とSn(錫)がAg3Snとなることで耐熱温度が480℃まで上がる。そのため、既存の材料よりも高い耐熱性を有している。接合強度は最大50MPaを有し、300℃においても同様の接合強度を維持する。また、3000サイクルのヒートサイクル試験も通過した。2つ目はコストの低減だ。数分で接合ができるため、タクトタイムの低減によりプロセスコストを削減できる。3つ目は環境負荷の低減だ。溶剤を含まない材料であるため、VOC(揮発性有機化合物)は発生しない。また、RoHS規制対象物質を含まない。「低い圧力でも確実に接合できるプロセスやボイド低減と製造工程の簡素化を備えており、特にモジュールとヒートシンク間の広い接合面に適し、放熱性の改善につながると考えています」(北岡氏)

ダイボンディングにおける「Ag接着剤」と「AgSnTLPシート」という2つのソリューションは補完関係にあり、それぞれの特性を活かして使い分けることで真価を発揮することができる。例えば「Ag接着剤」は小から中サイズのダイボンディングに、AgSnTLPシートは大面積のダイで高温安定が求められる接合に適しています。両者を補完的に組み合わせることで、従来では困難だったモジュール設計の自由度が広がり、熱管理と信頼性、製造性という次世代パワー半導体に開発に欠かせない要素を同時に改善させることができます」(北岡氏)

【図表】トータルソリューションを提供する田中貴金属のパワーデバイス向け製品

川上から川下に至るまでフルラインアップの材料

EVが象徴するように、パワー半導体には比較的な小さな空間でも電力の制御できる機能が強く求められてきている。極小化と同時に性能を高めるため、パワー半導体の材料に対する「低抵抗」や「放熱対策」といったニーズが広がっている。

田中貴金属ではパワーデバイス向け製品に向けたトータルソリューションを提供している。ダイボンディング材はもとより、供給量で世界トップクラスのボンディングワイヤ貴金属ろう材各種めっきプロセススパッタリングターゲットなど製造工程の川上から川下に至るまでフルラインアップの材料を安定的に供給している。

また、素材自体が希少であることが多く、リサイクルを念頭に置いた貴金属素材の生産・流通の仕組みにも配慮する。田中貴金属において貴金属リサイクルは中核事業の一つであり、リサイクル拠点のグローバル展開を推進している。

パワー半導体の進化に伴う放熱と信頼性の課題に対し、接合材料の革新は不可欠だ。田中貴金属はその最前線に立ち、新たな時代のパワーエレクトロニクスを支えていく構えだ。
田中貴金属はこれからも貴金属の特性を活かし、先端素材の研究開発・提供に取り組んでいく。

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