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「水素飛行機」が変える、未来の航空産業
機体の右翼にあるエンジンは、水素燃料電池で駆動する電気モーターだ。Top Image Credit: Universal Hydrogen
米ワシントン州で2023年3月2日、普通の外見をした飛行機が、短時間のフライトを成功させた。機体の左側には、ジェット燃料を利用する標準的なエンジン。しかし、右側にはまったく違うものが搭載されていた──電気モーターである。しかもその動力は電池ではなく、機体内に搭載された水素だった。
ジェット燃料の燃焼は二酸化炭素を排出し、微小粒子状物質(PM2.5)汚染も引き起こす。だが、水素によるシステムから生じるのは水蒸気と熱だけだ。こうした水素動力システムは、現在航空業界が取り組んでいる、飛行機の環境負荷軽減のための方策の一つだ。各航空会社は、電池式飛行機や合成航空燃料の開発にも取り組んでいるが、今回のケースでは水素燃料電池を利用した。
実験機の開発にあたったユニバーサル・ハイドロジェン(Universal Hydrogen)の最高技術責任者マーク・カズン(Mark Cousin)は、「これは、水素燃料電池で飛んだ史上最大の飛行機だ」と述べる。
仕組みは次の通り。機体の左側は従来の飛行機と同様に、翼にジェット燃料を搭載している。右翼に搭載された電気モーターを動かす水素は、気体状態でタンクに充填され、機体後方に搭載されている。「翼の内部に水素を搭載することはできない。機体の長さの約3分の1が必要だったからだ」と、カズンは説明する。
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水素は右翼に送られ、そこでマジックが起こる。翼下のモーターを収めたエンジン室の中で、水素が燃料電池スタック内部の圧縮空気と混合される(空気は右翼モーターの近くに設置された給気口から送られる)。このシステムで使用する燃料電池スタックは全部で6つあり、各スタックは数百の燃料電池で構成されている。これらの燃料電池スタックが、モーターの駆動に必要な電力を生み出す。「燃料電池は受動的デバイスであり、可動部分をもたない」と、カズンは言う。なお、燃料電池が生み出す電流は直流なので、モーターに必要な交流にするためにインバーターを通さなくてはならない。
初飛行は、左翼にはジェット燃料式の通常のエンジンを搭載し、右翼には水素と空気で駆動する電気モーターを搭載していた、一種のハイブリッド機だった。「巡航飛行に入ってからは(左翼の)エンジン出力を落とし、ほぼ完全に右側のエンジンだけで飛んでいた。そして無音だった」と、パイロットはシアトル・タイムズに述べている。
ボンバルディア・エアロスペースが製造する旅客機「ダッシュ8-300」を改造した機体は、通常は定員約50人だが、今回は試験飛行のため3人だけが搭乗した。飛行時間は約15分、飛行高度は地上約2300フィート(約700メートル)だった。「飛行場の周囲を数回ループ飛行した」後、機体は「非常にスムーズに着陸した」と、カズンは述べる。
今回の飛行機は、気体状態の水素を充填したタンクを機体後方に搭載したが、ユニバーサル・ハイドロジェンは、液体水素を搭載する方式への転換を目指している。液体水素は、気体水素に比べてスペースも重量も削減できるためだ。ただし、タンクを超低温に保つ必要があり、液体水素は燃料電池に使用する前に気体に変換しなければならない。液体水素タンク方式でも、やはり通常のジェット燃料よりも空間を占有するが、気体水素よりも優れたソリューションだとカズンは言う。同社の計画では2023年中に、今回と同型の飛行機を液体水素システムに切り替える予定だ。
航空業界は主要な二酸化炭素排出源の一つであり、その脱炭素化に関しては、水素こそが最適なアプローチだとカズンは主張する。「我々は、水素燃料が中・短距離飛行機に関して唯一の現実的なソリューションだと考えている」とカズンは言う。だが、他の方法がないわけではない。2022年9月には「アリス」と名付けられた電池式飛行機が、ワシントン州で初飛行を達成した。また、ジョビー・アビエーション(Joby Aviation)、ベータ・テクノロジーズ(Beta Technologies)といったその他の企業も、電池式小型機の開発に取り組んでいる。
また、水素駆動の飛行機の実現を目指すのはユニバーサル・ハイドロジェンだけではない。エアバスは2022年2月、特別設計の超大型機「A380」に水素技術を導入する実験を行うと発表。さらに11月には、水素燃料電池で駆動される電気エンジンの計画を明らかにした。
ユニバーサル・ハイドロジェンによる今回の試験飛行の動画は、以下で見ることができる。
先週行われた、我が社が誇る世界最大の水素燃料電池式飛行機の初の試験飛行の素晴らしい映像をご覧ください(燃料はグリーン水素です。ヒンデンブルク号のような悲劇は起きません) pic.twitter.com/8VCkNcMmVx
— ポール・エレメンコ (@PaulEremenko) March 6, 2023
この記事は、Popular ScienceのRob Vergerが執筆し、Industry Dive Content Marketplaceを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。