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ビル・ゲイツ支援のスタートアップ、廃材を利用して空気中の炭素を除去

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ビル・ゲイツ支援のスタートアップ、廃材を利用して空気中の炭素を除去

ビル・ゲイツらが創設した投資ファンド「ブレイクスルー・エナジー・ベンチャーズ(Breakthrough Energy Ventures:BEV)」がインキュベートし、支援しているスタートアップが、自然の光合成プロセスと工学を組み合わせて、大気中から二酸化炭素を除去して地中に貯蔵するハイブリッド技術を開発した。

ゲイツは、2023年11月13日に発表された報告書『State of the Transition 2023』で、次のように書いている。「炭素除去は、炭素排出を続けるための口実ではなく、クリーンエネルギー経済への転換を減速させるための口実でもないことを理解することが重要だ。革新のペースは可能な限り加速し続けなければならない。しかし炭素除去は、我々がツールキットの中に持っておくべき重要なツールになるであろうことは明らかだ」

植物は、自然のプロセスとして、大気中から二酸化炭素を取り込んで組織内に貯蔵するが、貯蔵された二酸化炭素は、植物が分解するときに大気中へと再放出される。2023年11月13日に事業を開始したスタートアップのグラファイト(Graphyte)社は、廃棄されたもみ殻や廃材などの廃棄バイオマスを乾燥・殺菌することで、分解を防いでいる。さらに、これを凝縮して高密度のカーボンブロック(炭素質材料のブロック)に変える。その後、このブロックを独自のポリマー層で包んで、準備された地中の貯蔵場所に保存する。これで、内部の炭素は閉じ込められ、再放出されなくなる。

グラファイト社では、この炭素除去プロセスを「炭素鋳造(carbon casting)」と呼んでいる。このアイデアを最初に思いついたのは、BEVのパートナーであるクリス・リベスト(Chris Rivest)だ。リベストは、この技術を商品化し、スタートアップのかじ取りを任せるためにバークレー・ロジャース(Barclay Rogers)を引き込んだ。ロジャースはグラファイト社の共同創業者の一人となり、現在は最高経営責任者(CEO)を務めている。

ロジャースCEOは、「リベストと私は、バイオマス内の炭素を最大限に利用し、それが再放出されないようにする方法を特定するというアプローチについてあれこれ考え始めました」と語る。「そして、協力者を交えた議論を通して、グラファイト社が生まれました」

このアプローチについてリベストが魅力を感じたのは、耐久性が高く、手頃で、すぐに拡張できる炭素除去の可能性だった。「既存のアプローチの一部、特に工学的なアプローチには、エネルギーと資本集約度に関する懸念があります」とリベストは述べる。

グラファイト社は、地域の供給源から廃棄バイオマスを購入し、自社の炭素除去サービスを企業バイヤーに販売する計画を立てている。現在のところ企業バイヤーは、ほとんどがマイクロソフトやショッピファイ(Shopify)などのテクノロジー企業だ。これらの企業は、持続可能性への取り組みを達成するには炭素除去が重要と考えており、初期段階にある炭素除去産業の拡大を支援するために数億ドルの提供を約束している。

直接空気回収(DAC:direct air capture)などの既存の炭素除去技術は、現在のところ、除去される二酸化炭素1トンあたり数百ドルから数千ドルのコストがかかり、大規模な再生可能エネルギーが必要になる。植林などの、より安価で自然をベースとした方法にも、耐久性や測定上の課題といった点で欠点がある。

これに対してグラファイト社は、自社の均等化された生産原価(levelized cost of production)は、現在1トンあたり100ドル未満だと述べている。これは、炭素除去では極めて難しい目標値であり、直接空気回収ではまだ達成に程遠いものだ。さらにロジャースCEOによると、必要とされるエネルギーは、直接空気回収の10分の1であるうえに、カーボンブロックは独自のポリマー層で保護されていることもあり、1000年以上の耐久性があると予測されている。このプロセスは土地利用効率も高く、1エーカー(約4047平方メートル)あたり1万トンの二酸化炭素を除去できる可能性があると、ロジャースCEOは述べた。

グラファイト社は、最初の工場をアーカンソー州パインブラフに建設中だ。近くには、バイオマスの供給源となる現地の製材所や精米所があると、ロジャースCEOは言う。また、顧客企業とのオフテイク契約(長期供給契約:引き渡し時に予定価格で炭素除去サービスを購入するという契約)の締結も進んでいるという。最初のカーボンブロックは、2024年1月までに製造される予定だ。グラファイト社はこのプロジェクトについて、23年末までに年あたり5000トン、24年7月までに5万トンの二酸化炭素を除去する能力があると見積もっている。

急速な事業拡張ができると保証されているわけではない。商品化への課題は、この炭素除去サービスに進んで料金を支払う購入者を十分な数だけ獲得できるか、ということから、規制当局や地域社会の了承を得ることまで、多岐にわたる。

重要なことは、カーボンブロックが地中に埋められた状態を維持し、ブロック内部に閉じ込められた二酸化炭素が、ブロックの劣化や分解によって放出されないようにすることだ。グラファイト社の科学アドバイザーで、カリフォルニア大学バークレー校でアシスタントプロフェッサーを務めるダン・サンチェス(Dan Sanchez)は、バイオマスが濡れたり、非常に活発な微生物活動が認められたりすると、こうしたシナリオにほころびが出る可能性がある、と述べる。

ポリマー層は、カーボンブロックの乾燥・凝縮を防ぎ、ブロックの劣化を防ぐ「有用な保険」として機能する、とサンチェスは指摘する。

ルイジアナ州立大学の環境科学部のブライアン・スナイダー(Brian Snyder)准教授はこの「保険」について、二酸化炭素が地中に埋まった状態にあり、カーボンブロックがメタンを生成・放出していないことを保証する鍵になると述べる。バイオマスにもとづく炭素除去方法の主なリスクは、ゴミ埋立地と同様に、こうしたバイオマスの蓄積が、嫌気性発酵をおこなうバクテリアに晒された場合に、有害な温室効果ガスであるメタンを放出する可能性があることだ。バイオマスを乾燥・凝集させて包み込むグラファイト社の方法なら、このプロセスが起きないようにするのに役立つ、とスナイダー准教授は述べる。

グラファイト社は、カーボンブロック内の二酸化炭素を監視・測定するため、貯蔵場所に、センサーと独自のトレーサーシステムを設置する計画だ。さらに同社は、検証済みCO2除去証書(CORCs)を発行するピューロ・アース(Puro.earth)をカーボンレジストリとして選んだ。これは、自社がおこなう炭素除去を独立機関が検証することに向けた最初のステップだ。

廃棄バイオマスを使用する炭素除去には、大きな懸念がもうひとつある。バイオマスの入手可能性だ。しかしサンチェスの見解では、米国にはグラファイト社の目的を満たす残余バイオマスが十分にあり、「1社の企業が処理するには十分すぎるほど」だという。

グラファイト社のカーボンブロックは、本質的には炭素の埋め立てであり、建設廃棄物の埋め立てと同様の許可要件に従うかたちで地中に埋められる。埋められたブロックの上の土地は、例えば太陽光発電所に利用することができる。ただし、大規模な炭素除去プロジェクトを行うために規制当局の了承を得ることは、「たいていは困難です」とロジャースCEOは述べる。

ロジャースCEOは、グラファイト社が自社工場の地元であるパインブラフの地域社会と交わした取り決めについて触れ、「何か懸念が生じれば、私たちはその懸念に対処します」と述べた。

この記事は、BloombergのMichelle Maが執筆し、Industry DiveのDiveMarketplaceを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。