Bonding Lab 金ボンディングワイヤ製造工程編その2

TANAKAの技術

Bonding Lab 金ボンディングワイヤ製造工程編その2

Bonding Lab 金ボンディングワイヤ製造工程編その2

今回は、熱処理工程で実施される引張り試験に焦点を合わせて、ボンディングワイヤの最も代表的な物理的性質である機械的特性を解説します。

金ボンディングワイヤ製造工程編その2では、前回の続きとして熱処理工程と巻取り工程を説明します。今回は、熱処理工程で実施される引張り試験に焦点を合わせて、ボンディングワイヤの最も代表的な物理的性質である機械的特性を解説します。

Mr.Aki電子ちゃんDr.Yama

①引張試験特性とワイヤタイプ

電子ちゃん:
前回のBonding Labでは、伸線工程まで説明を受けました。
Dr. 山:
そうですね。今日は前回の続きを説明しながら、金ボンディングワイヤの最も代表的な物理的性質である機械的特性を解説しますね。それではあき先生、お願いします。
あき先生:
電子ちゃん、今日はよろしくお願いします。Fig.1のように伸線工程の次工程は熱処理工程です。熱処理工程ではワイヤに熱を加えて機械的特性の調整をします。

Fig.1

電子ちゃん:
機械的特性って、具体的に何を指しているのですか?
あき先生:
金ボンディングワイヤの性質を表すもので、代表的なものとして「破断荷重(Breaking Load)」と「伸び率(Elongation)」があります。この2つの特性は引張試験で測定しています。一定の長さのワイヤの両端を一定速度で引っ張ったとき、ワイヤが切れる時の荷重と切れるまでに伸びた変形量を測定するということです。
電子ちゃん:
製品カタログのB.L.はBreaking Load、ElはElongationの略称だったのね。
あき先生:
破断荷重と伸び率は、Fig.2のようなICの製造工程中のワイヤボンディング時や樹脂封止(モールド)時などに密接な関係があり、ボンディングワイヤにとって重要な物理的性質の一つなのです。Fig.3にはワイヤタイプと破断荷重をグラフで比較しました。一口にボンディングワイヤといっても、使われる半導体のデザインに応じた様々なタイプが準備されています。

Fig.2

Fig.3

電子ちゃん:
ワイヤタイプの違いは、破断荷重で比較するとわかりやすいのですね!

②熱処理条件と引張試験特性

電子ちゃん:
ところで、破断荷重と伸び率にはどの様な関係があるのですか?
あき先生:
いい質問ですね。基本的に伸び率はFig.4のように熱処理温度を変化させることにより制御するのです。基本的には熱処理温度を上げることにより、破断荷重(青線)が低下し、伸び率(赤線)が上昇するのです。

Fig.4

電子ちゃん:
Fig.4.の赤線は伸び率の推移ですね。
Dr. 山
一般的に使われる金ボンディングワイヤは、例外もありますが、通常は伸び率で1~10%程度であり、「米国材料試験協会(American Society of Testing and Materials, ASTM)」に標準的な規格の記述があります。熱処理条件が弱すぎるとボンディング時のループ形成性が悪くなり、熱処理条件が強すぎると破断荷重が低くなりすぎてしまうのです。
あき先生:
Fig.5はボンディングワイヤ断面の結晶組織図です。L1~L6はFig.4と対応していますよ。

Fig.5

電子ちゃん:
熱処理条件が強くなると、結晶粒が大きくなっているのが分かります。
あき先生:
熱処理を加えると、最初は(圧延や伸線)加工によって結晶内部に蓄えられたひずみエネルギーが解放され、転位が消滅する回復現象が現われます。次に、内部ひずみの少ない亜結晶が転位密度の高い部分を吸収して成長し、ひずみの少ない結晶粒に成長する再結晶現象が現れるのです。
電子ちゃん:
温める温度でだいぶ味が変わるって事ですかね?
あき先生:
そう!料理みたいですが、このレシピがボンディングワイヤにとって重要なのです。

③引張試験方法

あき先生:
次は、引張り試験の試験方法を説明します。装置全体はFig.6のようになっています。一定の長さのボンディングワイヤに一定速度で変形(ひずみ)を加えながら、荷重計に加わる荷重をリアルタイムに計測します。

Fig.6

電子ちゃん:
どのように破断荷重と伸び率を測定するの?
あき先生:
破断荷重と伸び率は、「S-S曲線(Stress-Strain Diagram)」と呼ばれる「応力-ひずみ線図」から読み取ります。応力は単位断面積あたりの荷重であり、ひずみは伸び率と同じような意味のため、金ボンディングワイヤ業界ではY軸を破断荷重、X軸を伸び率で表した図もS-S曲線と呼ぶことが多いようです。

Fig.7 Video.1

電子ちゃん:
なるほど!Fig.7の破断点がX軸と交わる点が伸び率、Y軸と交わる点が破断荷重なんですね。 Video.1では破断する瞬間が確認できるのですね!すごかー!!
あき先生:
電子ちゃん、方言上達しましたね(笑)。

④S-S曲線の追求

あき先生:
S-S曲線からは、破断点の物性以外にもわかることがあるのですよ。

Fig.8

電子ちゃん:
確かにFig.8のS-S曲線はAu WireとFe Wireで全然形状が違いますよね。
あき先生:
一般的な鉄鋼材料は、引張試験において降伏点が表れます。そして、この降伏点を境にして弾性域と塑性域を明瞭に区別することが可能です。
電子ちゃん:
弾性域と塑性域については前回のBonding Labで学んだから知っていますよ。でも、金にも弾性域と塑性域はあるのよね?
あき先生:
金や銅・アルミニウムのような、降伏せずに弾性域と塑性域を明瞭に区別できない金属も多くあります。その場合は弾性域と塑性域の境界を便宜上つけるため、降伏点に相当する耐力点を用います。具体的には、Fig.9のようにS-S曲線の立ち上がりの接線L1を求め、次にL1をY軸と平行にスライドさせ伸び率0.2%を通る線L2を求め、L2とS-S曲線との交点P1を0.2%耐力点と呼びます。

Fig.9

電子ちゃん:
なんで0.2%なのですか?
Dr. 山:
一般的な鉄鋼材料の降伏時の伸び率が約0.2%であることから、除荷時の伸び率が0.2%になる応力を0.2%耐力と用いている場合が多いようですね。

[豆知識:ヤング率の算出方法]

ヤング率(引張弾性率)Eは、微小変形時にはフックの法則に従うものと考えると、引張試験でY軸を引張荷重、X軸を伸びとすれば、初期の直線(L1)の傾きから求めることができる。なお、一般的な金ボンディングワイヤのヤング率は88GPa程度となる。 E =(引張応力:σ)/(引張歪み:ε)= σ/ε E =(単位面積あたりの力)/(単位長さあたりの伸び)=(F/A)/(⊿L/L0) ※F:引張力、A:断面積、⊿L:力Fによる伸び、L0:測定長さ

電子ちゃん:
先生!だいぶ頭が一杯になってきました・・・。

⑤今日はここまで

Dr. 山:
そうですね・・・。今回はここまでにしますが、熱処理工程の次は巻き取り工程です。
あき先生:
巻取り工程では、Fig.1のようなスプールに所定長さのボンディングワイヤを巻取ります。一般的な巻き長さは100m~10,000mで、お客様の要望に合わせて変えているのです。一口に巻取と言うと簡単そうですが、たった数gの荷重でワイヤは切れてしまいます。けれども、荷重をかけて巻かないと輸送中にワイヤが緩んで絡まってしまいお客様が使えないことになるので、デリケートな工程なのですよ。

Fig.1

電子ちゃん:
へぇ、そうなんですか。あき先生、Dr. 山、ありがとうございました!次回もおもしろいお話を聞かせて下さい。