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田中貴金属工業の挑戦~自動車と半導体で一気拡大の戦略~① 世界トップの燃料電池触媒
2021年2月18日 電子デバイス産業新聞
電解質膜耐久性4倍の新触媒
2020年1月14日、田中貴金属工業は世界初のとんでもない素材の開発に成功した。それは、燃料電池の劣化を大幅に抑制する白金・コバルト合金水素極触媒の開発であり、固体高分子形燃料電池の水素極における電解質劣化の原因となる過酸化水素の発生を半分以下に抑え込むという優れものなのである。
これは、田中貴金属工業、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、山梨大学の3社による発表であったが、この触媒を燃料電池に組み込むことで、従来の市販の白金水素触媒を用いた場合に比べて、電解質膜の耐久性を4倍以上に高められるというのである。もちろん、この新開発の向こうには、燃料電池車の急速普及に貢献できるとの思いがあるのだ。
「ありがたいことに、田中貴金属の提供する燃料電池用電極触媒は、世界でトップクラスのシェアを占有させていただいている。当社の湘南工場内にある既存のFC触媒開発センターに隣接して、40億円を投じ延床3000㎡の製造出荷棟と保管庫棟を増設し、生産能力を約7倍にした。すでに本格稼働している」。
こう語るのは、田中貴金属工業にあって取締役常務執行役員の任にあり、新事業カンパニープレジデントを務める庄司亨氏である。庄司氏は、千葉県立君津高校を出て、千葉工業大学金属工学科を卒業し、田中貴金属工業に入社した。卒論のテーマは、「航空機用アルミニウム合金のクリープ破壊耐性向上に関する研究」というものであった。入社後は、金合金細線の連続鋳造技術、燃焼触媒、環境浄化触媒、ディーゼル排ガス浄化触媒システム、自動車排ガス浄化用三元触媒などの開発に携わっていく。庄司氏のモットーは、「営業には答えがないが、技術には答えがある」というものだ。つまりは、上司が何と言おうと技術には真理が存在するということなのだ。
世界トップシェアの燃料電池用触媒
さて、世界のSDGsが拡大する中にあって、次世代エコカーに関する議論がかまびすしい。そしてまた、すさまじい勢いでEVシフトが進んでいる。もちろん、現在のエコカーの本流はHVであるが、EVブームは拡大するばかりだ。
しかしながら、多くの識者は次世代エコカーの本命は「燃料電池車」にある、とする向きが多い。なぜならば、EVは結局のところ大量の電力を作ることによって成立するわけであるからして、究極のエコとは言えないのだ。しかして燃料電池車は水素と酸素の化学反応で電気を発生させ、これを動力源として走る車だ。走行中排出するのは水だけであり、一切CO2を出さない。完全なゼロエミッションと呼ばれている。
ただし、問題はコストなのである。いかにして安くて品質のよい水素を作るか、ということに多くの関心が集まる。そして水素ステーションを多く作る必要がある。トヨタ自動車は、世界初の燃料電池量産車「MIRAI」を2014年に発表しており、その後改良を重ねてきている。恐らくは燃料電池車についての技術的な先行は、トヨタが世界の中で筆頭格であろう。ホンダもまたセダンタイプを発表している。韓国の現代自動車も燃料電池車を一気に市場投入すると宣言している。日産もダイムラーやフォードとの間で燃料電池車の共同開発に合意しており、BMWはトヨタと燃料電池の基本システム開発で提携している。
そしてまた、最も重要なことは、ひたすらEVの一気普及をアナウンスしていた中国が、燃料電池車についても多額の補助金を出す、と表明したことだ。高速バスやトラックなどについては、燃料電池車の方が望ましいという見方もしている。つまりは、ここに来て、世界全体で燃料電池を押す声が高まっている。
田中貴金属工業は、かねてより燃料電池車に熱い視線を注いできた。もちろん、同社の製造する燃料電池触媒は、燃料電池車だけではなく、家庭用燃料電池などにも採用されており、いわゆる水素エネルギー社会の実現に向けて企業努力を続けているのだ。
「19年1月には、NEDOがFCV課題共有フォーラムをトヨタ自動車、本田技術研究所とともに開催した。ここで出てきたのが、やはり固体高分子形燃料電池の高分子電解質膜の化学的な分解劣化という問題なのだ。これを解決するのが、今回の白金・コバルト合金水素極触媒の開発なのである。また、試作触媒では、白金・コバルト合金ナノ粒子/炭素触媒の量合成をも可能とした。この新触媒を用いた研究開発を加速していく考えだ」(庄司氏)。
FC触媒生産能力増強しインドに新拠点
19年末には、インド・中東・アフリカ地域での営業戦略の新拠点として、インドのムンバイに田中貴金属インド㈱が設立された。自動車用触媒や半導体、水素エネルギー市場における需要に対応することが最大の目的となっている。燃料電池における日本、中国、インドをつなぐ架け橋を作り始めた田中貴金属工業の今後の活動からは、まったく目が離せないと言ってよいだろう。
(特別編集委員 泉谷渉)
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