expand_less

寄稿:ろう付の現在と今後の展望

  • TANAKA
  • 技術
2021/8/16

Ag含有量を抑えた低融点Cdフリー銀ろう材の開発
―超硬合金に対するろう付性―

月刊「溶接技術」2021年6月号
東京ブレイズ株式会社 松 康太郎、石康 道
田中貴金属工業株式会社 岸本 貴臣、高橋 昌宏、照井 貴志

1. はじめに
銀ろうは、比較的融点が低く加工性に優れ、さらにそのろう付特性にも優れるため、数あるろう材の中でも最も幅広く使用されている。そのため、どのろう材規格を見ても銀ろうの種類が圧倒的に多く、それだけ適用範囲が広いことが解る。その中でもCdを含まないろう材として最も多く使用されているのは、比較的低融点のBAg-7であると考えられる。
一方で、母合金としての銀価格は1990年代中頃と比較して2011年には約7倍まで跳ね上がり、その後落ち着いてはいるが現在でも約3倍の高値で推移しているため、銀ろう自体が高価なろう材と認識されている。それでも銀ろうは、その優れた特性から多くの製品で使用され続けているが、ろう材自体の価格が製品価格に影響し、ものづくりの現場では銀ろうと同等の性能で低価格のろう材が求められている。
そこで我々はBAg-7(56Ag-22Cu-17Zn-5Sn)相当のろう材特性で、銀の含有量が40%以下、融点が700℃以下、固相線/液相線温度差が50℃以下の合金(40Ag-26Cu-23Zn-5Mn-4Ni-2Sn)を開発した。さらに、この開発ろう材は、実際の製品化を見据え、一般的な銀ろう材で供給される形状である線材や箔状へ加工が可能であるよう、合金製造に問題ない加工性を有している。開発したろう材の成分と固相線/液相線温度を表1に示した。

 表1:開発したろう材の成分と固相線/液相線温度

2. これまでの結果
開発したろう材の基礎的なろう付性を、真鍮、炭素鋼、無酸素銅それぞれの母材に対して評価した。
ぬれ拡がり試験の結果、真鍮、炭素鋼、無酸素銅に対して良好なぬれ性が確認された。BAg-7と比較した場合、炭素鋼には優れたぬれ拡がり性を示したが、無酸素銅に対してぬれ拡がり性はやや劣り、真鍮に対してはやや劣る結果となった。
引張せん断引張試験の結果、開発したろう材は真鍮、炭素鋼、無酸素銅共にBAg-7と同等の強度が得られた。母材が炭素鋼の場合の破断位置は全て同じで、すべて界面近傍で破断の亀裂が発生した。母材が無酸素銅の場合、破断は全て母材で発生した。
接合部断面組織観察により、ろう材層中にボイドやピンホールなど欠陥の無い良好な接合体が得られた。開発したろう材では、すべての母材とろう材層界面にBAg-7では見られないCuとZnからなる化合物層が観察された。真鍮の接合部界面ではこの層の有無が強度ミスマッチを発生させていると推測された。炭素鋼の接合部界面にはNiの濃化層が確認され、それはα-Cu(Zn,Ni)の化合物層であると考えられた。無酸素銅の接合部界面は、開発したろう材及びBAg-7共にろう材層組織に大きな差は見られなかった。

3. 超硬合金に対するろう付性評価
これまでの結果では、開発したろう材は真鍮、炭素鋼、無酸素銅に対して良好なろう付性を示し、特に炭素鋼には優れたぬれ拡がり性を示した。
一方で、鉄鋼材料と超硬合金は、切削工具などの分野でろう付が多用されており、開発したろう材もこの分野への適用が期待される。そこで、本報では、超硬合金に対してのろう付性の評価を行った。そこで、一般的に広く超硬合金のろう付に使用されているBAg-24との比較評価を行った。

3.1 ぬれ拡がり試験
開発したろう材の超硬合金に対するぬれ拡がり特性を評価するため、ぬれ拡がり試験を実施した。試験片の母材として、ISO K10相当材を用いた。試験片の形状は40x30x3mmの板とした。試験片の中央に0.1gのろう材をセットし、適量のフラックス(TB-610)を塗布して試験片の裏面からトーチで加熱した。加熱時間は、事前に750℃になるまでの加熱条件を導出した。図1に予備実験による加熱時間測定結果を示した。超硬合金の供試材は70秒で750℃に達することが分かった。この予備実験結果をもとに試験片を加熱し、ろう材の加熱・溶融後のぬれ拡がり面積を測定し、ぬれ拡がり性を評価した。なお試験に用いたろう材は開発したろう材とBAg-24で行い結果の比較を行った。

 図1:各母材の加熱測定結果:図内(時間:秒、到達温度)

ぬれ拡がり試験の結果を図2に示した。開発したろう材はBAg-24と比較して超硬合金に対して良好なぬれ拡がり性を示した。しかし、両ろう材とも、750℃では超硬合金上できれいにぬれ拡がることはなく、母材に対し適切な加熱到達温度ではなかったと考えられた。なお、この温度設定はこれまでの結果で得られた真鍮、炭素鋼、無酸素銅と比較するために同じ加熱条件にしたためで、それらの結果と合わせた結果を図3に示した。各母材へのぬれ拡がり性を比較した結果、開発したろう材は炭素鋼と超硬合金に対しては比較材よりも良好なぬれ拡がり性を示した。
結果、開発したろう材は鉄系材料と超硬合金に対しては、BAg-7やBAg-24よりも優れたろう付性を示し、切削工具などの分野でのろう付に有効であることが示唆された。

 図2:ぬれ拡がり試験結果

 図3:各母材のぬれ拡がり試験結果

3.2 強度試験
ろう付部の接合強度を評価するため、圧縮引張せん断強度試験を行った。
母材は、超硬合金(K10相当)同士と、超硬合金とSK材(炭素工具鋼SKS3相当)の組み合わせを用いた。図4に試験片の形状を示した。試験片の形状は、超硬合金が13x13x4.8mmとSK材が13x5x5mmとし、図4の様な継手形状と重ね代とした。試験片継手は接合面を合わせた状態で、スポット溶接にて仮止めし、クリアランスはゼロとした。ろう材量は0.1gで一定とし、接合面の真横にセットした。
ろう付は連続式水素炉を用い、フラックスを使用しない炉中ろう付で行った。試験片温度は事前に物温測定し、ろう材の融点以上で約12分間の保持する設定でろう付を行った。
強度試験はインストロン式万能試験機(INSTRON 2716-015)を用い、クロスヘッドスピードは1.5mm/minとした。試験片数はn=5とした。
せん断試験結果と破断面外観写真を図5に示した。破断面目視観察より、すべての試験片はろう層部で破断していた。ろう層部には目視で確認できる顕著なボイドやピンホールなどの欠陥は観察されなかった。開発ろう材は超硬合金同士及び超硬合金とSK材の組み合わせにおいて、BAg-24よりも高い接合強度を示した。また、超硬合金とSK材の組み合わせの強度は、超硬合金同士の組み合わせより低い強度を示した。

 図4:せん断試験用試験片形状

 図5:せん断試験結果と破断面外観写真

3.3 接合部断面及び破断面組織観察と元素分析
接合部の断面組織をSEMで観察し、接合部界面の各元素の挙動をEDSにより分析した。SEM像による断面組織観察の結果、開発したろう材各母材においてろう材層中にボイドやピンホールなどの顕著な欠陥は確認されなかった。開発したろう材は優れたろう充填性を持ち、良好な接合体が得られることが確認された。
図6に開発したろう材での超硬合金同士の接合部界面のSEM像とEDSによる元素分析結果を示した。同様に図7にBAg-24での超硬合金同士の接合部界面のSEM像とEDSによる元素分析結果を示す。

 図6:開発したろう材での超硬合金同士の接合部界面のSEM像とEDSによる元素分析結果

 図7:BAg-24での超硬合金同士の接合部界面のSEM像とEDSによる元素分析結果

両ろう材ともに、ろう材層にはAg基固溶体とCu基固溶体の混合組織が観察された。接合部界面近傍の母材では、脱Co層が確認され、BAg-24の方が脱Co層は拡大していた。また、ろう材中のNi及びMnが母材中への拡散が観察された。これは接合部界面に脱Co層が形成されたことで、ろう材中のNi及びMnの拡散が促進されたと考えられた。
図8に開発ろう材(左)とBAg-24(右)の接合部界面のSEM像を示した。両ろう材ともに接合部界面近傍にカーケンドルボイドが確認され、BAg-24の方が開発ろう材よりボイドが多く発生する傾向にあった。

 図8:開発ろう材(左)とBAg-24(右)の接合部界面のSEM像

超硬合金同士のせん断試験後の破断面の組織観察を行った。図9に開発したろう材とBAg-24の光学顕微鏡写真とSEM像による破断面写真を示した。開発したろう材の破断面にはディンプル状の破面が確認され、その中に白色の相が小さな点状に観察された。一方でBAg-24の破断面でもディンプル上の破面が確認され、また白色の相が大きく多量に観察された。これらの白色相は母材の超硬合金であると考えられ、破断は界面近傍で起きていることが解った。

  図9:開発したろう材とBAg-24の光学顕微鏡写真とSEM像による破断面写真

以上の結果より、推定される破壊のメカニズムは、脱Co層の形成により、ろう付界面近傍で超硬合金自体の強度が低下し、破壊の起点は超硬合金側のカーケンドルボイドが集中する場所で優先的に発生したと考えられた。そして、ディンプルは微細な超硬合金粒を核として接合部界面に隣接するろう付側に形成され、ろう材層中で延性破断の際にクラックの伝搬経路となったと考えられた。つまり、超硬合金同士の接合部の強度は、脱Coの度合いによって影響を受けるので、脱Coの影響が少なかった開発ろう材の方がBAg-24よりも高い強度を示したと推測された。

次に超硬合金とSK材の組み合わせに対して、開発したろう材とBAg-24の接合界面でのSEM像及びEDSによる分析結果を示した。図10に開発したろう材での接合部界面のSEM像とEDSによる元素分析結果を示した。同様に図11にBAg-24での超硬合金同士の接合部界面の元素分析結果を示した。
超硬合金同士の接合部と同様に、両ろう材ともろう材層にはAg基固溶体とCu基固溶体の混合組織が観察された。超硬合金側の接合部界面では、超硬合金同士とほぼ同様の反応が確認されたが、開発したろう材の超硬合金側にはFeが界面に濃化し、BAg-24の超硬合金内にはFeが拡散してFeリッチ相が生成されていた。一方、SK材側の接合部界面では母材内にCoの拡散が観察された。また、アップヒルディフュージョン現象によるものと思われるCの欠乏層が確認された。

 図10:開発したろう材での超硬合金とSK材の接合部界面のSEM像とEDSによる元素分析結果

 図11:BAg-24での超硬合金とSK材の接合部界面のSEM像とEDSによる元素分析結果

超硬合金とSK材のせん断試験後の破断面の組織観察を行った。図12に両母材の開発したろう材とBAg-24の光学顕微鏡写真による破断面写真を示した。SK材側の破面観察より、破面の一部に超硬合金が確認され、それらは母材から剥離したものと考えられた。その傾向は開発材よりBAg-24の方が大きかった。

 図12:開発したろう材及びBAg-24の超硬合金側とSK材側の光学顕微鏡写真

図13に開発したろう材及びBAg-24のSK材側のSEM像を示した。超硬合金同士の破断面と比較すると、ディンプル状の破面の間に脆性破面と思われる領域が確認された。また、相対的にディンプル形状が小さく、数が少なかったので、超硬合金同士より靭性が低下していることが推測された。その結果、超硬合金とSK材の組み合わせの強度は、超硬合金同士の組み合わせより低い強度を示したと考えられた。また、脆性破面はBAg-24の方が多く観察されたため、開発ろう材はBAg-24よりも高い接合強度を示したと考えられた。さらにBAg-24の破面には黒色相が観察され、これらは接合界面の元素分析結果と合わせてFeリッチの複炭化物Fe21W2C6、もしくはη相であると推測された。

 図13:開発したろう材及びBAg-24のSK材側のSEM像

以上の結果より、推定される破壊のメカニズムは、SK材からFeが超硬合金側へ拡散してできた反応生成物が起点となって発生したと推測された。BAg-24ではFeが完全に超硬合金中に拡散したことにより、脱Co層中にFeリッチの複炭化物相が形成された。一方、開発材ではFeが主に界面に沿ってろう付部で濃化したが、超硬合金中に生成した炭化物の量はBAg-24と比較して少なかった。超硬合金とSK材の組み合わせでは、超硬合金側の接合界面に生成した複炭化物の量が継手の強度に影響したと推測された。

4. おわりに
本報では、開発したろう材の超硬合金に対してのろう付性の評価を行った。また、BAg-24との比較評価を行った。
開発したろう材は超硬合金に対して良好なぬれ拡がり性を示し、BAg-24よりも優れたぬれ拡がり性を示した。
また、接合強度に関しては、超硬合金同士及び超硬合金とSK材の組み合わせにおいてBAg-24よりも高い強度を示した。
接合部断面の分液結果及びせん断試験後の破面観察より、超硬合金同士と超硬合金とSK材の破壊メカニズムが異なっていることが解った。超硬合金同士の接合部の強度は、脱Coの度合いによって影響し、超硬合金とSK材の組み合わせの場合は超硬合金側の接合界面に生成した複炭化物の量が継手の強度に影響していた。
以上の結果より、開発したろう材は超硬合金に対してBAg-24よりも優れたろう付特性を示すことが解った。

参考文献
1)松康太郎他:Ag含有量を抑えた低融点Cdフリー銀ろうの開発、ぶれいず、Vol.54、No.125 (2020)
2)宮腰、高澤、田頭、鴨田、高橋:WC-40mass%Co合金/炭素鋼の接合界面における組織と強度、粉体および粉末冶金、第44巻 第10号(1997)
3)矢尾板信二:低融点銀ろうによる超硬合金のろう付、溶接学会論文集、第29巻 第3号(2011) P.204-209
4)矢尾板信二など:超硬合金の銀ろう付におけるろう材中のNiとCoの効果、溶接学会論文集 第30巻 第4号(2012) P.298-305
5)大村、川尻など:超硬合金と炭素鋼の銅ろう付、溶接学会論文集 第6卷第4号(1988)


この記事に関するお問合せは東京ブレイズ株式会社までお願いします。

同カテゴリの新着記事