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創造力と想像力の交差点で生まれる、次世代産業を支えるものづくり
⽥中貴金属グループの製造事業を展開する田中貴金属工業は、2021年にパワーデバイス向け「活性金属ろう材/銅 複合材」を開発。銅材の片側に活性金属ろう材を複合化(クラッド)した製品で、セラミックス(酸化物、窒化物、炭化物)や炭素系素材などさまざまな材料を接合することができるほか、銀地金やプロセスコスト削減に繋がる長所がある。その汎用性と利便性の高さから、EVなどに使用されるパワーデバイスの放熱分野における開発工数の削減、次世代ヒートシンクの開発への貢献など、幅広い可能性を持つ。同製品は、田中貴金属の研究開発での創造力と想像力によってもたらされている。「活性金属ろう材/銅 複合材」の開発に携わった技術担当の岸本貴臣、営業担当の北岡慎一朗が、「ふたつのブレイクスルー」について語る。
何度でも挑戦できる環境が生んだ新しい「活性金属ろう材」
ろう付は金属を接合する方法のひとつだ。母材を接続するための糊のような役割を果たす「ろう材」は溶融することで、50〜200マイクロメートルという母材の隙間へ毛細管現象によって浸透し、金属同士を接合する。
同社が開発したパワーデバイス向け「活性金属ろう材/銅 複合材」の大きな利便性は、一般的なろう材では接合不可能な、セラミックスを直接ろう付することが可能という点だ。これは、従来のろう材にチタンを添加した独自のろう材で可能になっている。その開発は、トライアンドエラーの末に達成されたものだった。
岸本「活性金属ろう材は昔からあるものです。約10年前は銀銅チタンの合金ろう材が一般的に使われていました。しかし、この銀銅チタン合金のろう材には、合金内部に100マイクロメートルを超える、大きく、硬い銅チタンの粒ができてしまうことが難点でした」
▲ 田中貴金属工業(株) AuAgカンパニー 富岡工場 製造技術セクション 主任技術員 岸本貴臣
硬い銅チタンの粒がろう材の中にあるというのは、言ってみれば小さな石つぶの入った粘土のような状態に似ている。石つぶが入った粘土を薄く押し広げることを想像してほしい。薄く広げていくと石が粘土の中から飛び出してきて、ぼこぼこになってしまう。ろう付する際には、材料は薄くのばしたフィルムのような状態で使用されるが、ここに硬い銅チタンの粒が入っていると、ろう材のフィルムに穴が空くなどして、ろう付に支障が出る。
岸本「銀銅チタンの合金に何かの添加剤を入れることによって、銅チタンの大きな粒の発生を抑えられないかと試行錯誤を進めました。添加剤を検討した結果、スズを入れることで銅チタンの粒を微細に分散できることを発見しました」
添加剤の発見には、文字通りの試行錯誤があった。
北岡「重要なのは、スズの添加量でした。試行を繰り返す中で、少量の添加では効果がなく、一定以上のスズを添加することが重要であることがわかりました。スズの最適な添加量がわかったことで、組織が微細に分散でき、活性金属ろう材の開発が大きく進みました。こうして、安定してフィルム状のろう材を作ることができるようになったことが最初のブレイクスルーとなりました」
▲ 田中貴金属工業(株) AuAgカンパニー 第二営業部 リーダー 北岡慎一朗
こうしたブレイクスルーの創出には、田中貴金属ならではの「何度でも挑戦できる研究開発体制」が背景にあった。
岸本「貴金属を用いた一般的な研究開発現場では、そもそも貴金属が非常に高価であるため、実験ができないことがほとんど。しかし弊社では、この段階で多くの地金を実際に使ってさまざまなサンプルの作製・評価を行うことが可能です。この背景には、社内における地金の充実した回収精製・再利用体制があります。仮に実験がうまくいかなくても、使われた貴金属は社内の回収精製プロセスで元に戻すことができるため、思い切ったアイデアをすぐに試すことができるのです。それゆえ田中貴金属には、すぐに現物を作って評価しようという文化があり、今回のブレイクスルーを生んだのだと思います」
顧客のニーズから生まれた新製品
北岡「ふたつめのブレイクスルーは、田中貴金属が持っている技術で複合化(クラッド)を行い、製品として完成度の高いものを作ることができたということです」
パワーデバイス向け「活性金属ろう材/銅 複合材」は、銅材の片側に活性金属ろう材を複合化(クラッド)することによって生まれた製品だ。これは、顧客のニーズに寄り添ってきた田中貴金属だからこそ実現したものづくりだった。
北岡「パワーデバイス向け『活性金属ろう材/銅 複合材』は、製品開発から生まれたものではなく、お客様のニーズを知ることから生まれたものでした。私たちの仕事は、お客様の困りごとや課題をお聞きし、解決することです。あるとき大手電機メーカーの担当者様とお話していると、セラミック回路基板(AMB基板)に課題をお持ちでした。セラミック回路基板でより高い放熱性を発揮するためには、接合する銅板を厚くすることが求められます。しかし、既存の工法であるエッチング(化学腐食)工法ではセラミックへの厚い銅材の電極形成が困難でした。そこで、厚い銅材の電極形成が可能かつエッチングを使用しないでセラミックス回路基板を製造する技術として、先ほどの銀銅スズチタン合金の活性金属と弊社岩手工場の高度な複合化(クラッド)の技術に着目しました。この2つの技術を組み合わせて実際にサンプルを作り、お客様に評価していただいたところ、非常に良い評価を得ることができました。ここから、セラミック回路基板向けの製品としてパワーデバイス向け『活性金属ろう材/銅 複合材』を開発するという方向性が生まれたのです」
こうしたブレイクスルーは、創造力と想像力の交差点で生み出されているという。
北岡「私たちが提供しているのは基本的に、すべてがお客様へのカスタマイズ品です。言ってみれば、私たちの仕事は創造力と想像力の交差点にあります。まずはお客様の課題を解決するために研究開発を行い、応える創造力。次に、そうして生み出したものを、お客様がさまざまに試行錯誤し、使われたあとにどんなことが起きるかに先回りする想像力です。私たちはお客様とともに、創造力と想像力のループを回し、より良いものをより良い形で提供していきます。今回の製品は、そのループの中で生まれたものだと言えますね」
パワーデバイス向け「活性金属ろう材/銅 複合材」は、銅材がすでに複合化されているため、材料をセラミックスの上にセットしてろう付するだけで、セラミックス回路基板を簡単に製造することができる。エッチング作業などが不要となり、プロセスコストの削減が可能になるという。
▲ 活性金属ろう材/銅 複合材(写真中央、右)と、その接合事例(写真左)
貴金属は循環型社会とも相性の良い素材
田中貴金属グループのものづくりは、行き届いた貴金属のリサイクル環境に支えられている。この環境は同時に、これからの循環型社会を支えていく上でも重要だ。
北岡「繰り返しになりますが、弊社では、社内で貴金属地金を循環させる環境が整っています。たとえば製造過程で生じる端材や研究開発で使用した材料などに含まれる地金は、すぐに回収精製の処理が行われ、純粋な金や銀に戻し、再び原料として使用することができます。こうしたリサイクルをワンストップでできる環境は、製品開発におけるメリットを享受できるだけでなく、お客様にも社会にも貢献していけることだと思っています」
パワーデバイス向け『活性金属ろう材/銅 複合材』は、今後さらに大きな市場を形成してゆくEV市場における可能性は非常に大きい。また、パワーデバイスの省エネ高効率化に寄与することで、地球環境にも貢献していく。
北岡「私たちは、接合材でさまざまな素材をつなぐことによって、ひとつの素材では起こせないイノベーションを生み出していきたいと考えています。これまでは、放熱には金属のヒートシンクが使われることが一般的でした。しかし現在、金属よりも放熱性の高い材料が世の中で数多く開発されています。こうした新しい材料を異なる材料とつなぎ合わせることでイノベーションを生み出していくプロセスに、活性金属ろう材を応用していくことができます」
岸本「田中貴金属はそうしたイノベーションを、すでに循環型になっている開発・製造現場から実現していくことができます。貴金属は、循環型社会と相性の良い素材です。たとえば、有機材料は製品から原料に戻すことが困難ですが、貴金属は元に戻すことができる。製品として活用された金や銀などの地金がすべて再生される社会も実現できるのではないか、と思っています。いま社内で使用した地金のほぼすべてが処分されることなく、100%に近い割合でリサイクルされていますが、これからは社会全体で地金を循環させていけたら素晴らしいと思います」
田中貴金属は、この地球の恵みである貴金属によって、これからも社会にイノベーションを創出し、地球環境を守っていく。
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