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インタビュー 田中貴金属工業(株) 取締役専務執行役員 化学回収カンパニー プレジデント 袖山幸郎氏 リサイクルで安定供給を実現 先端素材で脱炭素に貢献

  • TANAKA
  • 技術
2022/11/22

2022年11月10日 電子デバイス産業新聞

田中貴金属工業(株)(東京都千代田区)は、貴金属を取り扱うスペシャリストとして「貴金属を究める」をスローガンに掲げ、貴金属を中心とする材料の研究開発や安定供給を行う事業を展開している。なかでも、カーボンニュートラルの実現に寄与する事業を最も多く手がけるのが化学回収カンパニーだ。取締役専務執行役員 化学回収カンパニー プレジデントの袖山幸郎氏に事業の概要や取り組みを聞いた。

―化学回収カンパニーの概要から。
袖山 第一の使命は、貴金属の回収を通じて地金を安定的に供給することだ。市川工場(千葉県市川市)で白金系、湘南工場(神奈川県平塚市)で金・銀系を中心に回収事業を手がけている。当社は様々な国から集荷してリサイクルしており、日本を中心として、台湾には15年前から進出しているほか、2016年にグループ会社化したスイスのメタローテクノロジーズの海外拠点でも集荷・回収・精錬にも力を入れ、グローバル化を進めている。

次に、CCCR(ケミカルコンパウンド+触媒+回収・精錬)の技術を中核として、これに基づくペーストや燃料電池用触媒など、多岐にわたる製品を販売している。半導体向けでは、放熱性の点からパワーデバイスに銀ペーストの採用が伸びており、海外メーカーとタイアップしながら開発している。湘南工場とシンガポールにラボを持ち、ここで製造して一部の製品は出荷も開始した。

―事業の状況は。
袖山 付加価値ベースでみた場合の事業構成比は、回収が約6割、ライフサイエンス向けを含めたペーストなどの製品が約2割、燃料電池用触媒などの化成品が約2割という構成だ。

なかでも近年は特に、①回収事業のグローバル化、②カーボンニュートラルへの貢献、③新しいライフサイエンスを支える技術革新に注力する。

―①について。
袖山 貴金属価格の高騰に伴い、顧客の資金負担が非常に大きくなっているため、資源の有効活用と、それを迅速に供給することの重要性がますます高まっている。遠距離の輸送はコストがかかるため、リサイクル品の価格競争力を維持するためにも、どこに精錬工場を配置するのかが非常に重要なポイントになる。このため、22年前半の世界的な物流網の混乱にはとても苦労した。

その一環として、7月に台湾・湖口工場に約35億円を投資して新棟を建設することを決定した。床面積を約6倍に拡大し、25年上期に稼働させる予定だ。リサイクル事業の拡大で貴金属材料を安定的に供給し、台湾半導体産業への貢献も見込んでいる。

一方で、中国は貴金属の輸出入にかなり制限があり、リサイクルに使用する薬品や回収した金属の輸送・輸出など、それぞれにライセンスが必要で、これを取得するのも難しい。

―回収・リサイクル事業の今後について。
袖山 回収効率を上げる技術開発、最適な回収工場の配置、集荷の能力を上げることがテーマになる。湘南、市川の両工場での処理対象のうち、海外から入ってくるのが6割。なかでも大きいのは自動車の排気ガス用触媒のリサイクルで、これは全世界から集荷している。DOWAグループとの合弁会社である日本ピージーエムで手がけており、DOWAグループが精錬、当社が分離・回収を行っている。詳細はお話しできないが、当社が持つ技術は白金の濃縮率を非常に高くできることが差別化のポイントになっている。

―②に関して。
袖山 燃料電池用の電極触媒を全世界に製造・供給しており、世界№1シェアを獲得している。また、水素を製造するための水電解電極、水素を酸化して水に戻す水素酸化触媒も研究開発を進めている。ほかに、CO2を原材料にしてメタンを製造する触媒や、水素を輸送するための触媒、人工光合成に関わる触媒も開発中だ。

今後は、燃料電池の普及に伴う回収スキームの構築が課題になる。回収技術の開発にはめどが立ちつつあるが、課題は集荷で、当社だけでは対応できない。自動車メーカーと一緒になったスキーム作りが重要であり、すでに一緒に議論をし始めている。分離・精錬を海外パートナーと手がけるケースが将来的には出てくるかもしれない。

―③については。
袖山 医療系のインプラント型体内センサーや、その電極材料が重要になる。まだお披露目できるような製品は持ってないが、海外の大学とも連携して開発に取り組んでおり、今後に期待していただきたい。

―今後の抱負を。
袖山 貴金属は昔から科学的安定性や物理的加工性のしやすさから、その時代の最先端で使われてきたため、今後も無限の可能性があると信じている。非常にハードルは高いが、カーボンネガティブ、カーボンマイナスに寄与するような素材を開発し、微力ながら世界に貢献したい。ぜひ当社に様々な相談をお寄せいただきたい。

(聞き手・特別編集委員 津村明宏)

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