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科学者の「ごみゼロ」スマートフォンへの夢
2018年5月22日 by Nexus Media
オリジナルは「Nexus Media」に掲載。
著者 Marlene Cimons
あなたはどれくらいの頻度で、古いスマートフォンを新品に買い換えているだろうか? 2~3年ごと? それとも毎年? 電話会社はどこも、古いスマートフォンから最新型への買い換えを簡単にできるようにしている。だが、そうして捨てられたスマートフォンは大量のゴミを生み出している。多くの部品が、埋め立て地や焼却炉行きになっているのだ。
スマートフォンを廃棄する際、ごくわずかの材料だけがリサイクルされる。そのほとんどは、他の製品を作るのに利用できる、金、銀、銅、パラジウムといった価値のある金属だ。しかし、その他の材料、つまり、スマートフォンの回路基板の大部分を占めるガラス繊維や樹脂は、多くの場合ごみ集積場に運ばれる。そしてそこから、有害な化学物質が地下水、土壌、大気中に漏れ出す恐れがある。
最新の電子機器に対する消費者の需要は、大量の電子ごみ(e-waste)の一因であり、そのなかでもスマートフォンは最大の問題となっている。国連は2006年、世界中の電子ごみは年間約5000万トンと推定した。こうした製品が投棄または焼却されると、それらは温室効果ガスを大気中に放出する。しかも、そもそもこうした製品を作ること自体、温室効果ガスを放出しているのだ。
ブリティッシュコロンビア大学博士課程の大学院生アミット・クマールは、「新しい製品を作るには、水、土壌、電力、燃料、その他の天然資源が必要です」と述べる。「使用済みの電子機器をリサイクルせずに埋め立て地へ投棄するのは、そうした資源を無駄にすることです。最も重要なのは、リサイクルや再加工への意識を高めつづけること、そして、電子ごみだけでなく他のごみもリサイクルすることを最終目標とした、ごみゼロのシナリオを作ることです」
クマールと、この研究チームのリーダーで、ブリティッシュコロンビア大学で鉱山工学のアシスタント・プロフェッサーを務めるマリア・ホルシュコを含む、クマールの研究チームは、スマートフォンの回路基板に最初の焦点を当て、ガラス繊維を樹脂から分離する方法を開発した。
この分離は、かつては不可能に近いとされていた課題であり、この2つの物質がほとんどリサイクル不可能とされていた理由だ。再利用できるようにするためには、まずは2つを分離しなくてはならない。
科学者たちは、自分たちの研究が、「ごみゼロ」スマートフォンを開発するために用いられることを望んでいる。彼らは論文を、『Waste Management(廃棄物管理)』誌で発表した。
以前、他の科学者たちによっておこなわれた、ガラス繊維を樹脂から分離する試みは、化学薬品、熱または物理的方法を用いたものだが、クマールはそれらの方法は「エネルギーを使いすぎる」と言う。こうしたアプローチでは、「素材の価値が低く、プロセスは費用効果が良くない」と彼は述べる。
一方、彼らのプロセスでは、「比重分離(gravity separation)」という技術を用いる。そして、有機樹脂を無機ガラス繊維からきれいに取り除くわけだが、ホルシュコはこのプロセスについて、「環境を損なわない」と述べる。
カナダのバンクーバーに本拠を置くRonin8 Technologies社が開発した手法は、音波を用いて分離を実現するものだ。科学者チームは、まず物質の比重を計算し、それからその物質を音波反応容器(Sonic chamber)内の再利用水の中で循環させる。音波振動は基本的に、物質を互いに「遊離」させるのだ。
「ここで重要なのは比重分離です。ガラス繊維と樹脂を、それぞれの比重の差を利用して、効率よく分離するのです」とクマールは述べる。「取り出されたガラス繊維はその後、建築材や断熱材の原材料として使用できます。将来、リサイクルガラス繊維の品質を改良する方法が見つかれば、新しい回路基板を作るのに適したものにすら、なるかもしれません」
中国が最近、廃棄物輸入を大幅に抑制したことを受けて、この研究はいっそう重要になってきた、と研究チームは述べる。「電子機器リサイクルのもっと優れた管理方法が必要です。電子ごみから価値のある素材を入手するための、コスト効率の良い、環境に配慮した手法は、そうした方向へ向けた望ましい一歩となるでしょう」とホルシュコは語る。
研究チームは、Ronin8社の施設と連携して、この手法を大規模に製品化するプロジェクトに取り組んでいる。同社は、大量の電子機器廃棄物に含まれる種々のプラスチックと、繊維と、金属とを、有害な化学薬品を使用せずに、また貴重な金属を失うことなく分離できるような、環境に配慮した手法の促進を模索している。
Ronin8社の技術責任者トラヴィス・ジャンキは、同社の目標は、電子機器のごみゼロのためのソリューションを得ることによって、「従来の電子ごみ処理方法に内在する欠点に取り組むこと」だと語った。
クマールは、スマートフォンに重点を置いていると述べた。スマートフォンは他の製品と比べて価値が高く、寿命が短いからだ。「とはいえ、この研究で使用されている材料は、スマートフォンだけでなく、ノートパソコンやデスクトップパソコン、プリンター、その他小型の家庭用電子機器から入手した回路基板です」と彼は言う。
ごみ問題は深刻化しているが、クマールは、「テクノロジー的な進歩や向上を止められるとは、われわれは思いません。ハンドルを切って元の場所に戻ることはできないでしょう」と述べた。「こうしたテクノロジーを使うことには多くの利点があります。教育面、コミュニケーション面、社会的、政治的な面を含めて、その影響ははかりしれません」
しかしながら、消費者や製造業者などは、研究の枠を超えた問題の解決策を見出すために、協力し始める必要があるとクマールは言う。つまり、消費者が新しい製品を求めて古い製品を捨てた後に起こることに対して、製造業者はいままで以上に責任を持つべきであり、持続可能な再処理技術を開発しなくてはならないということだ。さらに消費者は、電子機器を捨てることから生じる影響に対して、もっと敏感にならなくてはならない。
「そんなに頻繁にガジェットを買い換える必要が、本当にあるのでしょうか? わたしたちは、製品寿命が終わったときにそれらを安全に捨てる方法について、もっと意識する必要があります。古い製品を、新しい製品を作るための二次原料に変えられる技術を開発する必要があるのです」とクマールは語る。「電子機器を愛してやまず、それなしには生きていけないと言っても過言ではないような、この新たな依存の時代に対して、わたしたちは科学者や技術者として解決策を探さなくてはなりません。それは一夜にして実現することはないでしょうが、歩みを進めなくてはなりません。さもないと、目標には決して到達できないでしょう」
許可を得て転載しています。
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著者について
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この記事は、NextMediaが執筆したCleanTechnica の記事で、NewsCred パブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comまでお願いいたします。