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世界を変えつつあるナノマテリアル:安全性をどう確認するのか

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AnuchaCheechang

シャリーン・ドウク、マルティナ・G・ファイファー、マーティン・クリフトという専門家チームが、環境や人体に対するナノマテリアルの安全性確保をめぐる、さまざまな問題について説明する。

ナノテクノロジーは、この数年で最も話題になった産業のひとつだろう。2025年までに全世界で1739.5億ドル(約192650億円)規模に成長すると予測される、この動きの速い産業部門は、すでに持続可能性、健康、快適な暮らしなどの面で大きな恩恵を社会にもたらしている。

ナノマテリアルは、その名が示す通り非常に小さく、1000万分の1メートル足らずの大きさだ。特異な物理的・化学的特徴を持つことにより、反応性、強度、電気的な特性や機能性の上昇などの特性の向上がもたらされている。

こうした利点を有する結果、ナノマテリアルは多種多様な消費者向け製品に組み込まれるようになった。自動車、コンピューター、エレクトロニクス、化粧品、スポーツ、医療などの産業はみな、ナノテクノロジーによる技術革新から恩恵を受けている。また、病気を治療する能力を劇的に向上させることを目的とした、ナノ薬剤などの新分野も登場している。

どんな技術革新もそうであるように、ナノマテリアルについても、心躍る感じがある一方で、人の健康と環境への影響を確実に考慮に入れなければならない。そしてこれは、決して簡単な作業ではない。化合物などの幅広い対象に対して利用可能な、標準的な有害性評価は存在するが、ナノマテリアルは特異な性質を持つため、まったく同じ方法で評価することは不可能だ。

ナノマテリアルはすでに、低濃度ではあるが、環境に侵入している。練り歯磨き粉や日焼け止めなどの製品が含まれた下水や、(足の臭いを防ぐため)銀ナノ粒子を含む靴下などの製品を洗濯した際の排水などに、ナノマテリアルが含まれているのだ。

また、藻類やミジンコなどの生物の表皮の表面に、多くのナノマテリアルが薄膜を形成して吸着することが、短期間の環境安全性調査で明らかになった。さらにナノマテリアルは、微小生物の消化管系内のみならず、体全体にも分布している。

環境への広範囲の拡散が起こる前に、ナノマテリアルの潜在的な悪影響について把握することが極めて重要になる。しかし、現在のところ、ナノマテリアルへの暴露が生態系に及ぼす長期的影響については、不明な点が多い。食物連鎖に及ぼす影響に関しても同様で、さまざまな生物種の摂食率や、行動、生き残りなどに影響が及ぶ可能性がある。

また、人間が少量のナノマテリアルに長期間さらされた場合にどのような影響を受けるかについても、まだ十分に明らかにはなっていない。ナノマテリアルは食品やその包装に組み込まれており、製造中に作業員がそれらを吸入したり飲み込んだりする可能性もある。ナノマテリアルが体内に入れば、肝臓で捕捉されることが実験で示されているが、それがどのような長期的なリスクを及ぼすかについては不確かだ。

人間の肺、消化管、皮膚などへの暴露に対して現在行われている標準的な非動物実験は、非常に単純化されたものだ。例えば、ナノマテリアルの吸入による生物学的影響を測定するために、科学者たちは単一の肺細胞系を実験室内で培養してから、それを液体中に懸濁するナノマテリアルに暴露させる。だが、人間の肺には40種類以上のさまざまな細胞型が存在する。この種の実験では、ナノマテリアルへの暴露に関連する潜在的な悪影響を正確に予測したり、人体の複雑性やナノマテリアルとの接触の仕方などを、正確に再現したりすることは不可能だ。

世界はすでに、新たな技術革新に伴って生じる諸問題について経験してきた。例えば、何千年も前から利用されてきたアスベスト(石綿)は、1900年代になってようやく病気の原因となることが発覚した。賛否両論を巻き起こした遺伝子組み換え食品の開発や、大きな話題となっているマイクロプラスチック危機などの経験を考えると、ナノテクノロジーの進歩が、同様の健康危機をもたらさないようにすることは非常に重要だ。

われわれの研究チームは現在、「PATROLS」プロジェクトを通じて、ナノテクノロジー実験の向上に取り組んでいる。欧州連合が主導する研究助成プログラム「ホライズン2020」から資金を受けてのことだ。

この目的は、ナノマテリアルの安全性、環境毒物学、組織工学、計算機モデル化などに関する一流の専門家を世界中から集結させ、国際的なベストプラクティスを構築し、現行の実験の限界に対処することだ。

研究では、ナノマテリアル安全性評価のために、肺や消化管、肝臓の高度な組織モデルを開発する目的で、最先端の科学的知識をすでに導入している。現在、環境的に適切な実験システムと、藻類、ミジンコ、ゼブラフィッシュなどを含む試験生物のための、新たな安全性評価手法の開発に取り組んでいるが、これらの生物は、食物連鎖における地位に従って選択されている。こうした次世代の非動物実験は、動物実験への依存を軽減すると同時に、ナノテクノロジー産業の責任ある成長を促進することを目的としている。

こうした取り組みに加えて、人間や環境に対するナノマテリアルの安全性を、コンピューターモデルに基づいて予測する方法の開発にも取り組んでいる。これにより、新たなナノマテリアルに対して、最初の安全性検査としてコンピューターのデータベースを用いたスクリーニングを行った上で、追加試験を実施することが可能となる。

また、ナノテクノロジーを対象とする非動物実験を向上させることで、ナノテクノロジーが潜在的に引き起こすと考えられる健康上または安全性のリスクから、消費者や労働者や環境を守る助けとなる可能性がある。ナノテクノロジーがわれわれの生活の質を高める見込みがあることは、すでに明らかになっているが、その安全性に関する理解を向上させることで、この新技術がもたらす恩恵を、より自信を持って享受できるようになるだろう。

ドウク教授は、英スウォンジー大学で遺伝毒性学とがんを研究している。クリフト博士は同大学の上級講師で、ファイファー教授は、オランダ・ライデン大学で環境毒物学の教授を務めている。

 

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この記事は、Western Mailを出典とし、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comまでお願いいたします。