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気候変動は金融危機をも引き起こす
(Bloomberg Opinion)―─アメリカの金融システムを統括する人々は、気候変動を自らの問題としてとらえていないようだ。2019年5月に開かれた上院議会公聴会の席上で、ある当局関係者は、自分は「気象学者でも気候科学者でもない」という皮肉を口にした。
彼らはその考えを改めるべきだ。金融規制当局が何の対応策も講じないことで、アメリカは破滅的な危険にさらされている。
銀行から保険会社、資産運用会社にいたるさまざまな金融機関は、社会的責任の問題という枠をはるかに超えた気候関連のリスクに直面している。きっかけが自然災害や強制移住か、あるいはエネルギー利用を一変させる断固とした行動かはわからないが、いずれにせよ、金融機関は数兆ドルにも上る累積損失に見舞われるおそれがあるのだ。
損失をもたらす原因としては、浸水地帯に住む住民たちの住宅ローン返済不履行や、人々が住めなくなった地域における投資への関心低下、閉鎖された石炭火力発電所の不良債権などが考えられる。
さらに厄介なのは、気候変動を悪化させている業界に、金融セクターが資金を供給して問題を悪化させていることだ。過去3年間だけを見ても、米銀行の最大手6行は、化石燃料業界に対して7000億ドル以上を融資している。大手保険会社が2016年時点で石炭、石油、ガスならびに関連事業などへ投資した額は5280億ドルだった。
一部の金融仲介機関は、炭素排出量の多いセクターへの投資を減らしている。しかし、複数の資産運用最大手は2016年から2018年にかけて、そうしたセクターの銘柄の保有を20%増やした。さらに、アメリカの資産運用会社トップ3は、石炭関連銘柄の最大保有企業に名を連ねている。
長期的な影響を適切に考慮せずに、炭素排出量の多い事業に進んで資金を提供するこうした姿勢は、温室効果ガス排出量を正味ゼロに削減するという目標の達成を危うくしている。そうした個別の業界間に存在する資金調達をめぐる格差に対処しなければ、化石燃料によるエネルギーとクリーンエネルギーの生産量の差を縮めることは決してできない。
ある推定によれば、気温上昇を2度以内に抑えるためだけでも、今後毎年40年にわたって毎年2000億ドルもの資本を再配分しなければならないという。気温上昇を2度未満に抑えるというシナリオはパリ協定で描かれたものだ。
そうした出費が今後何十年にわたって行われるのであれば、適応する時間は十分あると考えて胸をなでおろす人がいるかもしれない。しかし、安心してはならない。環境がどのように変化し、政策がどう対応するかはもともと予測できることではないし、市場は全業界の展望を不意に見直す傾向がある。混乱は世界全体で急に発生し、何の前触れもないかもしれない。
そうした筋書きを、イングランド銀行(Bank of England)の総裁マーク・カーニー(Mark Carney)は「気候版のミンスキー・モーメント」と呼んだ(金融における「ミンスキー・モーメント」とは、バブルの形成から崩壊に転じる局面を言う)。現時点ではあくまでも推測でしかないが、その損害は想像を超え、2008年の金融危機以上になる可能性がある。
金融機関は、そうした事態に備えて自らのやり方を変える必要がある。そのためには、彼らが想定するリスクを正確に評価しなくてはならない。そこで出番となるのが規制当局だ。当局側ができることにはたとえば、銀行健全性審査の項目に気候変動を盛り込むことや、損失発生時を乗り切るために必要な資本を金融機関が持たない場合に、株主への配当金支払いを制限することなどがあるだろう。
規制当局は、資本要件を直接的に引き上げ、環境的な投資を行う際には銀行側がより直接的に関与するよう義務づけることも可能だ。システミック・リスク(個別の銀行などで発生した機能不全が波及するリスク)が生じた場合に監視と対応を担う米金融安定監視委員会(FSOC)も、銀行システム外の気候変動関連リスクを軽減させることに注力すべきだ。
残念ながら、そうした権限やほかの影響力を、それを活かす気のない監視委員会が握っているようでは何の役にも立たない。現在のアメリカの金融監視機関は無気力だが、それとまったく対照的なのが、国際通貨基金(IMF)や、イギリス、フランス、オーストラリアの中央銀行だ。彼らは危機を認識して備えようとしている。
とはいえ、いままでを見ると、最も意欲的な提案でさえも、主眼となっているのは、情報開示の推進と、気候危機に関する監視についての取り組みだ。そして、最も問題視されている業界はすでにおおかた法律を順守しているという事実を見れば、そうした取り組みが十分とは言えないことは明らかだ。
当局は、より積極的な対応策を講じなくてはならない。そうしなければ、カーボン・バブル(化石燃料資産の価値が過大評価されていること。このバブルが弾けると新たな金融危機が発生する危険性がある)は膨らみ続け、いつか弾けてしまう。その際の金銭的損失は、実際の経済に順次影響を及ぼし、一般市民の退職金ファンドが脅かされる可能性がある。多くの一般市民は、自分たちの年金ファンドが危うい銘柄だらけで構成されていることに気づいてさえいない可能性がある。
有効な規制を課せば、クリーンエネルギー経済への移行がスムーズになり、製造業で働く人々や、弱い立場にあるコミュニティを守ることができる。反面、躊躇していれば、前回の金融危機を引き起こした人為的な過ちよりもずっと大きな脅威に、世界はさらされてしまうだろう。科学は交渉可能な取引相手ではないし、地球は書き直しが可能な契約ではない。気候的な破滅に対応するための緊急救済措置は存在しないのだ。
当記事執筆者の連絡先:Gregg Gelzinis、Graham Steele
当記事担当編集者の連絡先:Mark Whitehouse:mwhitehouse1@bloomberg.net
本記事は、Bloomberg LPならびにその親会社の意見を必ずしも反映したものではありません。
Gregg Gelzinisはアメリカ進歩センターの政策アナリストです。
Graham Steeleは、スタンフォード大学経営大学院Corporations and Society Initiativeのディレクターを務めています。これまでに、サンフランシスコ連邦準備銀行職員、ならびに、上院の銀行・住宅・都市問題委員会の少数党主任顧問を歴任しています。
©2019 Bloomberg L.P.
この記事は、BloombergのGregg GelzinisとGraham Steeleが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comまでお願いいたします。