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Courtesy Spencer Lowell—Plenty

起業家が主導する、数千年ぶりの食の革命

  • 未来
2020/3/16

人類は何千年も前から、ほぼ同じ方法で食料を手に入れてきた。野菜や果物の種をまいて成長するのを見守り、生まれた家畜を育てて屠殺する――。自然が、ほどよい量の雨と太陽光をもたらしてくれるのを願いながら。

いまは、もっといいアイデアがあると起業家たちは口をそろえる。現行の農業は、地球にとって好ましくないというのだ。畑や牧草地が、木を植えられる土地を占拠している。水は貴重さを増しているというのに、農業のために大量に吸い上げられている。それならば、まったく異なる方法で食料を生産しようではないかと起業家たちは考えた。たとえば、超高層ビルでレタスを栽培し、ペトリ皿のなかで、細胞組織から肉を培養できるかもしれないと。

私たちは、早急に食料の生産方法を変える必要性に迫られている。100人以上の専門家が参加して作成された2019年8月の国連報告書は、土地と水の収奪によって、人間の食料自給力はすでに圧迫されていると警鐘を鳴らした。その状況は、世界人口が2050年に97億人に達し、気温上昇と洪水の発生によって一部の地域で作物の栽培がますます困難になれば、さらに深刻化するだろう。

そのため、使命感に駆られた起業家たちと資金提供者たちは、フードテックこそが究極の投資チャンスだと見ている。お金を稼げると同時に、地球をよりよい場所にするかたちで食料が生産できるのだから。

こうして、人々の食卓に載る食料を改革すると約束する企業に対して、数十億ドルもの資金が注ぎ込まれてきた。世界の未公開株式投資やベンチャー投資の動向を追跡するピッチブック(PitchBook)によると、植物から肉や乳製品を生産する企業は47以上に上っている。インポッシブル・フーズ(Impossible Foods)やビヨンド・ミート(Beyond Meat)を含むそれらの企業は、ここ10年で、ベンチャー投資家から22億9000万ドルもの資金を調達。その4分の1は、2019年1年間で投資されたという。

植物由来の代替肉を生産するビヨンド・ミートの商品は、食料品店で販売されているほか、ダンキンドーナツ(Dunkin’)やTGIフライデーズ(TGI Fridays)などのチェーンレストランで提供されている。ビヨンド・ミート株式の現在の取引価格は、新規株式公開(IPO)直後の約3倍だ。ほかにも、細胞を培養して肉や魚のようなたんぱく質を生産しようと試みる企業が40社近く存在する。

オランダのモザ・ミート(Mosa Meat)や、米サンディエゴのブルーナル(BlueNalu)などは、11億ドルを資金調達した。その大半が過去5年以内に投資されたとピッチブックは述べている。資金のほとんどはベンチャー投資家から集まっているが、ごくわずかとはいえ、オランダや日本、ニュージーランドなどの国々は、培養肉の研究に公的資金を提供している。

フィンランドのソーラー・フーズ(Solar Foods)は、イースト菌の製造方法と似た微生物の発酵プロセスを利用して、小麦粉のような粉状のたんぱく質を生産している。材料は、水とミネラルなどの栄養素、そして二酸化炭素だ。

スタートアップは、肉以外にも目を向けている。カリフォルニア州のプレンティ(Plenty)や、ニュージャージー州のアエロファームズ(AeroFarms)などは、垂直農場と呼ばれる密集したタワー型装置で植物を育てる屋内農業企業だ。資金調達額は、合計で3億ドル以上。

 競合するクロップワン(Crop One)は、エミレーツ航空ケータリング(EKFC)と提携し、アラブ首長国連邦のドバイに、広さ13万平方フィート(約1万2000平方メートル)の垂直農場を建設している。完成すれば世界最大になる見込みだ。

コオロギが原料のプロテインバーや、コオロギの丸ごとローストを製造・販売しているエクソ(Exo)は2018年、同業のアスパイア・フード・グループ(Aspire Food Group)に買収された。栄養代替飲料メーカーのソイレント(Soylent)は、これまでに7000万ドル以上の資金を調達している。

ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SoftBank Vision Fund)のパートナーで、垂直農業企業プレンティへの投資を進めたジェフ・ハウゼンボールド(Jeff Housenbold)は、「われわれは、食料開発のブレイクスルーを目前にした過渡期にいる」と語る。

とはいえ、スタートアップに投入される何十億ドルもの資金によって農業が変革されるのは、かなり先になるかもしれない。細胞から魚やステーキ肉を培養できると公言する企業の多くが、今後10年で実際に大規模生産にこぎつけられるかについては、一部の科学者が疑問を呈している。植物由来肉のメーカーは、数百万人もの消費者に商品を提供するようになったとはいえ、従来の肉と同じくらい満足できる味のハンバーガーを実現するのに苦労している。

また、垂直農業は運営コストが高い。植物に光を当てるためには電力が必要だからだ。従来の農業なら、太陽光だけは無料だ。

スタンフォード大学・食料安全保障と環境センター(Center on Food Security and the Environment)のディレクター、デヴィッド・ロベル(David Lobell)は、「農産業を破壊的革新するためにかかる時間の尺度は、ソフトウェア業界とは違う」と指摘する。「テック業界から農産業へと移ってきた人たちはしばしば、変化の速度(の遅さ)に不満を抱く」

気候変動という懸念材料があるにもかかわらず、消費者たちには、自らの食習慣を変えようと急ぐ様子は見られない。10年以上前に国連が発表した報告書で、メタンガス全排出量のうち、家畜による排出が35%から40%を占めることが明らかになった。これを受けて、米紙『ボルチモア・サン』をはじめとする新聞が、「野菜中心の食生活で地球を救おう」と消費者に呼びかけた。

それ以降も数々の報告書で、肉食が気候変動の一因だと示唆されてきたが、肉の消費量は上昇を続け、アメリカでは過去最高に達している。世界全体の肉消費量も、2017年までの10年間で、年平均1.9%のペースで増え続けている。このペースは、人口増加の2倍だ。

フードテックのスタートアップ各社に注ぎ込まれる投資は、気候問題の解決に自分もひと役買いたいと考える投資家たちの希望的観測を反映しているのにすぎないかもしれない。たとえ消費者があとに続いてくれなくてもかまわない、と。

Meat Planet: Artificial Flesh and the Future of Food(ミート・プラネット:人工肉と食料の未来)』(未邦訳、2019年9月)の著者ベンジャミン・アルデス・ウルガフト(Benjamin Aldes Wurgaft)は、「新しいテクノロジーが、子孫の生命を脅かす重大問題を解決してくれるかもしれないという考え方はとても魅力的だ」と話す。「人間は、無力感を抱くことをとても嫌う。いつでも、何らかの手段を手にしていたいのだ」

8月に発表された国連報告書には、農業システムが気候変動にどれほど影響を与えているかを示す数値が盛り込まれた。それによると、人間が排出する温室効果ガスの21%から37%が、農業と食品加工に起因している。土地の利用法を変えて、牛を放牧する代わりに木をもっとたくさん植えるなどすれば、気候変動を緩和できると話すのは、同報告書の著者のひとりで、米航空宇宙局(NASA)ゴダード宇宙科学研究所の上級科学研究員であるシンシア・ローゼンツヴァイク(Cynthia Rosenzweig)だ。

とはいえ、地球人口は増え続けている。食料生産のために、木々は植えられるのではなくむしろ伐採されている。「気候変動の緩和と食料確保とのあいだで、本格的な競争が起きる可能性がある」とローゼンツヴァイクは言う。

アエロファームズ(Aerofarms)の屋内垂直農場では、LED照明の下で葉物野菜が栽培されている。

フード系スタートアップは、自分たちが環境に及ぼすメリットを売り込むのに余念がない。ブルーナルは、細胞から魚肉組織を培養することで、魚の需要が増え続けている時代に、魚の乱獲を防止しようとしている。

垂直農法を行うプレンティは、通常はサッカー場ほどの面積の畑で収穫される果物や野菜を、サッカーゴールほどのスペースで栽培できると自負する。また、使用する水量は、通常の畑の1%から5%に抑えられるという。

緑豆を使った植物由来の液体卵「ジャスト・エッグ(Just Egg)」は、生産時に必要な水と二酸化炭素の量が、牛肉や豚肉、鶏肉、さらには豆腐のようなほかのたんぱく質を生産する際と比べて、ごくわずかで済む。

フードテック企業によれば、若い世代のほうが年配者よりも地球に関心を持っているため、気候に優しい食品を選ぶという。ミシガン州立大学が実施した調査では、植物由来肉をすでに食べていると答えた消費者全員のうち、半分近くが40歳未満だった。

フードテック企業はまた、自分たちの製品のほうが健康にいいと話す。従来の肉にはコレステロールが含まれている一方で、植物由来肉と同じような食物繊維や複合炭水化物は含まれていないと話すのは、培養肉と食物由来肉を推奨するグッド・フード・インスティチュート(Good Food Institute)のエグゼクティブ・ディレクター、ブルース・フレデリック(Bruce Friedrich)だ。また、プレンティなどの企業によれば、地元にある垂直農場で栽培された作物は新鮮であるため、もっと好まれるようになると見られるし、屋内で栽培されているので殺虫剤も不要だという。

一方で、従来の食品を製造するメーカーは、あらゆる手段でフードテック企業に挑んでいる。食品メーカーやレストランから支援を受けている非営利団体「Center for Consumer Freedom」は、消費者に向けて、「植物由来肉には何が隠れているのだろうか」と疑問を投げかける全面広告を『シカゴ・トリビューン』紙に掲載。植物由来肉とドッグフードを比較しているウェブサイトを見るよう促した。

メキシコ料理のファーストフードチェーン、チポトレ(Chipotle)の最高経営責任者(CEO)ブライアン・ニコール(Brian Niccol)は、代替肉はチポトレのメニューに「適さない」と述べた。植物の味を肉のような味に変えるためには「加工」が必要だからだという。

複数の米連邦議員は、全米肉牛生産者・牛肉協会(NCBA)のバックアップを受けて、植物由来肉と培養肉のメーカーに対し、商品ラベルに「模造品(imitation)」と明記することを義務づける法案を提出した。これは数十の州が、植物由来肉メーカーに「模造肉(imitation meat)」と明記することを義務づける法案を可決または提出したのを受けたものだ。

植物由来肉のメーカーが味と健康面で壁に突き当たっていることから、培養肉業界に参入する起業家が増えている。とはいえ、細胞から培養された肉が広く一般消費者に提供されるのは、まだまだ先のことかもしれない。培養肉を生産する際にはまず、牛などの動物に麻酔をかけてから筋肉を切開し、小さな組織サンプルを採取する。次に、科学者が酵素を用いて、その組織を筋肉細胞と脂肪細胞に分解。それらは、増殖するための培地と一緒に、ビール醸造用の発酵タンクのような見た目のバイオリアクターに入れられる。そのなかで細胞が増殖していくわけだ。

しかし、細胞から肉を培養する工程は、まだ小規模でしか行われていない。ウシ胎仔血清(要するにウシの胎児から採取した血液)などの成分が含まれた増殖用の培地は高額だ。そのうえ、大きな容器のなかで増殖する細胞に、酸素と栄養を十分に行き渡らせることに、科学者たちは苦労している。

細胞培養肉メーカーで、そうした問題を克服する方法を解明した企業はひとつもないと指摘するのは、カリフォルニア大学バークレー校・代替肉研究所(Alternative Meats Lab)リサーチ・ディレクターのリカルド・サン=マーティン(Ricardo San Martin)だ。培養肉メーカーは話をはぐらかしてばかりいると、サン=マーティンは語る。「Aについて尋ねても、返ってくるのはBについての答えだ」

細胞から培養肉を作るプロセスを一般消費者向けに「大規模化できるのは当分先だ」とサン=マーティンは言う。「もしかしたら、そうした時代は永遠に来ないかもしれない」

培養肉研究に関しては、公的資金で行われているプロジェクトはほとんど存在せず、民間企業は自身の培養方法を公開していない。ところが、培養肉スタートアップは、評価額が高いにもかかわらず、認められた特許はごくわずかだと指摘するのは、特許事務所キルパトリック・タウンゼント(Kilpatrick Townsend)の知的財産専門弁護士ババク・クシャ(Babak Kusha)だ。

規模拡大の問題を抱えているのは、垂直農業業界も同じだ。2016年と2017年にはすでに、垂直農業スタートアップ2社が廃業に追い込まれている。

植物は、光合成するために光をたくさん浴びなくてはならない。その量は、人間が必要とする量の50倍以上だと、コーネル大学の植物科学教授で、垂直農法について大規模研究を行っているニール・マットソン(Neil Mattson)は述べる。垂直農場では、LED照明を用いて植物を育てている。LED照明の価格は近年、大幅に低下したが、ニューヨークやシカゴにある垂直農場で栽培されたレタスは、カリフォルニアで露地栽培されて両都市に輸送されたレタスと比べて価格が2倍であることが、マットソンが共著者を務めた研究で明らかになっている。

ニューヨークとシカゴでは、人件費がかさむうえに、垂直農場が収容されている建物は建設と維持にコストがかかる。垂直農業企業は、太陽光や風力発電を利用して電気代を削減しようと実験している。しかし、再生可能エネルギーの価格が下がらない限り、垂直農場のコスト効率は改善しないだろうとマットソンは考えている。

フードテック企業は、すぐにでも大きな変化が起きると話す。モチーフ・フードワークス(Motif FoodWorks)は、ボストンにある、船舶修理用乾ドックを見渡す場所にある研究室で、動物性を含まない食材を増産しようとしている。合成生物学の進歩の力を借りて、イースト菌に遺伝子を挿入し、動物性を含まない乳たんぱく質分離物のようなものを作り出そうとしているのだ。植物由来食品がよりおいしくなる食材であり、これがあれば、アーモンドミルクがもっとクリーミーになるかもしれない。

モチーフ・フードワークスの研究室では、コンピューターを利用したマシンを使い、鉛筆ほどの細さの試験官のなかで、素材をあれこれ操作している。その光景は、アメリカの田舎町にある泥だらけの牧場で、大手企業が牛乳から乳たんぱく質分離物を抽出しようとする光景と、非常にかけ離れたものだ。しかし、モチーフ・フードワークスのマイケル・レオナード(Michael Leonard)最高技術責任者(CTO)は、同社のようなやり方こそが食料の未来だと話す。

ゲノム配列決定にかかるコストは劇的に低下したし、たんぱく質の代替源を見つけるために行うゲノムのコンピューター解析は精度が向上している。同社は、2021年までに食料品大手への販売を開始することを目指している。そのころには、テクノロジーと食品が交わることに関する消費者の違和感は、いまよりずっと減っているだろう。

レオナードCTOは、「人口増加という、受け入れざるを得ない現実を目の当たりにすれば、なるべく少ない労力で、できるだけ多くの成果を出す必要性が見えてくると思う」と語る。「植物を中心にした食生活であれば、そうした状況に調和をもたらす上で、とても役に立つのではないだろうか」

TIMEのダボス2020年特集号は、世界経済フォーラムと提携して制作されました。

 

この記事は、TIME誌のスタッフが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comまでお願いいたします。

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