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テスラ肝いりの新型バッテリーは、旧来の電力供給に破壊的イノベーションをもたらす

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(ロイター)──電気自動車(EV)メーカーのテスラ(Tesla)は、自社セダン「Model3」の中国向けモデルに、低コストで長寿命のバッテリーを導入する計画を立てている。時期は2020年後半か2021年はじめになるという。この導入により、EVの価格がガソリン車と同程度になるだけでなく、EVバッテリーは電力網で第二、第三の役割を得られるようになると同社は考えている。

テスラのイーロン・マスク(Elon Musk)最高経営責任者(CEO)は何カ月も前から、投資家やライバルたちをやきもきさせてきた。5月後半の「バッテリーの日」に、バッテリー技術における重大な進歩を発表すると約束していたのだ。

この計画をよく知る人物はロイターに対して、新しい低価格バッテリーは、100万マイル(約160万km)の使用に耐え、テスラEVの価格を従来の化石燃料ベースの自動車と同程度、あるいはそれ以下にしても利益を得られるよう設計されているが、それはマスクCEOの計画の一部にすぎないと語った。世界中で100万台を超えるEVが電力網に接続して電力を共有できる状況にあるいま、テスラが目指しているのは、パシフィック・ガス・アンド・エレクトリック・カンパニー(Pacific Gas & Electric)や東京電力といった従来のエネルギー供給企業と肩を並べるような電力会社の地位を確立することだというのだ。

この取り組みに詳しい3人の情報筋によると、テスラによる戦略の中心にある新しい「100万マイル」バッテリーは、中国のバッテリーメーカーCATL(Contemporary Amperex Technology、寧徳時代新能源科技)と共同開発されている。もともとは、マスクCEOがスカウトしたバッテリーの大学研究者チームとテスラが開発した技術を採用しているという。最終的には、エネルギー密度と蓄電容量を増大しながらもコストを低く抑えた改良版が、北米など他市場向けのテスラ車にも導入される計画だという。

新しいバッテリーを中国向けモデルで最初に発表するというテスラの計画や、同社のビジネスを再編成するというより広い戦略については、これまで報道されたことはない。テスラはコメントを拒否した。

情報筋によると、テスラの新しいバッテリーでは、低コバルトやコバルトフリーといった革新的技術を使うことになる。また、内部のストレスを軽減し、より長期間にわたって蓄電容量を増やしてバッテリー寿命を延ばすような化学添加物、素材、コーティングを使用するという。

さらに、マスクCEOが2020年4月末にアナリストに伝えたところによると、テスラは、人件費の削減と大量生産を目的に、大部分を自動化したバッテリー高速製造プロセスを「テラファクトリー」で新たに採用する計画を立てている。テラファクトリーは、同社がネバダ州で運営している巨大な「ギガファクトリー」の約30倍の規模を誇るバッテリー製造工場だ。

テスラは、レッドウッド・マテリアルズ(Redwood Materials)との提携を通じて、ニッケル、コバルト、リチウムなどの高価な金属の再利用や回収に取り組んでいる。さらにEVバッテリーを、電力網の蓄電システムで「第二の役割」を果たさせるプロジェクトにも取り組んでいる(同社は2017年、こうした大規模な蓄電システムをオーストラリアの南オーストラリア州に建設している)。テスラは一般消費者や企業に向けて電力を供給したいとも述べているが、詳細は明らかにしていない。

ロイターは2020年2月の独占記事で、テスラはCATLのリン酸鉄リチウムイオンバッテリーを使用する話し合いをすでに行っていると報じた。このバッテリーは、EVバッテリーで最も高価な金属、コバルトを使用していないものだ。

さらにCATLは、バッテリーセルをよりシンプルかつ安価にパッケージ化する「セル・ツー・パック(Cell-to-Pack)」という手法を開発し、バッテリーセルをまとめる途中の手順を省略できるようにしている。テスラはこの技術を使うことで、バッテリーの重量とコストを削減できると期待している。

さらに情報筋によると、CATLは2021年に、長寿命のニッケルマンガンコバルト(NMC)バッテリー(陰極の50パーセントがニッケル。コバルトは20パーセントのみに改良)を中国向けのテスラに供給する予定だという。テスラは現在、ネバダ州にあるギガファクトリーで、ニッケルコバルトアルミニウム(NCA)バッテリーをパナソニックと共同製造しているほか、中国にあるLG化学(LG Chem)からNMCバッテリーを購入している。パナソニックはコメントを拒否した。

以上述べてきた、バッテリー技術の進歩、EVバッテリーの利用範囲を拡大する戦略、巨大なスケールで行われる製造自動化という3つはすべて、同じ目標をもっている。すなわち、「電気自動車を購入するほうが、炭素を排出する内燃自動車を使い続けるよりも高くつく」という、ほとんどの消費者にとってのこれまでの金銭的常識を変えるという目標だ。

マスクCEOは2020年1月、「バッテリー生産量を急激に増加させ、バッテリーのキロワット時当たりのコストを改善していく必要があります。これは非常に基本的なことであり、極めて困難なことです」と述べている。「バッテリーの生産規模を、現在では誰も理解できないほどのクレイジーなレベルにまで拡大する必要があります」

テスラは3四半期連続で営業利益を報告しており、2020年の株価はほぼ2倍になっている。それでも、マスクCEOの野心的な拡張計画を実現するには、利益率と販売台数の両方を増加させる必要がある。

テスラとCATLは、バッテリーの化学的構造と設計において数多くの技術的進歩を遂げているが、その原点は、カナダのノバスコシア州ハリファックスにあるダルハウジー大学の小さな研究所にある。この研究所を1996年から運営しているのは、EVと電力網蓄電向けのリチウムイオンバッテリー開発の先駆者、ジェフ・ダーン(Jeff Dahn)だ。

ダーンは研究者チームとともに、2016年半ばにテスラとの独占的な5年間の研究パートナー関係を結んだが、両者の関係は少なくとも2012年にさかのぼる。ダーンの研究所が果たした重要な貢献のなかには、リチオムイオンバッテリーの強度を向上させ、急速充電などのストレスによる損傷を受けにくくなり、寿命を延ばすような化学添加物と、ナノエンジニアリングで実現した素材がある。

CATLが製造したコバルトフリーのリン酸鉄リチウムイオンバッテリーパックの価格は、キロワット時当たり80ドルを下回り、バッテリーセルの価格は60ドル/kWh以下になったとロイターは報じている。CATLの低コバルトNMCバッテリーパックは100ドル/kWhに近い。自動車業界の経営者たちは、バッテリーパックの100ドル/kWhという価格は、EVが内燃自動車と同等の価格を達成できるギリギリのレベルだと述べている。

バッテリー専門家であるカリフォルニア大学サンディエゴ校のシャーリー・メン(Shirley Meng)教授は、コバルトやニッケルなどの主要な素材の再利用と回収を計算に入れれば、NMCセルの価格は80ドル/kWhになると述べる。NMCよりも安全なリン酸鉄バッテリーなら、電力網の蓄電システムで第二の用途を見つけられるため、EV購入者がバッテリーに費やす初期費用はさらに安く抑えられる。

ゼネラルモーターズ(GM)とLG化学も、新しい低コバルトバッテリーを共同開発しているが、両者のバッテリーは2025年までこのコストレベルには到達しないとみられていると、両社の取り組みに詳しい情報筋は述べている。GMは、コスト目標に関するコメントを拒否した。

GMは現在までに、「バッテリーセルの価格を100ドル/kWh以下にする」計画があるとだけ述べており、詳しい日程は示していない。

 

この記事は、VentureBeatでReutersが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comまでお願いいたします。