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IBMの「Qネットワーク」に見る、量子コンピュータの実現方法

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量子コンピューティングが発展するなかで、IBMは、この次世代コンピューティングアーキテクチャーの境界線を押し広げる中心的存在のひとつとなっている。IBMはこの取り組みを加速させるため、自社の量子コンピューターをクラウドベースのプラットフォーム上に提供し、パートナーが実験に活用できるようにしている。

4年前の立ち上げ以来、IBMの「Qネットワーク」がそのエコシステムに招き入れた大企業や研究所などを含むパートナーの数は106に上っている。IBMの研究部門であるIBMリサーチのバイスプレジデントで、量子エコシステム開発を統括するロバート・スーター(Robert Sutor)は、Qネットワークのパートナーは、技術の推進だけでなく、量子コンピューターが潜在的に影響を与えうる使用事例の開発にとっても、極めて重要になると述べる。

量子技術は現在、技術内容も使用事例も大きく進展しており、とりわけ金融、材料科学、人工知能(AI)などを扱う企業では、より多くの幹部らが前向きに量子コンピューターに関わるべき時が来ているとスーターは考えている。スーターは、6月はじめに開かれた、量子コンピューティングの商業的側面を探究する年次会議「インサイド・クァンタム・テクノロジー(IQT)」で講演を行なった。

「量子コンピューティングはおそらく長距離走になりますが、このマラソンは30分前に始まっています」と、スーターは述べる。「これが、産業界の人々や量子コンピューティングの導入開始を検討している人々にとってどういう意味があるかというと、もう少し真剣に考えた方がいいかもしれないということです」

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量子コンピューターは、分子や素粒子のレベルで動作して情報を処理するため、現在のコンピューティングアーキテクチャーに基づくコンピューターに比べて性能がはるかに向上し、相当に複雑な問題に対応できる可能性を秘めている。だが、量子コンピューターが一貫した「量子優位性」を達成する、すなわち、さまざまな課題解決において従来型コンピューターをしのぐほどの十分な安定性を大きな規模で持つようになるまでには、数多くの基本的な科学的問題が解決されなければならない。

しかし、それが実現すれば、処理能力の向上だけでなく、ある種のデータに関連する問題の考え方に関するまったく新しい洞察が生み出されることが期待できると、スーターは言う。「われわれは最終的には、分子反応で起こることをモデル化できるようになるでしょうか」と、スーターは問いかける。「現在は、非常に小さな分子以外でこれを行うのは不可能です。量子コンピューターの利点を生かして、反応パターンを異なる観点で見たり、かつて見られなかったものを見たりできるようになるでしょうか」

IBMが2016年に初めて自社の量子コンピューターをクラウド上で提供した当時、このプラットフォームに惹きつけられたパートナーたちは、すぐに見返りが得られなくても問題のない、十分なリソースを持っている状態だった。Qネットワークのパートナーには、JPモルガン・チェース、エクソンモービル、米エネルギー省のオークリッジ国立研究所、三菱などが含まれている。

スーターによると、IBMは早い段階で、量子コンピューティングの科学的応用や実用化の可能性などをすべて社内で対処するのは不可能だろうと認識していたという。「IBMは、IBMリサーチのシステムとIBMサービスにわたって広がる、非常に大規模な量子研究組織体を有していますが、このすべてを自社だけで行うのは不可能です」と、スーターは説明する。「そのため、使用事例の開発、基幹研究の推進、専門教育の実施、スタートアップ経済の始動などのすべての側面で、外部の人々を迎え入れる必要がありました。そこで、Qネットワークを立ち上げたのです」

パートナーを選ぶ際に、IBMは明確な事業開発プロセスを構築した。最初に企業や政府機関と話し合い、量子コンピューティングが何であるかを理解して状況を把握してもらうのを助ける。この際にIBMは、Qネットワークがどのように機能するか、パートナーがどのような方法でQネットワークにアクセスできるのか、IBMからどのような支援が受けられるかなどを説明する。

関心は拡大していると、スーターは言う。パートナーたちは現在、量子コンピューターを利用して、化学シミュレーションや金融モデル、初期段階のAIまで、さまざまな実験を実施しているとのことだ。

スーターは、「人工知能には途方もなく大きな関心が向けられています」と述べるが、次のようにも指摘した。「これについて話すときは、細心の注意を払いたいと考えています。なぜなら量子コンピューターは、ビッグデータ向けのマシンではないからです。演算エンジンと考えてもらった方がいいでしょう。数十億件のデータを読み込ませるのには向いていません。したがって、量子コンピューターがアルゴリズムをどれだけ加速させる可能性があるかという方向で、研究が行われていくでしょう。この分野では、非常に初期段階の、興味深い研究がいくつか行われています」

IBMはゆくゆくは、さらに広い範囲からパートナーを招き入れるために、ハードウェアの十分な進展とエコシステムの強みを実証していく必要があると、スーターは述べる。IBMは現在、ちょっと試してみたいというアーリーアダブターではなく、より実践的なアプローチをとるパートナーを求め始めている。

IBMは社内に対しても、「量子に賭けること」が将来ビジネス的にも実を結ぶ見込みがあることを説明する必要が出てくるだろう。スーターは、「われわれは科学を愛する気持ちはありますが、このプロジェクトは科学だけのために行っているわけではありません」と述べる。「現在これを行っているのは、顧客に価値を提供する見込みがあると考えているからです」

 

この記事は、VentureBeatのChris O’Brienが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comまでお願いいたします。