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電子機器のイノベーションは“ポスト・シリコン”の模索によってもたらされる

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Geneva, Switzerland (SPX) Aug 19, 2020

 

わたしたちの周りには電子機器があふれている。トランジスタは、電話やコンピュータ、テレビ、音響機器、ゲーム機で、さらには自動車や飛行機などでも、機能を支える大きな力として利用されている。一方、今日のシリコンベースの電子機器は、世界のエネルギーのかなりの部分を消費しており、その割合は増えつづけている。

多くの研究者が、シリコンよりも複雑で、将来の電子機器への応用が期待でき、電力消費量が少ない素材の特性を探究している。ジュネーブ大学(UNIGE)の研究チームはこのアプローチを基軸に、スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)、チューリッヒ大学、ニューヨークのフラットアイアン研究所、ベルギーのリエージュ大学と共同で研究を進めてきた。

研究チームは、非常に薄いニッケレートの層で構成された人工素材の中で起こる、これまで知られていなかった物理現象を発見した。この現象を利用すれば、素材の電気的特性の一部を精確に制御し、たとえば導電状態から絶縁状態への瞬間的な切り替えが可能になるかもしれない。加えて、よりエネルギー効率にすぐれた新たなデバイスの開発にもつながるだろう。この新素材に関する論文は、学術誌「Nature Materials」に掲載された。

ジュネーブ大学理学部量子物質物理学科のジャン=マルク・トリスコン(Jean-Marc Triscone)教授は、「ニッケレートには特殊な特性があります。温度がある閾値を超えると、絶縁状態から導電状態に突然切り替わるのです」と説明する。「この転移温度は、素材の組成によって異なります」

ニッケレートは、酸化ニッケルと、希土類元素(周期表の中の17元素からなるグループ)に属する原子が結びついてできる。例えばサマリウム(Sm)を使った場合、導電体から絶縁体への転移は摂氏約130度で起こるが、ネオジム(Nd)の場合、閾値は摂氏マイナス73度まで下がる。この違いは、サマリウムがネオジムに置き換わった場合、化合物の結晶構造が変形するためとされる。つまり、結晶構造の変形が、転移温度の値を制御するのだ。

この素材をさらに詳しく調べるため、ジュネーブに拠点を置く研究チームは、サマリウムニッケレートとネオジムニッケレートの層を交互に重ね、原子が完全に規則的に並んだ「スーパーサンドイッチ」をつくりだした。

単一の素材のような挙動
量子物質物理学科に所属する研究者で、論文の筆頭執筆者であるクラリベル・ドミンゲス(Claribel Dominguez)は次のように説明する。「層にかなり厚みがある場合は、それぞれが異なる挙動を示し、転移温度は別々のままです。ところが奇妙なことに、それぞれの層の厚さを8原子分未満にまで薄くすると、サンプル全体がひとつの素材のようにふるまうようになり、導電率の変化は1度だけ、2つの転移温度の中間で生じました」

EPFLの電子顕微鏡を使った詳細な解析に加え、米国とベルギーの共同研究者が高度な理論的発展を提供した結果、異素材の界面における結晶構造の変形の伝播は、2層分か3層分の原子層でしか起こらないと判明した。

したがって、今回観測された現象は、構造の変形では説明できない。現実には、もっとも外側の層は物理的に変形していないにもかかわらず、なぜか、界面に非常に近いことを知っているかのような特性を示した。

魔法ではない
「魔法ではありません」と、量子物質物理学科に所属する研究者で、論文の共執筆者であるジェニファー・ファウリー(Jennifer Fowlie)は言う。

「わたしたちの研究により、今回のような素材の中で導電性領域と絶縁性領域の間の界面を維持するのは、エネルギー面で非常にコストが高いことが明らかになりました。そのため、2つの層が十分に薄い場合にはエネルギー集約的ではない挙動を示します。つまり、完全に導電性または完全に絶縁性の、共通の転移温度をもつ、単一の素材になるのです。しかもこの現象は、結晶構造の変化を伴いません。このようなカップリング効果は前代未聞です」

この発見は、スイス国立科学財団とQ-MAC ERCシナジーグラント(量子素材制御のフロンティア)による助成によって実現した。今回の知見は、人工構造物の電気的特性を制御する新たな手法として応用可能だ。ジュネーブの研究チームが明らかにしたニッケレート複合体の導電性転移は、新たな電子機器開発に向けた重要な一歩になるだろう。ニッケレートが圧電(圧力に反応する)トランジスタなどの用途に応用される可能性がある。

より広い視野でみると、今回の研究は、人工素材を「デザイン」する、つまり特定のニーズに応える特性を持たせるという戦略に符合する。世界の多くの研究者たちがこの方針を採っており、その先には、エネルギー効率の良い未来の電子機器の実現が期待される。

研究論文

 

この記事は、SpaceDaily.comが執筆し、Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。