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持続可能、資源豊富、低コストのリグニンは、石油化学製品を代替する「夢の素材」になりうる

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木でできた自転車や車に乗る日が、遠からずやってくるかもしれない。エキセントリックなスチームパンクの世界の話ではなく、自然界に豊富に存在する複雑な炭素ポリマーであるリグニンを加工した、カーボンファイバー製のハイテク軽量マシンの誕生が現実味を増してきているのだ。

自転車のサドルや車のシートの中のスポンジも、あるいは、こうした部品をひとつにまとめる接着剤も、リグニン由来になるかもしれない。リグニンはバイオカーボンとして、リチウムイオン電池に使われるグラファイトの代替素材にすらなるかもしれない。再生可能素材の開発企業で、世界屈指の私有林所有企業でもあるストラ・エンソ(Stora Enso)社は、こうしたビジョンを描いている。

「新車1台に必要な量のリグニンは、スカンジナビアの森林では0.1秒で再生します」と、ストラ・エンソのバイオ素材部門イノベーション担当責任者であるラウリ・レートネン(Lauri Lehtonen)は言う。

カーボンファイバーは現在、風力タービンや電気自動車で使われるため需要が増加している。そしてその製造には、石油化学製品を使用する化学的プロセスが不可欠だが、それは高価で大量のエネルギーを消費し、有害物質を生み出すものだ。

これに対してリグニンは、完全に再生可能で無害な資源だ。ほぼすべての植物に含まれており、ヒトは毎日野菜や果物として摂取し、食物繊維の源としている。それがいまや、高品質のカーボン素材へと変貌をとげようとしているのだ。ストラ・エンソは、ドイツの工業用レーヨン生産企業コルデンカ(Cordenka)と提携し、リグニンをカーボンファイバー、またはその前段階へと加工している。

リグニンは、化学組成が複雑で炭素が豊富であることに加えて、自然界に豊富に存在している(セルロースに次いで、地球上で2番目に豊富な高分子物質だ)。したがって、化石燃料に基づいた「炭素への依存」から脱却するための幅広い「グリーン・ハイウェイ」をもたらしてくれるだろう。

可能性は膨大だ。現在の私たちは、化石燃料由来の素材に文字通り囲まれている。ソファの詰め物、家具を組み立てる際の接着剤、壁の塗料、ノートパソコンや水筒のプラスチック、衣服の繊維は、すべてがかなりの確率で、石油、すなわち数百万年前に死んだ生物の残骸からつくられたものだ。

研究者たちは、この製造プロセスを早送りしようとしている。ミシガン州立大学で環境配慮型バイオプロダクトを研究するアシスタント・プロフェッサーのモイガン・ネジャド(Mojgan Nejad)は、「木やその他の生物であるバイオマスを石油や天然ガスに変えるのには、数億年の年月が必要です。私たちは要するに、その年月をショートカットしているのです」と語る。彼女は研究を通じ、リグニンを家の断熱や車の内装や家具に使う素材につくり変える方法を確立し、またリグニン由来の塗料や接着剤も開発している。

「高価で有害な石油化学製品を、再生可能で生分解性のあるリグニンに代替できるだけではありません。私たちの製品には、天然の抗菌性と難燃性が備わっています」と、彼女は言う。「自然界でリグニンは、細胞どうしをつなぐ『接着剤』として作用しますから、接着剤の材料として利用するのは理にかなっています」

こうした特性のおかげでリグニンは、道路の表面や屋根に使用される原油由来のアスファルトの代替品としての適性をもつ。スウェーデンとオランダではすでに、ストラ・エンソの粉末リグニンからつくられたアスファルトが道路舗装に使われている。

リグニンは何十年もの間、農業や建築の分野において低コストで大量生産される化学製品に使用され、またバニラ香料の主要成分であるバニリンの合成にも使われてきた。しかし、木材からよりクリーンな形でリグニンを抽出する技術が開発されたのはここ10年のことで、これにより高付加価値製品の化学素材として容易に使用できるようになった。

ポリウレタンフォーム、接着剤、バイオプラスチック、電池の電解質、リチウムイオン電池のグラファイト陽極、カーボンファイバー、それにグラフェンなど、用途は多岐にわたる。ただし、商業利用の可能性のあるリグニンは世界に豊富に存在するものの、業界にはまだ、化石燃料由来の素材の大部分に取って代わるだけの生産能力が欠けている。

ストラ・エンソは2015年以来、低スルホン酸塩リグニンの世界最大の生産企業だ。製品は、リネオ・バイ・ストラ・エンソ(Lineo by Stra Enso)というブランド名で、茶色い乾燥粉末として販売されている。フィンランドのスニラにある工場の生産能力は年間5万トンだ。

2021年1月にはスウェーデンの企業レンコム(RenCom)が、プラスチック袋、包装、サッカー場の人工芝、車の内装に使われるバイオプラスチックの商業生産にリネオの使用を開始する。同社の工場は、年間2000トンの生分解性プラスチック「レノール(Renol)」を生産することができる。

野心的な炭素ゼロ目標を達成するには、石油化学製品に代わる安価な植物ベースの代替製品の普及が不可欠だ。「再生不可能な化石燃料由来の素材を、生物由来の再生可能素材に置き換えることができれば、2つの目標を達成できます。ひとつは、地下からの(化石燃料由来の)炭素排出量の削減。もうひとつは森林による炭素吸収量の増加で、これは材料供給のために植林が必要になるためです」と、レートネンは言う。

リグニンは主に製紙・パルプ工場の副産物として、タール状の液体「ブラックリカー」の形で生み出される。この物質は、100年以上にわたってただ燃やされ、非化石燃料由来のエネルギー源として、工場や発電所や暖房装置に使用されてきた。世界のリグニン生産量は推定で年間8000万トンにのぼるが、このうち98%がバイオエネルギーとして燃焼されている。

「ただ燃やして大気中に炭素を放出するよりも、家庭で使う製品につくり変える方が賢明です」と、ネジャドは言う。「製紙・パルプ工場の生産効率が上がった結果、いまでは発電に必要な量よりずっと多くのブラックリカーがつくられています」

紙の売上が減少している今、リグニンに価値を付与できれば、業界の新たな収入源になり、さらには石油化学製品からの脱却という未来への移行を促すことができるだろう。「私たちは地下からの資源に依存した生活ではなく、地上からの生活を始めるべきなのです」と、レートネンは述べた。

この記事は、The GuardianのPaul Milesが執筆し、Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。