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EV普及の障壁となる「コバルト不足」の打開策

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現在、世界中の自動車メーカー各社が、温室効果ガス排出の削減に役立つと考えられる電気自動車(EV)の開発に投資している。そしてEVの製造に必須なのが、優れた性能や耐久性、エネルギー効率を示す、大容量の充電式バッテリーだ。

EVの開発は最近、充電式バッテリーのコスト上昇が壁となってペースダウンしている。コスト上昇の主な理由はコバルト(Co)だ。コバルトは、充電式バッテリーで使われるほとんどのカソードの主な原料であり、需要がますます高まっているものの、同時に入手困難になっているのだ。

この問題を回避し、新しいEVやその他の技術向けの充電式バッテリーを確実に入手できるようにするために、技術者と化学者は、充電式バッテリーのほとんどのカソードに含まれているコバルトの代わりになりうる代替物質を突き止めようとしてきた。こうした物質がコバルトの代わりを効率的に果たすためには、同様の性能を発揮しながら、手頃な価格で、さらに容易に入手できる必要がある。

米国のアルゴンヌ国立研究所と、中国の北京大学深セン大学院(Peking University Shenzhen Graduate School)の研究者たちはこのほど、充電式バッテリーにおけるコバルトの役割を深く理解するための研究を行った。新しい「Coフリーカソード(コバルトを含まないカソード)」の設計に役立つ情報を提供するためだ。

『Nature Energy』に2021年2月18日付で掲載された論文では、高性能の充電式バッテリーを実現するうえで有利に働くコバルトのプロセスと特性の一部が特定されている。

Investigating the role of Cobalt in rechargeable batteries to develop more effective Cobalt-free cathodes
Co(コバルト)リッチカソードとCoフリーカソードにおける構造進化のメカニズムをまとめたイラスト。Credit: Liu et al.

「我々は、Coリッチカソードと、マンガン(Mn)を代替物質としたCoフリーカソードの両方を含むシステムを設計し、そこでCoの役割について調査した」と、論文には書かれている。

これまでに提案されたCoフリーカソードの多くは、リチウム(Li)またはマグネシウム(Mg)を多く含んでいる。こうしたカソードのなかには、Coベースのカソードの代用としてかなり有望なものもあったが、多くの場合、その容量や操作安定性は、大規模な商業利用には適さない。そのため、Coフリーの代替物を探索する研究のほとんどが、ニッケル(Ni)リッチ層状酸化物カソードなどの層状酸化物カソード(layered oxide cathodes)に焦点を絞っていた。

Niリッチ層状酸化物カソードは一般的に、大容量と高エネルギー密度を示す。だが、Coを直接Niに置き換えることは現実的でないことが、既存研究により示されている。この方法では、バッテリーの性能と熱安定性が大きく低下する可能性があるためだ。

今回の論文の中で、アルゴンヌ国立研究所のトンチャオ・リュー(Tongchao Liu)と、北京大学の研究者たちは、充電式バッテリーのカソードで、コバルトがこれほど重要な役割を果たす理由をより深く理解することを目指した。こうした理由を解明することによって、コバルトと同様の性能を発揮するNiリッチの代替合成物を特定して、充電式バッテリーに用いることができる高性能のCoフリーカソードを設計するのに役立てるのが目的だ。

研究者たちは、最先端の手法を活用してコバルト固有の特性を特定し、そのプロセスを、NiリッチのCoフリーカソードで起こるプロセスと比較した。過去の研究では、カソードに大量のニッケルが含まれている場合、バッテリー容量が急速に低下する可能性があることが示唆されている。しかし、リューと同僚たちが集めた研究結果から、高電位では、コバルトはニッケルと比べてさらに大きな破壊的影響があることがわかった。

論文にはこう書かれている。「今回の研究結果は、急速な容量低下や構造劣化においてCoが否定しがたい役割を果たしていることを支持している。また、高電位ではCoはNiより大きな破壊的影響があることがわかった。これは、Coの削減に関して、予想外だが有望な視点を与えるものだ」「さらに、代替物質としてのMnは、Coの破壊作用を効果的に緩和し、高電位機能を可能にする」

研究チームが収集した結果は、充電式バッテリー向けの、性能・安定性・コスト効率に優れたカソードの設計と実現に役立つ貴重な洞察を提供している。全体的に言えば、研究チームはCoリッチカソードの容量が時間の経過と共に急速に低下する理由を説明しうる、一連の形態/構造劣化のメカニズムを特定した。

今回の結果に基づいて、リューたちはすでに有望な性能を達成する一連のCoフリーカソードの実現に向けて、取り組みを開始している。将来的には、こうしたカソードが充電式バッテリーに組み込まれて市販され、広く利用されるようになるだろう。

詳細情報:Understanding Co roles towards developing Co-free Ni-rich cathodes for rechargeable batteries(充電式バッテリー向けのCoフリーでNiリッチの陰極開発に向けた、Coの役割の理解)Nature Energy(2021)DOI: 10.1038/s41560-021-00776-y.

© 2021 Science X Network

原文:Investigating the role of cobalt in rechargeable batteries to develop more effective cobalt-free cathodes(2021年3月24日発行、同日にhttps://techxplore.com/news/2021-03-role-cobalt-rechargeable-batteries-effective.htmlより取得)

当記事は著作権対象です。個人の学習または研究を目的とした公正利用の場合を除き、明示的許可のない部分・全体複製は禁じられています。当コンテンツは情報提供のみを目的に発行されました。

この記事は、Tech Xploreが執筆し、Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。