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東理大チーム開発のバイオ燃料電池が、ウェアラブルな電子機器やバイオセンサーの可能性を広げる
ウェアラブルな電子機器やバイオセンサーは、健康状態のモニタリングにぴったりのツールだが、使いやすい電源を見つけるのは難しかった。最近になって、日本の科学者たちのグループが、ウェアラブルなバイオ燃料電池アレイの開発と実験に成功した。使用者の汗に含まれる乳酸から電力を作り出す仕組みで、体液だけで動く電子健康状態モニタリングへの扉を開くものとなりそうだ。
この数十年間で、電子機器の小型化が著しい進歩を遂げてきたことは間違いない。ひと昔前のデスクトップコンピューターを圧倒する性能をもつポケットサイズのスマートフォンや、無線接続を可能にする数多くの選択肢が登場したあと、着々と開発が進められてきた装置が、ウェアラブルなバイオセンサーだ。
小型ウェアラブルバイオセンサーの一般的な用途は、肌に直接装着して特定の生体信号を測定することだ。測定値を無線でスマートフォンやコンピューターに送信することにより、使用者の健康状態を追跡できる。
材料科学者たちは、これまでウェアラブルデバイス向けにさまざまな種類のフレキシブル回路や電極を開発してきたが、ウェアラブルバイオセンサーに適切な電源を見つけるのは大きな難題だった。腕時計やポケットサイズの電卓に使われているようなボタン電池は、厚みがありすぎてかさばる。電池を薄くすると、電気容量や安全性の問題が生じる。そこで、私たち自身がウェアラブルデバイスの電源になるのはどうだろうという発想が登場した。
東京理科大学の四反田功(したんだ・いさお)准教授が率いる科学者チームは、ウェアラブル電子機器の電源として汗だけを利用する効率的な方法を研究している。
『Journal of Power Sources』誌の電子版に発表された同チームの最新研究では、汗に含まれる化学物質である乳酸を利用して、短時間であればバイオセンサーや無線通信デバイスを機能させるのに十分な電力を発生させるバイオ燃料電池アレイの新しい設計が示されている。
この研究は、筑波大学の辻村清也(つじむら・せいや)准教授、理化学研究所の美川務(みかわ・つとむ)専任研究員、山形大学の松井弘之准教授らと共同で行われたものだ。
発表された新しいバイオ燃料電池アレイは、紙の絆創膏のような外観で、上腕や前腕に貼り付けることができる。基本的な構成は、撥水コーティングを施した和紙の基板材料上に、複数のバイオ燃料電池が直列と並列で配置されている。電池の数は、必要な出力電圧と電力によって異なる。
それぞれの電池の内部では、電極内に存在する酵素と乳酸とのあいだで電子化学反応が起こり、導電性カーボンペーストで作られた汎用の集電装置に電気が流れ込むようになっている。
乳酸を利用したバイオ燃料電池はこれが初めてではないが、この新しい設計には、既存の乳酸バイオ燃料電池よりすぐれているいくつかの重要なポイントがある。ひとつは、デバイス全体をスクリーン印刷で製造できるという点だ。スクリーン印刷は一般的に、費用対効果の高い大量生産に適している。
この方法が可能になったのは、材料の入念な選定と精巧なレイアウトのおかげだ。例えば、同様の構造を持つ従来の電池では、導電路に銀線が使われていたが、今回のバイオ燃料電池では多孔性のカーボンインクが使われている。
もうひとつは、乳酸が電池に行き渡る方法だ。紙の層を使うことで、毛細管現象によって汗が集められ、すべての電池に同時に運ばれる。毛細管現象とは、ペーパーナプキンが水に接触すると、水が素早く浸み込んでいくのと同様の効果だ。
これらの優位な点により、今回のバイオ燃料電池アレイは、前例がないほど優れた能力で電子回路に電力を供給できると四反田准教授は話している。「我々の実験では、紙を材料にしたこのバイオ燃料電池で3.66Vの電圧と4.3mWの出力電力を発生させることができました。我々が知っている限りでは、この電力値はこれまでに報告されている乳酸バイオ燃料電池と比べて大幅に高いものです」
この燃料電池アレイが、ウェアラブルバイオセンサーや一般の電子機器に適用可能であることを示すために、チームは、自己完結型の乳酸バイオセンサーを作成した。自身で乳酸を使って発電し、汗に含まれる乳酸の濃度を測定するだけでなく、低電力のBluetoothデバイスを経由して、測定値をリアルタイムでスマートフォンに通信するものだ。
やはり四反田准教授がリーダーを務めた以前の研究では、乳酸は、運動の強度をリアルタイムで反映する重要なバイオマーカーであり、アスリートやリハビリ患者のトレーニングに利用できると説明されている。
一方で、今回のバイオ燃料電池アレイは、ウェアラブル乳酸バイオセンサーだけでなく、ほかのタイプのウェアラブル電子機器に対しても電力を供給できる。「我々は、1滴の人工汗液と、今回開発したバイオ燃料電池アレイを用いて、市販の活動量計を1.5時間動かすことに成功しました」と、四反田准教授は延べる。「この電池は、スマートウォッチをはじめとする一般的な携帯機器など、あらゆる種類のデバイスに使えるはずだと考えています」
今後のウェアラブルバイオ燃料電池開発がさらに進み、それほど努力の汗をかかなくても、携帯電子機器とバイオセンサーに電力を供給できるようになることを期待したい。
この記事は、SpaceDaily.comが執筆し、Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。