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インテル「シリコン・フォトニクス」が見据えるデータセンター、内外の情報通信を光速で行う“明るい未来”
この記事は、インテルからの資金提供で実現したTechnology Insightシリーズの一つです。
データセンターの帯域幅需要が急増している一方で、演算装置、ストレージ、ネットワークリソースのあいだをつなぐ電子的接続の性能をさらに向上させることが難しくなってきている。こうした問題に対処するため、サーバの相互接続が、光入出力へと速やかに移行しつつある。その一例として米半導体大手インテル(Intel)は最近、同社製の100ギガビット光トランシーバー500万台以上が、すでにサーバラック間の接続を提供していると発表した。
インテルは、低コストで低電力の光入出力技術を、サーバやプロセッサパッケージに導入することに重点を置き続けている。同社研究部門の対外発表イベント「Labs Day 2020」で議論されたように、光で接続される機器台数を数百万から数十億へと大幅に拡大し、分散した演算装置、ストレージ、ネットワーク間のより高速な接続を構築することが今後は必要になるというのだ。
インテルのビジョンは、集積回路と半導体レーザーを組み合わせた光通信技術「シリコン・フォトニクス」にかかっている。従来型の光学システムが何百もの個別の部品で構成されているのに対して、シリコン・フォトニクスは、複雑な機能のすべてが単一のシリコンチップ上に集約されている。これは、組み立ての簡便化、消費電力の低下、フォームファクターの小型化、コストの削減につながる。
要点:
- インテルは現在、200ギガビット毎秒(Gb/s)FR4や400Gb/s DR4、800Gb/sの製品サンプルなどを含む、最新シリコン・フォトニクス・トランシーバーの拡販を強化している。
- ネットワーキング・スイッチの帯域幅需要を満たすには、フォトニクスを統合したイーサネットスイッチが不可欠だ。2023年には、100Gb/sの電気レーンを持つ51.2テラビット(Tb/s)ソリューションが登場する見込みだ。
- データセンターだけにとどまらず、大容量のシリコン・フォトニクスは、自動運転車向けの次世代LiDARなどの新しい市場を開拓できると目されている。
だが、光がサーバ内部やアクセラレーターの接続性の基盤となるためには、シリコン・フォトニクス業界は多くのマイルストーンを越えなければならない。より高速なトランシーバーについては、もうそこまで来ている。イーサネットスイッチと「共同パッケージ化された」光モジュールのデモがすでに実施されており、2023年には出荷が開始される見通しだ。インテルによれば、同社傘下で自動運転技術を開発するモービルアイ(Mobileye)が2025年頃までに、自社の次世代LiDARセンサー技術製品群を動作させるのにフォトニクス集積回路を採用する予定だという。
フォトニクスを10億ドル規模のビジネスにする
インテルのシリコン・フォトニクス研究は、2004年にさかのぼる。当時の科学者らが、データを光線にエンコードできる初のトランジスタ状デバイスを開発した。インテルは2011年、4つのハイブリッド・シリコンレーザーを多重化することで、50Gb/sのシリコン・フォトニクス接続を構築したと発表した。この技術は2016年、100G PSM4光トランシーバーの発売によって大きく普及した。インテルによると、100G製品ラインの総売上は10億ドル(約1100億円)を超えているという。
現在、回線容量のさらなる拡大に対する需要が爆発的に増加している。データセンター大手の米エクイニクス(Equinix)の年次市場調査「グローバル・インターコネクション・インデックス」によると、相互接続帯域幅は2019~2023年に年平均成長率45%で増加し、全世界で合計1万6300Tb/sに上ると見込まれるという。データ転送速度が上昇するにつれて、光接続がより広く普及し、短距離間でも使われるようになっている。
インテルの新事業・マーケティング部門のシニアディレクター、ロバート・ブルーム(Robert Blum)は、「現代のデータセンターの中に入ると、100Gb/sの銅ケーブルによって、サーバをトップオブラック(ToR)スイッチに接続しているのが見られるでしょう」と話す。「銅ケーブルは、4メートルくらいなら大丈夫です。しかし、ラックから先はすべて、すでに光技術が使われています。データ転送速度を200ギガビットや400ギガビットに上げると、銅線では信号到達距離がかなり短くなるため、光技術がサーバにまで達する傾向が見られ始めています」
インテルは現在、200G FR4(シングルモードファイバー、到達距離2km)と、400G DR4(シングルモードファイバー、到達距離500m)のプラグ接続可能なトランシーバーの拡販を強化している。最近は、8つのレーザーを用いる800Gbpsハードウェアのサンプル提供を開始した。
トランシーバーの先には:共同パッケージ化された光モジュールを搭載するイーサネットスイッチが間もなく登場
もっとも、プラグ接続可能な光技術がインテルの最終目標ではない。
インテルのブルームは、「我々の計画は、トランシーバーだけにとどまるものではありません」と指摘する。「これは、学習曲線的な問題です。最初はトランシーバーですが、ゆくゆくは光が、イーサネットスイッチと統合される必要があると認識しています。そして最終的には、CPUやXPUとも統合されるでしょう」
インテルが、この大胆な展望に向けて最初の一歩を踏み出したのは、2020年の3月にさかのぼる。DR4規格に準拠した400Gb/sのイーサネット・トラフィックを送出する1.6Tb/sシリコンフォトニクス・エンジンと、共同パッケージ化された12.8Tb/sのBarefoot Tofino 2スイッチのデモを実施したのだ。
共同パッケージ化されたシリコンフォトニクス・エンジンは、高密度かつ低電力消費で、データセンターの帯域幅需要に対応可能なスループットを持つイーサネットスイッチへの道を開く。Image Credit: Intel
フォトニクス・エンジンをスイッチASICパッケージに統合することで、省電力などを含むいくつかのメリットが得られる。スイッチパッケージから、プラグ接続可能な大型インターフェースまで(中間にリタイマーが置かれる場合が多い)を低効率の銅配線でつなぐのではなく、光モジュールから前面プレートコネクタまでを光ファイバーで配線する。コネクタが小型化することで、密度を高める助けにもなる。ウエハースケールマニュファクチャリングにより、信頼性の高いオンチップのフォトニクス・エンジンを、より低コストで統合できる。
次の2世代で、スイッチのスループットが12.8Tb/sから25.6Tb/sや51.2Tb/sに急上昇すると、スイッチごとのトランシーバー数とトランシーバーのデータ転送速度も、ともに上昇する。スケーリング密度は、コネクタの小型化、低消費電力化、効率的な冷却に有利となる。
どのようなスイッチが登場するのだろうか。インテルによると、同社の51.2Tb/sソリューションは100Gb/sレーンを採用し、800Gb/sトランシーバー向けのプラグ接続可能インターフェースを64個も備える。2023年後半には、商業展開の準備が整うはずだという。
半導体関連の国際展示会「SEMICON West 2020」でインテルが発表した、共同パッケージ化されたシリコン・フォトニクスとイーサネットスイッチに関する2025年以降の見通し
シリコン・フォトニクスが次世代LiDARの道を開く
シリコン・フォトニクスの強みは、データセンターの枠に留まるものではない。自動運転車(AV)について考えてみよう。レベル4(特定条件下における完全自動運転)やレベル5(完全自動運転)の自動運転車向けに開発されているセンサーは、全周レーダーと前方レーザーを使って周囲の環境をモデル化する。残念なことに、既存のLiDARシステムはインターフェースの影響を受けやすく、他の対象物の速度を測定する能力に限界がある。
次世代のLiDARは、放射された光と反射された信号との違いを調べることで、この問題を克服する。この種のコヒーレントLiDAR技術を個別の光学部品で構築するのは、複雑さが増すため法外なコストがかかる。だが、レーザーと光増幅器を一つのフォトニクス集積回路に組み込むことで、コストが低減されると同時に、信頼性と処理性能がともに向上する。
モービルアイのコヒーレントLiDAR向けフォトニクス集積回路は、米ニューメキシコ州にあるインテルの製造工場で開発された。2025年までに生産に入る見込み。Image Credit: Intel
世界最大級の家電見本市「CES 2021」でモービルアイは、LiDAR用のシステムオンチップ(SoC)を発表した。アクティブレーザー素子およびパッシブレーザー素子を組み合わせて垂直に184本の走査線を生成し、光で処理させる仕組みだ。インテルはこのSoCを、米ニューメキシコ州にある自社工場で製造する予定だ。同社はこの製造工場に対して、最先端パッケージング技術への投資として35億ドル(約3843億円)を投入している。
SoCは、6000個以上の部品で構成される精密機器だ。シリコン・フォトニクスの応用により、2025年の出荷開始時には、モービルアイのコスト削減が見込まれる。インテルのブルームは、「インテルのプラットフォームの比類のない点は、レーザーや光増幅器をウエハーレベルで統合できることです」と説明する。「これを製造できるところは他にありません。これは、インテルがシリコン・フォトニクスに進むことで非常に大きな価値提案を手にしている分野の最良の一例です」
米ニューメキシコ州にあるインテルの製造工場。シリコン・フォトニクスを含むパッケージ化、記憶、接続性などのための技術の開発と製造を行っている。
Image Credit: Intel
これは始まりにすぎない
大容量のシリコン・フォトニクス技術が成熟すれば、さらなるチャンスを得ることが可能になる。インテルのブルームは、「生物医学の領域やパーソナルヘルス、センシングなどで、集積光技術が活用される可能性があります。何かを検出するためにレーザーを利用できる応用分野なら何でも、より魅力的なものになります。個別の光モジュールでは、法外な費用がかかったり複雑すぎたりしたかもしれないことのなかにも、突如として可能になるものが出てきます」と述べる。
光で特定種類の演算処理を実行することには、強力な価値提案がある。特定の機械学習の作業負荷に対して、光チップがCPUと並行して使用される未来を想像してみよう。これは、拡張可能な製造プラットフォーム上のシリコン・フォトニクスによってのみ可能になる。
インテルの「Labs Day 2020」で明らかになった技術の進歩は、シリコン・フォトニクスがサーバ内部に搭載されることを予兆している。光相互接続が、まだ製品実装の道を進んでいないとしてもだ。だが、より高速なトランシーバー、光モジュールとイーサネットスイッチの共同パッケージ化、自動運転車向け次世代LiDARというインテルのロードマップから見えてきたものは、光によるデータ伝送の未来が本当に明るいことを示している。
この記事は、VentureBeatのChris Angeliniが執筆し、Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。