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ロケットエンジン燃焼器内で起こる「燃焼振動」の原因を探る

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ロケットエンジン内部には、閉鎖された燃焼システム(燃焼器)が存在する。この燃焼器内では、燃料および酸化剤の乱流、音波、化学反応で発生する熱などの間の非線形相互作用により「燃焼振動(combustion oscillations)」と呼ばれる不安定な現象が起こる。

燃焼振動が燃焼器本体に及ぼす力(燃焼器に対する機械的応力)は、エンジンの破局的故障を引き起こす恐れがあるほど強力なものだ。こうした振動を発生させる原因については、これまで分析されてこなかった。

このほど、複雑系に基づく高度時系列解析法を用いてこの問題の解明を試みた画期的な研究成果が、学術誌『流体物理学(Physics of Fluids)』で発表された。研究を行ったのは、東京理科大学(TUS)の後藤田浩教授、島 里実氏、中村洸介氏と、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の松山新吾博士および大道勇哉博士の共同研究チームだ。

後藤田教授は今回の研究について、「主な目的は、筒型燃焼器内における高周波燃焼振動の形成と保持の背後にある物理的メカニズムを、記号力学と複雑ネットワークから着想を得た高度な解析手法を用いて解明することでした」と説明している。研究成果は米国物理学協会(AIP)サイトのニュースセクションのほか、英国物理学会(Institute of Physics)のニュース・プラットフォーム「Physics World」でも取り上げられた。

研究チームは、ロケットエンジンのモデル燃焼器に関してシミュレーションを実施。安定した燃焼状態から燃焼振動へと遷移する瞬間を突き止め、それを可視化することに成功した。

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この図は燃焼振動が起こっているときに、噴射管の縁部から大規模なボルテックス・リング(渦輪)が発生することを示している

燃料噴射器内における流速の顕著な周期的変動が着火過程に影響を及ぼす結果、発熱率の変動が引き起こされることがわかった。発熱率の変動が、燃焼器内部の圧力変動と同期し、このサイクル全体が一連のフィードバック・ループで繰り返されることで、燃焼振動が保持されるという。

さらに研究チームは、圧力変動と発熱率変動の空間ネットワークを分析することにより、噴射管の縁部付近に形成される燃焼器の「せん断層」内で、一群の熱音響源が突然の出現と崩壊を繰り返し、燃焼振動のさらなる駆動に寄与していることを明らかにした。

今回の研究結果は液体ロケットエンジンに特異的なものではあるが、燃焼振動がなぜ発生するかという疑問に対する妥当な答えを提供している。後藤田教授は「燃焼振動は、ロケットエンジン、航空エンジン、発電用ガスタービンエンジンなどの内部の燃焼器に深刻な損傷を引き起こす恐れがあります」と説明する。

「そのため、燃焼振動の形成メカニズムの解明は重要な研究テーマのひとつとなります。今回の結果は、液体ロケットエンジン内で発生する燃焼振動のメカニズム解明に大きく寄与するでしょう」

実際、今回の研究成果は大きな意義を有しており、重要なエンジンで燃焼振動の発生を防ぐための探究に新たな道を開くことが期待できる。

研究論文:“Formation mechanism of high-frequency combustion oscillations in a model rocket engine combustor”

この記事は、SpaceDaily.comが執筆し、Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。