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地球の全貴金属の故郷は、中性子星の衝突だった!?

  • マテリアル
2022/1/17

ポール・M・サター(Paul M. Sutter)は、ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校とフラットアイアン研究所に所属する天体物理学者だ。PodcastやYouTubeで配信しているシリーズ「Ask a Spaceman」「Space Radio」のホストを務め、『How to Die in Space』の著者でもある。

宇宙は、「何かと何かを衝突させること」がとても得意だ。宇宙では、ありとあらゆるものが衝突している――恒星も、ブラックホールも、そして、中性子星と呼ばれる超高密度の天体も。

そして、中性子星どうしがぶつかると、その衝突により、生命に必要な元素が奔流のように放出される。

中性子星の衝突は、いまの我々が知る生命の存在を可能にした。その事実を、天文学者たちは、時空構造のなかにある微妙な揺らぎを用いて明らかにした。その経緯を詳しく見ていこう。

宇宙の歴史では、どこかの時点でほぼあらゆるものが衝突してきた。だから天文学者たちは、中性子星(大型の恒星が爆発して死を迎えたときに生まれる超高密度の天体)も互いに衝突する、とずっと以前から推測してきた。けれども10年ほど前から、天文学者たちは中性子星の衝突はとりわけ興味深いものになることに気がついた。

たとえば中性子星が衝突すると、それに伴って閃光が生じる。その光は、大型の恒星が爆発するときに生じる典型的な超新星(スーパーノバ)ほどには明るくない。それでも、中性子星の衝突・合体で生じる爆発の明るさは、一般的な新星(ノバ)と比べれば1000倍に上るだろう。そう予測した天文学者たちは、その爆発現象を「キロノバ(kilonova)」と名づけた――そして、その名前は定着した。

中性子星は、その名前が示すとおり、たくさんの中性子でできている。そして、高エネルギー環境下に多くの中性子が集中すると、中性子どうしの融合、変換、分裂といった、荒っぽい核反応に見られるようなありとあらゆる種類のことが始まる。

元素の誕生

キロノバでは、核反応の原動力として必要とされるエネルギーがすべて存在するなかで、すべての中性子が飛びまわりつつ互いに融合している。こうしたなかで、キセノンなどの重元素が膨大な量でつくられる。キロノバは、親戚にあたる超新星爆発とともに、元素周期表の空白を埋め、生命を宿す可能性をもつ岩石惑星の形成に必要なあらゆる元素を生み出している。

天文学者たちは2017年8月、キロノバを初めて実際に観測した。地球からおよそ1億4000万光年離れたところで起きたこの事象を伝えた最初の徴候は、特定パターンの重力波(時空における歪みの波)と見られるものが地球に届いたことだった。

この重力波を検出したのは、米国のレーザー干渉計重力波天文台「LIGO(ライゴ)」と、イタリアの観測施設「Virgo(バーゴ)」だ。これらの観測施設は、2つの中性子星が合体したとしか解釈できない、独特な時空の揺らぎが観測されたことを、直ちに天文学界に通達した。そしてこの重力波が届いてから2秒とたたないうちに、フェルミ・ガンマ線宇宙望遠鏡が「ガンマ線バースト」、つまり、ガンマ線の爆発的な放射によって生じる明るい光を観測した。

科学界の関心がにわかに熱を帯びた。世界中の天文学者が、望遠鏡やアンテナ、観測衛星の照準をキロノバ現象に合わせ、電磁スペクトルのあらゆる波長で観測した。全体を通じて、全世界の天文学界のおよそ3分の1がこの観測に参加した。おそらく、人類史上最も広く叙述された天文現象になったこの現象を扱った論文は、最初の2カ月で100本を超えた。

キロノバは長らく予測されていた現象だが、「一つの銀河につき10万年に一度」という発生確率からすれば、これほどすぐに観測できるとは天文学者たちも内心思っていなかった(参考までに、超新星爆発の発生確率は、「一つの銀河につき数十年に一度」だ)。

また、重力波の信号が加わったことで、この現象そのものの内側を垣間見せる、かつてない知見も得られた。重力波と従来の電磁波観測の組み合わせにより、天文学者たちは、合体が始まった瞬間からの全体像を手に入れたのだ。

このキロノバ1回だけで、地球100個分を超える量の固体の純貴金属が生み出された。この事実は、そうした爆発が途方もない量の重元素を生成することを裏づけている。

つまり、あなたのジュエリーに使われているゴールドは、太陽系が生まれるはるか以前に合体した2つの中性子星からつくりだされたというわけだ。

修正重力理論の死

だが、キロノバの観測が非常に興味深い理由は、それだけではない。アルベルト・アインシュタインの一般相対性理論では、「重力波は光速で移動する」と予測されていた。だが、天文学者たちは以前から一般相対性理論の拡張や修正を試みてきた。そして、そうした拡張や修正の圧倒的多数では、重力波の速度について一般相対性理論とは異なる(「重力波は光速で進まない」)予測がされていた。

2017年に観測されたたった一度のキロノバ現象で、宇宙はそうした仮説を試す完璧な場を提供してくれた。キロノバの観測で得られた重力波信号とガンマ線バースト信号は、1.7秒差で地球に到達した。だが、この2つの信号はそれまでに、1億4000万光年を移動してきた。それほど長い距離を移動したあとに、ほとんど同時に地球に到達するためには、重力波とガンマ線(光速で進む電磁波)が、10の15乗分の1という高い精度で、同じ速度で進んでいなければおかしいということになる。

この1回の観測は、過去の観測結果の何億倍も貴重なものだった。かくして、重力波が光速で進むことが実証され、修正重力理論の大多数が消し去られたというわけだ。

全世界の天文学者の3分の1が興味を持ったのも当然だろう。

さらに詳しく知りたい方は、Podcast「Ask A Spaceman」のエピソード「What’s so groovy about gravitational waves? (Part 2)」をチェックしてほしい。iTunesaskaspaceman.comで視聴できる。質問がある方は、ハッシュタグ「#AskASpaceman」を使ってTwitterまで。もしくは、 @PaulMattSutterと、facebook.com/PaulMattSutterで筆者をフォローしてもいい。Twitter @SpacedotcomFacebookで当メディアのフォローもお忘れなく。

この記事は、SpaceのPaul Sutterが執筆し、Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。