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ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の「金の鏡」の秘密
宇宙へ打ち上げられようとしている、巨大な金色のハチの巣のようなものの画像をネット上で見たことはないだろうか? それは、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を象徴する主鏡だ。この鏡により、これまでに観測されたことない宇宙の片隅まで観測できるようになると期待されている。
米航空宇宙局(NASA)、欧州宇宙機関(ESA)、カナダ宇宙庁(CSA)がタッグを組んでつくりあげたこのジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、史上最強の宇宙望遠鏡になるように運命づけられている。その驚くべき観測力の秘密は、金色に輝く巨大な主鏡だ。この主鏡は、それよりも小さい18枚の鏡でできている。これらの鏡が一体化することで、この宇宙望遠鏡を使って、地球から数十億光年離れたはるか遠くの銀河の光を測定できるようになる。
「とにかく必要なことは、この18枚の鏡すべてが一体となって機能することです」。ウェッブの光学望遠鏡部の開発責任者を務めるリー・ファインバーグ(Lee Feinberg)は、2020年5月の記者会見でスペース・ドットコム(Space.com)にそう話した。
ウェッブは2021年12月25日、ギアナ宇宙センターから打ち上げられた。
ウェッブの主鏡は、口径が21フィート4インチ(6.5メートル)で、それぞれの直径が4.3フィート(1.32メートル)の六角形の鏡セグメント18枚で構成されている。ウェッブには小さな副鏡も備わっているが、こちらの口径は2.4フィート(0.74メートル)しかない。
ウェッブの主鏡は、口径7.8フィート(2.4メートル)であるハッブル宇宙望遠鏡の鏡と比べてはるかに大きい。
巨大な六角形に注目
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、地球と太陽のラグランジュ点「L2」(太陽から見て地球の真後ろ)に投入される。そのポイントで、強力な性能を駆使して、はるか彼方の天体を観測する。この望遠鏡の赤外線観測装置を使えば、星間塵の向こうにあるものも観測できる。 Image Credit::ノースロップグラマン社(Northrop Grumman)
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を象徴するハチの巣のような鏡セグメントが、こうした形をしているのには理由がある。NASAが声明によると、一つひとつの鏡をぴったりとくっつきあわせながら、それらの鏡で構成される主鏡をおおむね円形にすることができるからだ。
「セグメントが円形だと、鏡と鏡のあいだに隙間ができてしまう」と声明は説明し、次のように続けている。「全体としての主鏡は、おおむね円形であることが望ましい。円形なら、検出器上で光が集中する領域がもっともコンパクトになるからだ。たとえば楕円形の鏡の場合、一方向に長くのびた画像になる。四角い鏡なら、光の大部分が中央の領域から出てしまう」
きわめて遠くの光をとらえるのに役立つ形状に加えて、ウェッブの鏡は「アクチュエーター」と呼ばれる装置の助けを借りて稼働する。アクチュエーターは小さな機械的モーターであり、鏡がはるか彼方の天体に焦点を合わせるのを助けてくれる。
各鏡セグメントの裏に、6個のアクチュエーターが搭載されている。そのおかげで、一つ一つの鏡をきわめてゆっくり、ほんの少しずつ動かし、ウェッブの視野を微調整することができる。
「これらのアクチュエーターは、実に素晴らしい工学装置です。『コアステージ』と呼ばれる長い往復距離を移動できるだけでなく、光の波長の数分の一というきわめて高い精度で動ける『ファインステージ』も備わっているのです」とファインバーグは話している。
なぜ金なのか?
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の主鏡。口径は21.3フィート(6.5メートル)。 Image Credit: NASA/C.Gunn
六角形の形状とサイズの巨大さを別にすれば、ウェッブの最も独特な特徴は、鏡がきらきらと輝く金色をしていることだろう。鏡面全体が金でコーティングされているのだ。
その見た目はすこぶる印象的であり、NASAは、この宇宙望遠鏡に着想を得たアートを公募するアートチャレンジまで開催した。
では、「なぜ金なのだろうか?」ということについて、ファインバーグはこう語る。理由の一つは金の反射率がきわめて高いことにあり、この点はきらきらとした光を放つ見た目からもすぐにわかる。「金はすばらしい反射性を備えています。(中略)実際、金は幅広い波長域で最高の反射性を示すのです」
「このように大型の望遠鏡をつくる理由は、一つひとつの光子を残らず捕捉するためです」とファインバーグは続ける。「したがって、個々の(鏡の)コーティングの反射率を極めて高くする必要があります。そうすれば、途中で光子を逃さずにすみますから」
ウェッブの鏡の反射率は98%。つまり、入射する光子の98%を反射すると言われている。したがってほぼそのまま反射するということだ。
ファインバーグはこう続けた。「金にはオーバーコートを施して保護力もあり、極めて頑丈です」
ウェッブの鏡セグメントは、金でコーティングされているだけで、全体が金でできているわけではない。実際には、丈夫だが軽量な金属であるベリリウムからつくられている。一つひとつの鏡セグメントの重さは、地球上で測定すれば46ポンド(20キログラム)ほどだ。NASAの声明によれば、ベリリウムは比較的軽量でありながら極めて耐久性が高いことに加えて、ウェッブが稼働することになる超低温の環境でも形状を保てるという。
極低温に保つ
NASAのマーシャル宇宙センター(MSFC)で極低温試験を受けるジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の鏡。 Image Credit: NASA/MSFC, E.Given
ウェッブは、1996年に開発が始まって以来20年あまりを費やしてつくられた。
ウェッブの鏡の開発、製造、試験には、「世界中の光学専門家で構成される製品検証チーム」が必要だったと、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡プロジェクトマネージャーを務めるビル・オックス(Bill Ochs)は、前述の記者会見の席で語った。
オックスによれば、ハードウェアの試験は「(NASAの)ジョンソン宇宙センターでおこなわれ、アポロ時代につくられた試験チャンバーを、世界最大の極低温チャンバーになるように改造した」という。
この極低温チャンバーは、非常に低い温度の環境を生み出せる設備だ。このチャンバーのなかに、「望遠鏡全体を配置することができた」とオックスは語った。
宇宙の果てをのぞき見て恒星や銀河を見分けるために、ウェッブは赤外線で観測する。だが、赤外線は本質的に熱であるため、ウェッブ自体が温かいと、自身の鏡を通過してくる赤外線を検出できなくなってしまう。
実際、ウェッブの鏡を狙いどおりに稼働させるためには、華氏マイナス364度(摂氏マイナス220度)ほどにする必要がある。その低温を保つために、ウェッブ望遠鏡は、深宇宙へ送りこまれたら遮光シールドを展開し、周囲に存在している太陽の熱から、鏡やその他の計器を遮断する。
そのため、極低温試験では、そういった極低温の条件で、ウェッブの精密な鏡セグメントが稼働するかどうかが確認された。
この記事は、SpaceのChelsea Gohdが執筆し、Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。