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持続可能社会を実現する核融合エネルギーの実現に一歩。最先端レーザー研究所のブレークスルー
米ローレンス・リバモア国立研究所(LLNL)の科学者と技術者のチームは、実験室で生成した燃焼プラズマを、それ自身の核融合反応による熱で短時間維持することに成功したと発表した。実用的な核融合エネルギーの利用に向けた重要なマイルストーンだという。
研究チームは、LLNLの国立点火施設(NIF)にある世界最高出力のレーザー光を使用し、直径約2ミリのカプセルに入れた水素同位体のプラズマを、太陽中心の3倍強という温度にまで加熱した。これにより、水素の核融合反応を誘発するのに必要な圧力が生成され、外部熱源の助けなしに、1メガジュールの約2割に及ぶ核融合エネルギーによって、燃料が自発的に加熱された。
研究チームによる今回の研究成果は、『ネイチャー』誌に2022年1月26日付けで掲載された。主執筆者は、LLNLの物理学者であるアレックス・ジルストラとオマール・ハリケーンだ。
ジルストラはTechRadarの取材に対して、「燃焼プラズマでは、核融合反応による燃料の加熱が、燃焼を開始させるために行った初期加熱を上回ります」と説明した。「今回の論文で報告したように、私たちは2020年11月~2021年2月に実施した実験で、この状態を初めて実現しました。これらの実験では最大0.17メガジュールの核融合エネルギーを生成しました」
この研究の最終目標は、NIF自体の設立理由でもあるが、自己持続的になるほど強力な核融合反応を起こすことだ。そのためには、膨大な量のエネルギーを外部から供給して、核融合を誘発する必要がある。二つの水素原子を融合させる核融合が起きると、大量のエネルギーが放出される。これが真に燃料として機能するには、核融合で放出されるエネルギー量が、最初の核融合点火を起こすのに使われるエネルギー量を上回る必要がある。
ひとたび点火が起これば、核融合が起こるごとに、反応の進行を維持するのに十分なエネルギーが生成される。これにより、隣接する水素原子でも核融合が誘発され、放出エネルギーが指数関数的に増加していく。
実際に、LLNLの技術者チームは2021年8月、こうした燃焼プラズマによって自己持続的加熱を引き起こし、過去の記録を上回るエネルギー出力を発生させることに成功した。LLNLのNIFで実施されたこの核融合実験では、1京(10の16乗)ワットのエネルギーが生成された。
今回の実験で研究チームは、0.17メガジュールのエネルギー出力を実現した。この出力は、持続的な核融合に必要なエネルギー量と比べると10%にも達しないが、燃料に伝わったエネルギーと比べれば大きい。
ジルストラは、「この数値が重要であるのは、核融合の自己加熱を利用すれば、さらなる改良に伴って、生成エネルギー量が大幅に増加する可能性があることを意味するからです。これは、2021年8月の後続実験で、1.3メガジュールのエネルギーが生成されたことで証明されました」と語っている。「点火は、燃焼プラズマよりも困難な課題です。これは、核融合の自己加熱が、燃料のエネルギー損失を引き起こす物理学的メカニズムを圧倒できる場合に起こります」
なお、核融合反応は放射性廃棄物を出さずに行われる。実際、このプロセスの唯一の副産物はヘリウムだ。実のところヘリウムは世界的に不足しているため、このプロセスの副産物でさえも利用価値が高いのだ。
分析:実用的な核融合反応炉は、いつ実現するのか
今回の驚異的な研究成果や、NIFでの10年以上に及ぶ研究実績があるにもかかわらず、核融合が世界に電力を供給し始めるまでには、まだしばらく時間がかかるだろう。
ジルストラは、「核融合点火の科学的実証は、おそらくライト兄弟の飛行機に匹敵するでしょう」と語っている。「もっとも、そうした偉業から、大陸横断フライトのチケットを購入できる現代のジェット機にまで進むのは、いまだに非常に困難を伴うのです」
現時点では、研究者らはどちらかというと、さまざまな要素の概念実証の段階にある。現在の科学技術の状況から見て実用的な核融合が実現可能かどうかの判断を試みているところだ。
各ステップの検証がすべて完了すれば、この新技術を活用する最適な方法を見つけ出すのは、別の科学者や技術者の手に任されることになる。だが、うまく運べば、この研究によって我々の生活が一変するのは間違いない。これはフィクションではなく、科学的事実だ。
この記事は、TechRadarのJohn Loefflerが執筆し、Industry Dive Content Marketplaceを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。