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「光」で燃料電池やリチウム電池の性能を上げる

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米マサチューセッツ工科大学(MIT)と九州大学の研究者チームは、リチウム電池や燃料電池などのイオン(電荷を帯びた原子)の移動を利用した機器について、光を用いて機器の性能を著しく向上させることを可能にする仕組みを、世界で初めて実証した。

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米マサチューセッツ工科大学(MIT)のハリー・テュラー(Harry Tuller)教授(写真右)と、ジェニファー・ラップ(Jennifer Rupp)客員准教授、大学院生のトーマス・デフェリエール(Thomas Defferriere)(左)などによる研究チームは、リチウム電池や燃料電池などの、イオンの移動を利用した機器の性能を、光を用いてどのように高めることができるかを示す研究を行った

物質の中で電荷を移動させることには、さまざまな方法がある。最もよく知られているのは、原子の構成要素である電子によって運ばれる電荷だ。そして光は、電子を励起させて伝導性を高めるのに長年用いられている。一般的な用途としては、太陽電池や、客が通ると自動で開くスーパーのドアなどもある。自動ドアは、赤外線で作動するドアのセンサーを利用する。赤外線も光の一種であり、客の体から自然に発せられている。

「しかし、イオンの構成要素である電子だけでなく、イオン自体の動きを利用した機器も数多くあります」と話すのは、MIT材料科学工学部(Department of Materials Science and Engineering:DMSE)で「R.P.サイモンズ寄付講座教授」を務めるハリー・テュラーだ(専門はセラミック電子材料)。その一例が、リチウム電池だ。電池の充放電時に、リチウムイオンの移動を利用する。同様に燃料電池は、水素イオンと酸素イオンの移動を利用して電気を発生させる。

今回の研究は、テュラーと、MITのジェニファー・ラップ客員准教授(材料科学工学)が共同で主導した。ラップは、独ミュンヘン工科大学(TUM)の准教授(固体電解質化学)でもある。

問題

「ここに厄介な問題があります」とテュラーは言う。彼はMITの材料科学工学部にラップと共に所属するほか、九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I²CNER:アイスナー)にも所属している。

イオンの移動を利用した技術の背後にある素材(固体電解質として知られるもの)は、セラミックスだ。セラミックスは微小な結晶粒子で構成されており、緻密な構造を形成するために高温で焼結されている。問題は、セラミックスの中を移動するイオンが、粒子間の境界で頻繁に妨害されることだ。

「明らかになっているのは、イオン伝導速度(イオンがどのくらいの速度で移動できるか、そして結果的に、その機器がどのくらい効率的になり得るかを示すもの)が、結晶粒界(粒界)でイオンの移動が阻害されるという事実によって、著しく低下することが多いことです」と、テュラーは話す。

解決策

研究チームは、2022年1月13日付の科学誌『Nature Materials』で発表した研究で、イオンが粒界で遭遇するこの障壁を下げるために、光をどのように利用できるかを明らかにしている。「今回の研究では、光を使って障壁の高さを下げています。そうすることで、イオンの流速を3倍に上昇させることに成功しています」と、テュラーは説明する。「システムの最適化により、これを数桁高めることができると期待しています」

MIT材料科学工学部の大学院生トーマス・デフェリエールは、次のように説明する。「この障壁を、二つの山の間にある深い峡谷だと考えてみましょう。一方の山からもう一方へ移動しようとする人は、難しいハイキングに直面するでしょう。しかし、この渓谷が水で満たされると想像してみてください。突如としてこの移動は、はるかに簡単になります。ハイカーは船に乗るか、泳ぐだけでいいのです」

研究チームは、セリア(酸化セリウム、CeO2)とガドリニウムで構成される、広く使われている固体電解質中の酸素イオンの移動に対して、光が及ぼす効果を具体的に実証した。デフェリエールは、「今回の研究成果は、別の元素を伝導させる他のセラミックスシステムにも適用できると見込んでいます」と話している。

今回の研究には参加していない、米スタンフォード大学准教授(材料科学工学)のウィリアム・チュー(William Chueh)は、以下のように述べている。「光の照射下における電子の動きは広く研究されている一方で、イオンの動きは、ようやく注目され始めたばかりです。テュラーのチームによる今回の研究は、燃料電池や電解槽、バッテリーなどを構成する素材に光を照射することにより、イオンの移動に対する障壁を大幅に下げられることを実証しています。今回の興味をそそる発見は、通常は何も見えない闇の中で動作するエネルギー蓄積機器やエネルギー変換機器の性能を、光を使って向上させるという興味深い可能性を開くものです」

今回の研究には参加していない、米ノースウェスタン大学のウォルター・P・マーフィー寄附講座教授(材料科学工学)を務めるソシナ・ハイレ(Sossina Haile)は、「非常に心躍る成果です。イオンの運動をオンオフするスイッチとして、光を利用できるかもしれないことも示唆しています。もしこれが真実なら、その可能性は壮大です」と述べている。

多くの用途

この研究からは、多くの用途が生まれる可能性がある。例えば、充電レートを高めることで、薄型リチウム電池電解液の性能を向上させることができるかもしれない。また、光の焦点を精密に合わせることで、非常に正確な指定位置におけるイオンの流れを空間的に制御することが可能になる。

テュラーとデフェリエールの指摘によると、固体電解質型燃料電池などの、イオン伝導を利用した機器の一部は、イオンが粒界障壁を乗り越えて移動するように、非常に高温(摂氏約700度)で動作させる必要がある。そうなると今度は、高温によって独自の問題が持ち込まれる。「素材自体が劣化する恐れがある」ことや、「そのような高温に対応できる設備は高価になる」などの問題だ。

「熱を必要としない何かを用いて、この障壁を乗り越えることが可能かどうかを確かめるのが、我々の夢でした。もしかしたら、別の道具を使って同様の伝導性が得られるのではないかと考えたのです」と、デフェリエールは説明する。この道具が、光であることが判明したのだ。このような状況下における光の利用を調べたのは、今回の研究が初めてだ。

この研究は、非常にさまざまな学問分野にまたがるものだ。「セラミックスや電気化学に関連する、自分たちの従来分野というコンフォートゾーンから出て、半導体の世界に足を踏み入れることを余儀なくされました」と、デフェリエールは話す。「自分たちの分野の中にとどまっていたら、アイデアを思い付くことはできなかっただろうし、それを説明することもできなかったでしょう。今回の研究は、このことを示す一例です。非常に刺激的でした」

今回の論文のその他の執筆者は、九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所の助教で、MIT材料科学工学部のリサーチ・アフィリエイトでもあるディノ・コロッツ(Dino Klotz)と、MIT材料科学工学部博士課程修了研究者で、現在はスペインにあるカタルーニャ・エネルギー研究所(Catalonia Institute for Energy Research)所属のフアン・カルロス・ゴンサレス=ロシーヨ(Juan Carlos Gonzalez-Rosillo)だ。デフェリエールとコロッツは、論文の共同筆頭執筆者。ラップとテュラーは、デフェリエールの共同指導教官だ。

今回の研究は、米エネルギー省、日本学術振興会、スイス科学財団、米国立科学財団(NSF)、ノルウェーのエネルギー企業エクイノール(Equinor)の支援を受けている。

研究レポート:“Photo-enhanced ionic conductivity across grain boundaries in polycrystalline ceramics”

この記事は、SpaceDaily.comが執筆し、Industry Dive Content Marketplaceを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。