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EVや電力網で使える、より安全で強力な電池を開発する

  • 技術
2022/4/25

現在、電気自動車(EV)を走らせたり、ソーラーパネルから得たエネルギーをあとで使用するために蓄えたりするためにはリチウムイオン電池が使われている。しかし、スマートウォッチのような小型の電子機器で使われている全固体電池は、こうしたリチウムイオン電池よりも安全で強力な代替技術になる可能性がある。一方で全固体電池が広く普及するようになるためには、技術的な課題がいくつか残っている。

米サンディア国立研究所が主導し、科学雑誌『Joule』オンライン版に2022年3月7日付けで発表された研究は、そうした課題のひとつに取り組んだものだ。それは、全固体電池に液体の電解質を加えて性能を向上させると、全固体電池の安全性が損なわれるという、長年信じられてきた仮説だ。

研究チームによると、この仮説とは裏腹に、少量の液体電解質を加えた全固体電池は比較対象のリチウムイオン電池よりも安全であるケースが多いことがわかったという。さらに、「液体電解質を含まない完全な全固体電池」は、理論的には非常に安全とされているが、万一電池がショートして、蓄えていたすべてのエネルギーを放出した場合は、危険な量の熱を出す可能性があることも明らかになった。

この論文の研究リーダーを務め、博士課程修了後にサンディア国立研究所で研究を続けているアレックス・ベイツ(Alex Bates)は、「全固体電池をより安全にするとともに、エネルギー密度を高めることができるかもしれません」と述べる。「つまり、電気自動車であれば、充電から充電までの間に移動できる距離が長くなります。電力網のエネルギー貯蔵であれば、必要な電池の数が少なくなります。液体電解質を加えることで、安全性を犠牲にすることなく、商用化へのギャップを埋めるのに役立つ可能性があるのです」

さらに優れた電池をつくる

全固体電池は、ある面から見るとリチウムイオン電池によく似ている。どちらの電池もリチウムイオンが電池の一方の極から他方の極へと移動することで、電子が回路を流れて機器に電力が供給される。大きな違いのひとつは、リチウムイオン電池には、リチウムイオンの移動を速くするための物質である、液体電解質が満たされている点だ。

サンディア国立研究所の電池乱用試験研究室(Battery Abuse Testing Laboratory)に所属し、今回の研究に参加したバッテリー安全性の専門家、ロレイン・トレス=カストロ(Loraine Torres-Castro)は液体電解質について、車の列をそれぞれの家に続く進入路に入れるようなものとして説明する。つまり、リチウムイオンを行くべき移動先まで直接運ぶのだ。ただし、現在の液体電解質には引火性があり、電池の爆発や火災を起こす可能性がある。電池が損傷している場合は特に危険だ。

全固体電池は、液体電解質を固体電解質と呼ばれる固体材料で置き換えたものだ。固体電解質も、リチウムイオンの移動を速くするはたらきがある。技術的な課題のひとつは、固体電解質の内部ではリチウムイオンが速く移動できるものの、固体電解質と電極との間の往復が難しいという点だとベイツは述べる。固体電解質は、列車での移動にたとえることができる。リチウムイオンを駅まで往復させることは速いが、乗客は家に着くまで、さらにもう少し移動しなければならない。

このような「直接移動」の速度を速くする(それにより、電池の充電速度や性能も改善させる)ために科学者たちが行ってきた方法のひとつが、電池の正極側に、少量の液体電解質を加えることだ。

今回の研究に参加した、サンディア国立研究所の電池信頼性の専門家であるユリヤ・プレガー(Yuliya Preger)は、次のように述べている。「全固体電池の研究者たちの間では、『ホイールに油を差す』ために液体電解質を加えることの安全性について、多くの議論があります。液体電解質は、どれほど少量であっても安全ではないと言う科学者もいます。そのため私たちは、研究者の一般的な見解をそのまま受け入れるのではなく、液体電解質がどのような影響を与える可能性があるのかを確認するための計算を行いました」

上述した「一般的な見解」に最初に疑問を投げかけたのが、米ローレンス・バークレー国立研究所の電池研究者スティーヴ・ハリス(Steve Harris)と、サンディア国立研究所のケイティ・ハリソン(Katie Harrison)だ。その疑問が、今回の研究のきっかけとなった(2人とも、今回の研究に参加している)。

全固体電池はどのくらい安全なのか

少量の液体電解質を加えた全固体電池がどのくらい安全なのかを評価するために、研究チームは、リチウムイオン電池、完全な全固体電池、液体電解質の量を変えた複数の全固体電池から、どのくらいの熱が放出されるかを計算することから始めた。実験対象の電池は、すべて同等のエネルギーを貯えている状態にした。次に、これらの電池に起こり得る望ましくない3つの状況と、それぞれの不具合によって放出される熱を調べた。

「私たちは、これら3種類の電池にどのくらいの化学エネルギーが含まれているかを判定することから始めました」と、この研究に参加した、サンディア国立研究所の熱放出計算の専門家ジョン・ヒューソン(John Hewson)は述べる。「放出できるエネルギーは限られていますが、化学反応が起きると、放出されたエネルギーによって、電池がある程度熱くなります」

起こり得る望ましくない状況の1つ目は、電池が燃える可能性だ。火元は、隣接する電池である場合もあるし、周囲の建物である場合もあると、トレス=カストロは述べる。このような場合に、少量の液体電解質を加えた全固体電池が放出する熱は、加えられた液体電解質の量に応じて異なるものの、比較対象であるリチウムイオン電池と比べると5分の1程度であることがわかった。この状況では、液体電解質を加えていない全固体電池からの熱放出はなかった。

電池に起こり得る望ましくない状況の2つ目は、充電と放電を繰り返すことによって、リチウム金属に「デンドライト」と呼ばれる樹枝状の結晶ができることだ。このデンドライトによって、正極と負極を分けているセパレーターに穴が開いてショートの原因になる、とプレガーは説明する。これは、どちらかの極にリチウム金属が使われているすべての電池に発生する既知の問題だ。この状況では、電池に含まれるリチウム金属の量に応じて異なるものの、3種類の電池すべてでほぼ同量の熱が発生した。

全固体電池に起こり得る望ましくない状況の3つ目は、固体電解質が破損する可能性だ。これは、電池が押しつぶされたり、穴を開けられたり、動作中に圧力が蓄積したりすることで発生する可能性があり、電池の一方の極にある酸素が、もう一方の極にあるリチウム金属と反応することになる、とトレス=カストロは説明する。これらのケースでは、液体電解質を加えていない全固体電池の温度が、リチウムイオン電池の温度に近いところまで達する可能性があることがわかり、チームを驚かせた。

安全性の計算から、研究室での実験へ

「全固体電池に関する約束ごとのひとつに、固体電解質は堅くて破損しにくいため安全だということがあります。しかし、固体電解質が破損した場合、その温度上昇は、リチウムイオン電池が不具合を起こした場合と同程度になります」とプレガーは述べる。「この研究によって、不具合を起こさないようなセパレーターを設計する重要性が明らかになりました」

今回の研究プロジェクトの次のステップには、他の材料を使った固体電解質で同様の計算を行うことと、それによる新しい計算と元の計算を確認するための実験を行うことが含まれるとベイツは述べる。

「全固体電池にリチウム金属が使われている限り、液体電解質が含まれるかどうかにかかわらず、危険なものになる可能性があることがわかりました」と、ベイツは述べる。「私たちがこの論文で指摘しようとしたのは、性能と安全性がトレードオフの関係にあることは明らかであるものの、わずかな液体電解質を加えることによって、性能が大幅に向上する可能性がある一方で、安全性に与える影響は小さいということです」

このようなトレードオフの関係を理解することが商業化の加速に役立つかもしれないと、トレス=カストロは付け加える。「明確に、自信をもって、少量の液体電解質が安全性の大きな問題を引き起こさないことを知ることが、商用全固体電池の開発に役立つ可能性があります。液体電解質を加えることで、全固体電池の主要な問題のひとつである、固体電解質界面(solid electrolyte interface)の問題を解決できる可能性があるのです」

研究レポート:“Are solid-state batteries safer than lithium-ion batteries?”

この記事は、SpaceDaily.comが執筆し、Industry Dive Content Marketplaceを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。

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