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核融合の進化を握る「壁」

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英国にある欧州トーラス共同研究施設(JET:Joint European Torus)の科学者チームはこのほど、制御された持続的な核融合反応で生成されるエネルギー量の記録を塗り替えた。5秒間で59メガジュールのエネルギーを生成したこの実験結果は、2022年2月はじめ、一部の報道機関により「画期的な進展」と報じられ、物理学者のあいだに興奮の嵐を巻き起こした。しかしながら、核融合発電に関してよく言われるのは、「(実用化は)常に20年先」ということだ。

本稿の筆者2人は、原子核物理学者と原子力技術者であり、発電に利用するための制御された核融合の開発方法を研究している。

JETの実験結果は、核融合の物理過程に関する理解が著しく進歩したことを実証している。だが、同じくらい重要なことがある。今回の実験で、核融合炉の内壁の建造に使用される新素材が、目的通り機能したことだ。新しい壁の構成が、従来と同様にうまく機能したという事実は、今回の結果が過去の画期的研究結果と一線を画す理由であり、磁気核融合炉を、夢物語から現実へと後押しする要因となる。

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JETの磁場核融合実験は、世界最大のトカマクである。Image Credit: EFDA JET/WikimediaCommons, CC BY-SA

粒子を融合させる

核融合とは、2つの原子核を融合させ、1つの複合核を作ることだ。この複合核がその後崩壊し、新しい原子と粒子の形でエネルギーが放出される。核融合発電所は、この反応から飛び出してくる粒子を捕え、そのエネルギーを利用して発電することになる。

地球上で核融合を安全に制御するためには、いくつかの異なる方法がある。本稿では、JETが取ったアプローチに注目する。強力な磁場を使って原子を閉じ込め、核融合を起こすほどの高温にまで加熱する方法だ。

現在と将来の反応炉の燃料は、2つの異なる水素の同位体で、重水素と三重水素と呼ばれる。どちらも1つの陽子を持つが、中性子の数が異なる。通常の水素は、原子核の中に陽子が1つあるが、中性子はない。重水素は、陽子を1つと中性子を1つ持ち、三重水素は、陽子を1つと中性子を2つ持つ。

核融合を成功させるには、燃料となる原子を非常に高温にして、電子が原子核から分離した状態にする必要がある。これにより、陽イオンと電子の集まりであるプラズマが生成する。その後も、プラズマが華氏2億度(摂氏1億度)以上に達するまで加熱し続けなければならない。さらにこのプラズマを密閉空間に高密度で閉じ込め、この状態を、燃料原子が互いに衝突して融合するのに十分なあいだ持続させる必要がある。

地球上で核融合を制御するために、研究者らは、磁場でプラズマを閉じ込める「トカマク(Tokamak)」と呼ばれるドーナツ型の機器を開発した。ドーナツの内部を包み込む磁力線が、イオンと電子のたどる「線路」のような役割をする。プラズマにエネルギーを与えて加熱することにより、燃料粒子を加速させ、衝突時に互いに跳ね返らずに原子核が融合するほどの高速を実現することが可能になる。これが起これば、主に高速で動く中性子の形で、エネルギーが放出される。

核融合の過程で、燃料粒子は、高温高密度のコアプラズマから次第に離れ、最終的には核融合反応容器の内壁に衝突する。この衝突が原因となって、内壁が劣化するが、これは、核融合燃料への不純物混入にもつながる。こうした劣化を防ぐために、反応炉は、コアから離れた粒子が、遮蔽板で囲まれた空間「ダイバータ(divertor)」に導かれるように設計されている。これにより、コアから離れた粒子が排出され、余剰熱が除去されることで、トカマクが守られる。

壁が重要

従来の反応炉では、粒子衝突が数秒間以上続くとダイバータが耐えられなくなることが大きな制約となってきた。核融合発電を商業的に稼働させるには、技術者らは、核融合に必要な条件下で何年もの使用に耐え得るトカマク反応容器を建造する必要がある。

第一の検討事項になるのが、ダイバータの壁材だ。燃料粒子は、ダイバータに到達するときには温度がかなり低くなっているが、それでもまだ、ダイバータの壁材に衝突すると原子をはじき出すほどのエネルギーを持っている。JETのダイバータはこれまでグラファイト製の壁だったが、グラファイトは燃料を吸収・捕捉し過ぎるため、実用化には向かない。

JETの技術者らは2011年頃、ダイバータと反応容器内壁を、タングステンにアップグレードした。タングステンが選ばれた理由の一つは、金属の中で最も融点が高いからだ。この特性は、地球大気圏に再突入するスペースシャトルの先端部の10倍近い熱負荷が、ダイバータに加わる可能性が高い場面で極めて重要になる。今回、トカマクの反応容器内壁は、グラファイトからベリリウムにアップグレードされた。ベリリウムは、核融合炉に最適な熱的・力学的性質を持っている。燃料の吸収量がグラファイトより少ない一方で、高温に耐えることができるのだ。

反応炉壁が向上したこともあり、今回JETが生成したエネルギーは、核融合技術における重要な中間目標を達成するものとなった。ただし我々としては、実のところ、今回の実験を真に印象的なものにしているのは、新しい壁材の使用だと、ここで主張しておきたい。なぜなら、将来の機器を高出力でさらに長時間作動させるには、より堅牢な壁が不可欠になるからだ。JETによる今回の実験は、次世代の核融合炉をどのように構築すべきかについての概念実証に成功したものと言える。

次の核融合炉

JETのトカマクは、現在稼働中のものとしては最大規模かつ最先端の磁気核融合炉だ。だが、次世代の反応炉の計画がすでに進行している。最も特筆すべきは、フランスで建設中の実験用大型トカマク「国際熱核融合実験炉(ITER)」で、2027年に運用が開始される予定だ。ラテン語で「道」を意味するITER(イーター)は現在、米国を含む国際的機構の資金提供と監督の下で計画が進められている。

ITERは、JETが実効性を証明した「材料面の進展」のうち、多くを活用する見通しだ。だが、大きな相違点もいくつかある。第一に、ITERは非常に大型だ。核融合チャンバーは高さ37フィート(11.4メートル)、周囲63フィード(19.4メートル)で、JETの8倍以上の大きさとなる。加えてITERには、JETの磁石よりも強力な磁場を、より長時間発生させることが可能な超電導磁石が採用される。こうした機能向上によりITERは、JETの核融合が樹立したエネルギー出力と反応持続時間の記録をどちらも塗り替えると期待されている。

さらにITERは、核融合発電構想の中心的課題に取り組むことが期待されている。それは、「燃料加熱に要するエネルギーを上回る量のエネルギーを生成する」ことだ。モデルによる予測では、ITERは400秒間連続で約500メガワットのエネルギーを生成する一方で、燃料加熱に消費するエネルギーは50メガワットにとどまる見通しだ。これは、ITERの反応炉が、エネルギー消費量の10倍のエネルギーを生成したことを意味する。これは、JETに比べて非常に大きな進歩だ。JETは今回、59メガジュールという記録的なエネルギー量を生成したが、その際、燃料を加熱するために約3倍のエネルギーを必要とした。

JETによる今回の記録は、プラズマ物理学と材料科学における長年の研究が結実し、核融合発電の入り口まで科学者らがたどり着けたことを示している。さらにITERは、産業規模の核融合発電という目標に向けた大きな前進をもたらすに違いない。

この記事は、SpaceDaily.comが執筆し、Industry Dive Content Marketplaceを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。