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惑星科学の10年間「計画書」

  • 未来
2022/6/15

太陽系は魅力的な目的地にあふれているが、米航空宇宙局(NASA)が運営できるミッションには限りがある。

NASAは、全米科学・技術・医学アカデミーの科学者に対して、惑星科学の状況を10年ごとに評価し、科学界にとって最優先とすべき問題を判断するよう求めている。「10年毎調査(decadal survey)」と呼ばれるこの壮大な取り組みでは、現在最新の報告書が公開されており、天文ファンたちが次の10年間で楽しみに待てることに注目が集まっている。

テキサス州にあるサウスウェスト研究所の惑星科学者であり、10年毎調査運営委員会の共同議長であるロビン・カナップ(Robin Canup)氏は、声明の中で次のように述べている。「この報告書は、惑星科学、宇宙生物学、惑星防衛の未開拓分野の研究を推進することを目的とした、次の10年に関する野心的かつ実行可能な展望を設定している。ここで推奨されているミッション、優先度の高い研究活動、技術開発の一覧表は、太陽系の起源と進化、また、地球以外の天体における生命および居住可能性に関する人間の知識と理解を大きく前進させるだろう」

委員会のメンバーはこの報告書について、2022年4月19日午後2時(東部夏時間、グリニッジ標準時では午後6時)に開催される記者会見で発表した。この模様は全米アカデミーを通じてライブ中継された

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今回の新しい10年毎調査について、科学者たちが検討を開始したのは2019年終わりのことだ。このプロセスには半ダースほどの委員会が関わっており、各委員会が少なくとも20回開催され、世界中の科学者が提出した合計527のホワイトペーパーが検討された。完成した報告書は780ページにも及び、天文学と天体物理学の分野の同様の報告書が発表されてから、そのわずか数カ月後に出された。

報告書の分量が非常に多いため、科学者や行政官は数カ月にわたってこの調査結果をじっくり熟読することになるが、いくつかのポイントについては、最初からその重要性は明白だ。

最重要ミッション

10年毎調査の重要な任務のひとつは、NASAミッションの優先順位を決めることだ。これには、「最重要(flagships)」と称される最大のミッションも含まれている。NASAが現在取り組んでいる2件の最重要ミッションは、前回の10年毎調査で推奨されたもので、2021年に火星に着陸した火星探査車「パーシビアランス(Perseverance)」(予算27億ドル)と、2024年に打ち上げを予定されている、木星の第2衛星エウロパを探査する「エウロパ・クリッパー」ミッション(予算42億5000万ドル)だ。

運営委員会は、今回の新しい報告書のために、太陽系全体で6つの最重要プロジェクトの候補を評価した。その内容は、水星に宇宙探査船を着陸させることから、海王星とその最大の衛星トリトンの両方を探索するミッションまでさまざまだった。

運営委員会は、最重要ミッションとして推奨された案の中から、NASAの最優先事項は、天王星への最重要クラスのミッションの開発になるべきだと決定、これは40億ドルかかると予想されるプロジェクトだ。天王星の周回機と探査機という構想が第1位に押し上げられた背景には、さまざまな要因が組み合わさっているが、「巨大氷惑星」と呼ばれる天王星を詳しく調べることで実現する科学的成果の可能性と、このミッションの実行可能性の両方が含まれている。

このミッションは、2031年か2032年に打ち上げられ、約13年かけて目標に到達した後、天王星を数年にわたって周回し、その大気や内部のほか、天王星の環(わ)や衛星を詳細に調べることになる。

運営委員会のメンバーは報告書で、「天王星自体が、太陽系の中で最も興味深い天体のひとつだ」と書いている。同委員会は、巨大氷惑星(天王星とその隣の海王星)のひとつに向けた専用ミッションを最終的に開発することは極めて優先度が高いと主張しているが、この10年のあいだに海王星ミッションを実行するのは困難だとも述べている。

次の10年毎調査が発表されるのは2032年だが、その前に、NASAが(天王星ミッションに続く)第2の最重要ミッションを遂行できるだけの莫大な資金を得た場合向けに、運営委員会が推奨したのは、土星の小さな氷の衛星エンケラドゥスを周回して着陸する推定50億ドルの宇宙探査船「エンケラドゥス・オービランダー」(Enceladus Orbilander)だ。このミッションは、エンケラドゥスを約1年半周回した後、2年かけて表面を調査し、氷ったサンプル(試料)を採取・分析することになる。

太陽系内外での惑星科学

太陽系には8つの惑星、200を超える衛星、さらに無数の小さい天体が存在しており、惑星科学者が選べる探索の機会は豊富にある。だが、今回の新しい10年毎調査に一貫している重要な主題は、惑星科学を、地球周辺の天体だけでなく、太陽系外惑星に住む可能性のある生物の世界という観点からも検討することだ。

これは当然と言える。前回の10年毎調査が発表された2012年には、科学者が確認していた太陽系外惑星は1,000個に満たなかったが、現在はその数が5,000を超えている。この10年間、天文学者たちは、太陽系が他の惑星系の典型例と言える点、あるいは言えない点の解明にも取り組んできた。

実際に、太陽系外惑星の科学は、10年毎調査チームが、天王星への最重要ミッションを優先する主な理由として挙げたものだ。「天王星と同じくらいの質量をもつ太陽系外惑星は、おそらく太陽系外惑星としては最も豊富に存在している部類であり、ガスが豊富な木星や土星とは本質的に異なる惑星の部類だ」と科学者たちは書いている。

今回の10年毎調査では、次の10年間で惑星科学者が取り組むべき、最も急を要する科学的問いとして、3つの広大なテーマを挙げている。それは、起源(「太陽系と地球はどのように生じたのか、また太陽系のようなシステムは宇宙では一般的なのか珍しいのか」)、惑星世界とその過程(「惑星体はどのように、始原状態から、現在見られるような多様な物体に進化したのか」)、生命と居住可能性(「どのような条件が、地球における生命と居住可能な環境の発生につながったのか、また生命は他の場所で形成されたのか」)だ。

これらの疑問が重要になるのは、運営委員会によって支持された中規模ミッションの目的地候補を検討するときだ。その候補には、の地球物理学的ネットワーク、彗星または小惑星ケレスへのサンプルリターンミッション、土星またはその衛星であるタイタンとエンケラドゥスを目指すさまざまな宇宙探査船などがある。

10年毎調査は、大局的な考えに基づく一方で、惑星科学者コミュニティへの明確な焦点も含まれている。今回の報告書では初めて、この専門的職業の状態に関するセクションが設けられている。そして、惑星科学者が直面している社会的問題や構造的問題、すなわち、暗黙的かつ体系的なバイアスがあることや、現場の集団が社会的に無視されがちであり、代表者も少ないことなどを評価している。

運営委員会は、こうした問題の実態に関する事実を集めて分析するためのシステムを強化することの重要性を強調している。例えば10年毎調査は、二重匿名査読(dual anonymous peer review)と呼ばれるシステムを支持している。このシステムでは、提案された科学的知識のみに基づいて監察結果が評価されるようにするため、委員会の手を離れる際に、提案から著名科学者の名前が削除される(科学者たちは現在、この仕組みを使用して、ハッブル宇宙望遠鏡とジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の使用時間を割り当てている)。

アリゾナ州立大学に籍を置く惑星科学者であり、運営委員会の共同議長であるフィリップ・クリステンセン(Philip Christensen)は、次のように述べている。「科学的解明は、科学界の活動における一番の動機ですが、科学界の最も重要なリソースに関する問題にも果敢に取り組む必要があります。科学の素晴らしさを最大限に引き出し、宇宙探査における米国のリーダーシップを守り続けるためには、現場での広範なアクセスと参加を保証することが不可欠です」

今回の10年毎調査で初めてセクションが割り当てられた2つ目のテーマは惑星防衛だ。NASAが近年ますます力を入れている分野であり、近隣に存在する小惑星が地球に及ぼす危険を特定・追跡・評価することなどが含まれる。NASAはすでにこうした小惑星を検知する調査プログラムを機能させており、こうした地球近傍物体を特定するための新しい宇宙探査船「NEOサーベイヤー(NEO Surveyor)」の製造に取り組んでいる。これらはすべて10年毎調査が提案してきたものだ。

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さらに10年毎調査はNASAに対して、2029年に起こると予測されている大型の小惑星アポフィスのフライバイ(接近通過)を利用するよう求めている。この遭遇でアポフィスが地球に衝突することは決してないが、このような大型の小惑星がこれほど接近して通過することは、科学者にとって、惑星防衛を実践し、フライバイが小惑星自体に引き起こす変化を研究できる絶好のチャンスになる。

惑星防衛プログラムは2021年11月、初めての専用ミッション、DART(Double Asteroid Redirection Test=二重小惑星方向転換試験)探査機を打ち上げた。この探査機は2022年10月、二重小惑星ディディモスを周回する衛星ティモルフォスに衝突して、脅威となる小惑星を地球の危険区域から移動させる人間の能力をテストする予定だ。このミッションと、NEOサーベイヤーミッションの次になるNASAの優先事項は、近傍小惑星に対応できる緊急対応船を打ち上げることだ、と10年毎調査は述べている。言ってみれば、小惑星衝突という大惨事を防ぐための最終リハーサルだ。

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この記事は、SpaceのMeghan Bartelsが執筆し、Industry Dive Content Marketplaceを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。

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