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AIと機械学習を使って、気候変動への反撃を開始する
人工知能(AI)と機械学習の進歩により、二酸化炭素回収や、地球工学プロジェクトを通じた炭素排出削減が進む可能性がある。
マイクロソフトでResearch for Industry(RFI)のマネージング・ディレクターを務め、Agri-Food(農業食糧)部門の最高技術責任者(CTO)を務めるランヴィール・チャンドラ(Ranveer Chandra)氏は、気候と農業技術のソリューションを研究してきた。マイクロソフトは現在、この分野における炭素削減に熱心に取り組んでいる。チャンドラ氏によると、AIが支援できることは地球工学プロジェクトの「全体的ソリューション」を、より対象を限定し、安価なものにして、透明性を高めることだという。
AIによって研究者は、海洋地球工学や太陽地球工学に適した場所やその影響をうまく推計することで、最も適切で効果的なアプローチを判断することができる。また、高価なシミュレーションをAIで代替したり、プロセスベースのモデルをAIで強化したりすることも可能だ(これにはPythonベースの「Causal ML」といった有望な新技術がある)。
存亡の危機に取り組む
ただし、まだ大きな課題があるとチャンドラ氏は指摘する。「一つは、ソリューションを大規模に実施するコストです」と同氏はIT Proに語った。「二つ目として、こうした地球工学のソリューションはいずれも、直接的な影響や2次的な影響の全容がよくわかっていません」
二酸化炭素を一般的に地下の地層に堆積させる二酸化炭素回収貯留(CCS)は、比較的有望だとする見方が一般的だが、「いまだに、非常に高価な炭素除去方法です」とチャンドラ氏は言う。「AIを用いることで、地震のモデル化をスケールアップできます。偏微分方程式とシミュレーションを用いる既存のアプローチから、1500倍以上のスピードアップが可能です」と同氏は語る。
これは、炭素の流れのモデル化とCCSの運用計画が、AIによって向上することを意味する。マイクロソフトはNVIDIAをはじめとするパートナーと協力して、CCSプロジェクトの原動力となるAIと機械学習のアプローチを開発している。
現行のプロジェクトと計画されているものを合わせると、年間約40メガトンの二酸化炭素を隔離できるかもしれない。しかし、気温上昇を産業革命前から摂氏1.5度以内にとどめるには、この100倍の貯留能力が必要になる、とチャンドラ氏は指摘する。「これは存亡に関わる問題です。我々は、気候変動を緩和する手法の発明に協力する必要があります」
英国のレディング大学で気候科学に関するグランサム講座の教授を務めるテッド・シェパード(Ted Shepherd)氏によると、原因と結果の解明に関しては、純粋にデータに基づくアプローチよりも、物理学に基づくシミュレーションモデルのほうが信頼できるのが一般的だという。
「通常の理解では、データ科学は分析すべきデータが大量にある状況で、効率的なソリューションを見つけるのが得意です。一方で気候の介入戦略は、その性質上、サンプルが存在しません。つまり、既存のデータでは表現されていないのです」とシェパード氏は言う。「サンプルがない問題に、データ科学の手法を適用するとうまくいかない傾向があります」
ただし、因果関係を扱うAI(予測モデルでは対応できない行動や出来事の根底にある原因を特定するAI)のイノベーションによって、原因と結果の関係の把握が大きく進めば、望ましくない結果を招くリスクは低減できる可能性がある、とシェパード氏は語る。
CCSを促進するマイクロソフトの研究プロジェクト
Northern Lights:ノルウェー政府、エクイノール、シェル、トタルと共同で、2024年から始まる北海での貯留に向けて、CCSの標準化と規模拡大に取り組む
KarbonVision:コンピュータービジョンのアプローチを用いて、地震データに基づき地質断層をマッピング。二酸化炭素が漏れるおそれがある経路の発見にかかる処理時間を短縮する
Q-FNOs for 3D flow:二酸化炭素の流れと貯留のスケーラブルな産業対応3Dシミュレーションを開発(一般に複雑で多くの計算能力が必要な結合偏微分方程式を含む)
Redwood:既存の「Azure HPC」サービス上に、より管理しやすい分散プログラミングフレームワークを構築することを通じて、Azure上でクラスタレス・スーパーコンピューティングを目指す
Hyperwavve:耐障害性のクラウドネイティブ・フレームワークを用いて、地震のハイパースケールな3Dイメージングを実現(「Docker」「Kubernetes」「Dask」によってコンテナ化した大規模な並列ワークロードをAzure上で実行)
気候危機をイノベーションで抜け出す
CCSのほかにも、成層圏エアロゾル注入(SAI)やマリン・クラウド・ブライトニング(MCB)などのさらに野心的な発想がある。日光を反射して宇宙に戻すことで地球の温暖化緩和しようとするもので、前者は反射する微粒子を成層圏に噴霧し、後者では海から結晶化された塩を、雲の「種」として使う。
TurinTech AIでデータサイエンティストを務めるヴィターリ・アヴァギャン(Vitali Avagyan)博士は、AIを使うことでCCSプラントのトラブル予測をリアルタイムで行えるほか、複雑な脱炭素戦略の比較が可能になると語る。
「センサー、天候モデル、気象モデルから得られる環境データが急増しており、迅速な分析が難しくなっています」とアヴァギャン氏は言う。「AIを使えば、エネルギーシステム全体に対する、CSSの集合的な影響を測定できるようになります」
シェパード氏は、成層圏エアロゾル注入は「たやすく実行可能」に見えるかもしれないが、結局のところどうなるのかを厳密に分かっている人はいないと述べる。例えば、ある国で実施した成層圏エアロゾル注入が、他の国に問題を引き起こしたらどうするのか。南アジアのモンスーンがおかしくなれば大惨事だ。つまり、ガバナンスの難しさがある。
Dye & Durhamで科学責任者を務めるティモシー・フェアウェル(Timothy Farewell)博士は、関係する相互作用とプロセスを厳密に把握するとともに、評価、フィルタリング、データ・クリーニングをしっかり行う必要があると強調する。
「AIモデルや機械学習モデルのなかには、トレーニングデータの範囲を超えて極端な状況まで外挿しようとする無鉄砲なものもあります。この場合、正解率に深刻な問題が生じます」と、フェアウェル氏は警告する。
英国のエクセター大学で大気科学の教授を務めるジム・ヘイウッド(Jim Haywood)氏はIT Proに対し、特に成層圏エアロゾル注入とマリン・クラウド・ブライトニングについては、リスクとチャンスの管理のために、物理科学的な知識をさらに拡大することが必要だと語った。
これにはシェパード氏も同意見だ。「気候変動の局所的な側面について、実はそこまでの確信が得られていません。因子がたくさんあるため、計画的に進める必要があるのです。そこでAIの出番となります」
また、確立された物理法則であっても、大気のシミュレーションに適用する際には、地球規模のシステムをグリッドボックスに分割することになる(とはいえ、必要な式は離散ではなく、空間において連続になるはずだ)。シェパード氏によると、気候モデルのよくあるグリッドボックスは、水平方向が50平方キロメートルで、垂直方向が1キロメートルだ。「これはかなり粗く、多くを表現できてはいません」と同氏は言う。「不確定な要素があり、そのため、モデルの計算コストが非常に高くなるのです」
理想的には、非常に高い空間解像度を使った数多くのプロセス(実行)の「アンサンブル」によって、可能性のあるあらゆる結末を計算することが必要だとシェパード氏は話す。「氷と液体で構成された混合層雲のように、基本的に理解されていないプロセスがあることや、さまざまなトレードオフについて、科学者によっても主張が異なるでしょう」
この記事は、IT ProのFleur Doidge執筆し、Industry Dive Content Marketplaceを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。