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バイオガスからカーボンネガティブな水素をつくる
CO2の捕捉と貯蔵なくして、世界がパリ協定の摂氏1.5度という目標を達成できる見込みはない。そして植物は、もとより空気中からCO2を捕捉する能力に優れているから、これらを活用しない手はない。
こうした発想を支柱として、デンマークにあるオーフス大学の新たな研究プロジェクトでは、同国初の触媒熱分解を利用したバイオガス水素生成反応装置の開発がおこなわれる。熱分解の過程では、高温にさらすことにより、天然ガス(または再生可能バイオガス)に含まれるメタンが、水素と炭素に分解される。
このプロジェクトは、デンマーク独立研究基金の助成を受けている。
プロジェクトリーダーである同大生物科学工学科のパトリック・ビラー准教授は、次のように語る。「我々に今必要なのは、ゼロカーボン技術だけではありません。CO2排出量の収支がマイナスになるような炭素貯蔵技術も必要です。このプロジェクトが提案するのは、天然ガスではなくバイオガスを利用する、既存の『ターコイズ水素技術』の応用と最適化です。これにより、バイオガス分野の先進国であるデンマークに最適な、正真正銘のカーボンネガティブ技術が誕生するでしょう」
世界のCO2排出量のうち約3%は、天然ガスを原料としたいわゆる「グレー水素」の生産に由来する。一般にグレー水素の代替技術とされるグリーン水素は、電気分解によって水を水素と酸素に分けるものだ。
しかしグリーン水素の生産は、再生可能エネルギーを利用する場合にはカーボンニュートラルになりうるものの、けっしてカーボンネガティブにはならない。また、水の分解には大量のエネルギーが必要で、再生可能エネルギーを利用しない場合にはCO2排出を伴う。
現在、世界における水素生産量の95%は、水蒸気メタン改質(SMR)と呼ばれる手法を利用している。これは、天然ガスを水素とCO2に変換するものだ。代替技術として注目を集めるターコイズ水素は、天然ガスから水素を生成するところは同じだが、熱分解によって炭素を固形化する点が異なる。
通常のターコイズ水素はカーボンニュートラルだ。これは、化石資源である天然ガスに由来する炭素が発生するものの、空気中に排出されないためである。
ビラー准教授は、バイオガスからターコイズ水素を生成する技術の設計と開発に取り組んでいる。
「植物は毎日、光合成を通じて炭素固定をおこなっており、しかも極めて効率的です。バイオガスは、大気中からCO2を吸収してきた植物質に由来します。したがって、バイオガス熱分解ではもともと大気中にあった炭素が固形化されます。炭素100%の黒い粉末であり、廃棄することもできるし、高付加価値製品の原料として他の産業に利用することもできます」と、ビラー准教授は説明する。
「つまり、CO2を排出しないだけでなく、総体として大気中のCO2を減らすように作用するのです」(ビラー准教授)
研究チームは現在、デンマーク独立研究基金の助成を得て、このプロセスを制御するシステムの設計と開発にあたっている。目標は既存のターコイズ水素技術の応用だが、これは決して容易なことではない。
「天然ガスとバイオガスには、大きな違いがあります。例えば、バイオガスには多種多様でまったく異なる不純物が含まれることを考慮しなくてはなりません。加えて、メタン熱分解には摂氏約1,200度の高温が必要ですが、我々はこれを回避し、反応開始時に必要なエネルギー量を大幅に削減できる金属触媒を見つけ出したいと考えています。500~600度の範囲で反応を起こせるようになると期待しています」
システムが完成した際には、グリーン水素生産の約5分の1のエネルギーで水素を生産できるようになると考えられる。この方法には、大気由来の炭素を固形化させるというメリットもある。システムの稼働とテストは、デンマークの都市ヴィボーに近いフォウルムに位置する新キャンパス「AU ヴィボー」にある、オーフス大学の研究センターで実施される。ビラー准教授は、以下のように述べる。「デンマークは、バイオガス分野で世界をリードしています。Power-2-X(電力を、その他のエネルギーに変換する技術)でも、水素でも、素晴らしい成果をあげており、エネルギー源として再生可能エネルギーが大きな割合を占めています。バイオガス由来のターコイズ水素は、こうしたわが国の状況に完璧にマッチしており、この分野でのデンマークの将来は明るいと確信しています」
この記事は、SpaceDaily.comが執筆し、Industry Dive Content Marketplaceを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。