CLOSE

About Elements

美しい未来のために、
社会を支えるテクノロジーを

TANAKAは、「社会価値」を生む「ものづくり」を世界へと届ける「貴⾦属」のスペシャリスト。
そして、「Elements」は、わたしたちのビジネスや価値観に沿った「テクノロジー」や「サステナビリティ」といった
情報を中⼼に提供しているWEBメディアです。
急速にパラダイムシフトが起きる現代において、よりよい「社会」そして豊かな「地球」の未来へと繋がるヒントを発信していきます。

Elements

美しい未来のために、
社会を支える技術情報発信メディア

検索ボタン 検索ボタン

75歳おめでとう!世界を変えた、小さくて強いトランジスタ

この記事をシェアする

1964年に発売された世界初のオールトランジスタ・ダイオード式卓上電卓機「CS-10A」の横で、2006年発売のIEEEマイルストーン認定記念モデル、ゴールドの電子式計算機「EL-BN691」を手に持つシャープ(株)のタナカ エマ氏 Top Image Credit:YOSHIKAZU TSUNO/AFP via Getty Images

現代のような世界は、75年前に米ニュージャージー州の平凡なオフィス街から始まったと言っても過言ではない。

時は、ベル研究所の絶頂期。電話会社の研究部門として1925年に設立されたベル研究所は、1940年代には科学者と技術者の活動の場になっていた。電波望遠鏡、レーザー、太陽電池、複数のプログラミング言語など、次々とイノベーションが生まれた。しかしそれらのいずれも、影響力ではトランジスタにはかなわないだろう。

1947年末にベル研究所で初めて作られたトランジスタのことを、人類の歴史上最も重要な発明だとする技術史家もいる。実際にそうなのかはさておき、世界をデジタル化した変革のきっかけの一つがトランジスタだったことは疑問の余地がない。トランジスタがなかったとしたら、現在のような電子工学は存在し得なかった。地球上のほぼ全員が、まったく異なる日々を送っていたはずだ。

ニュージャージー州にある米国電気電子学会(IEEE)のシニアメンバー、マノジュ・サクセナ氏は、「トランジスタは、あらゆる所得水準の国々に多大な影響を与えた」と語る。また、現在のベル研究所のバイスプレジデントであるセオドア・サイザー氏はメールで、「(トランジスタが)地球上のほぼすべての人の生活に与えた影響を軽んじることはできない」と述べている。

トランジスタとは

トランジスタとは、簡単に言うと電流のオンとオフのスイッチングができるデバイスだ。1秒間に何千回、何万回と開閉できる「電流の門」だと考えるといい。加えてトランジスタは、通過する電流を増幅することもできる。コンピュータを含むあらゆる電子機器は、この2つの機能が基盤になっている。

トランジスタのこうした能力は、トランジスタの時代が幕開けして10年のうちに知れわたった。最初のトランジスタを作ったベル研究所の3人の科学者(ウィリアム・ショックレー氏、ジョン・バーディーン氏、ウォルター・ブラッテン氏)が、1956年にノーベル物理学賞を受賞したのだ(ちなみに、ショックレー氏は晩年、優生学とIQに関する人種的偏見を支持して、科学界の大部分から非難されることになった)。

現在のトランジスタは、電流の操作に便利な、半導体と呼ばれる物質で作るのが一般的だ。最初のトランジスタは大きさが人間の手のひらほどあり、半金属のゲルマニウムから作られていた。1960年代の中頃になると、大半がケイ素(周期表で、ゲルマニウムのすぐ上にある元素。別名シリコン)で作られるようになった。さらに技術者たちは、トランジスタを集めて、複雑な集積回路(IC)を作るようになった。これがコンピュータチップの始まりだ。

[関連記事: Here’s the simple law behind your shrinking gadgets]

トランジスタの開発は、何十年間にもわたって「ムーアの法則」から外れていない。これは、最新の回路に集積できるトランジスタの数が、およそ2年で2倍になるという経験則だ。コンピュータチップ界のバズワードだったムーアの法則は、技術者の間では古びた言葉となったが、それでも現在も有効だ。

現在のトランジスタは、大きさが数ナノメートルしかない。あなたが今この記事を読んでいるデバイスに搭載されたありふれたプロセッサーも、指の爪より小さいチップに、おそらく何十億というトランジスタが集積されている。

トランジスタがなかったら、世界はどのようになっていたのか

見出しの問いに答えを出すには、「トランジスタによって置き換えられたもの」に目を向ける必要がある。電流を増幅できる装置はトランジスタだけではなかったのだ。

トランジスタが優勢になる以前、電子機器には真空管が不可欠だった。真空管は、主にガラスで作った管球で、真空の内部にあるプレートを帯電させていた。真空管には、トランジスタに勝る点がいくつかある。まずは、大きな出力が可能だった。時代遅れになった後でも、何十年にもわたって音楽プレイヤーに使うには真空管のほうがトランジスタよりも音がいいと断言するオーディオ愛好家たちがいた。

ただし、真空管は非常にかさばるうえに、取り扱いに注意を要する(白熱電球のように、すぐに切れてしまう)。それに、まるで古い電気ストーブのように「ウォーミングアップ」の時間が必要なことが多い。

トランジスタは、便利な代替物になると考えられた。現在、IEEEの電子デバイス分科会でプレジデントを務めるラヴィ・トディ氏によると、「トランジスタを発明した当人たちは、なんらかの特別な機器で使われるだろうし、おそらく軍の無線装置に採用されるだろうと考えていた」という。

初めてトランジスタが商品化されたのは、1953年に発売された補聴器だった。それからすぐにトランジスタラジオが登場し、1960年代を象徴する存在になった。持ち運びできる真空管ラジオはあるにはあったが、トランジスタがなかったら、携帯ラジオが普及して移動中に音楽を聴ける時代を切り拓けることはなかっただろう。

Martin Luther King Jr listens to a transistor radio.公民権運動家のマーティン・ルーサー・キング・ジュニア氏が、アラバマ州セルマからモンゴメリーへの3回目の行進中にトランジスタラジオを聞いている(1965年にアラバマ州で撮影) Image Credit: William Lovelace/Daily Express/Hulton Archive/Getty Images

トランジスタの時代が始まってわずか数年で、トランジスタの数はロケットのように急上昇した。そしてその一部は、文字どおりロケットで打ち上げられた。アポロ計画において、宇宙空間で方向転換する際に飛行士が船の向きを測定するために搭載されたコンピュータにトランジスタが使われたのだ。トランジスタがなかったとしたら、ただでさえ窮屈な宇宙船に大きな真空管の装置を取り付けるか、地球から送られる長くてうんざりする指令でどうにかするか、どちらかにする必要があっただろう。

トランジスタによるコンピュータの大変革が、すでに始まっていた。トランジスタの時代が幕を開ける直前に作られたコンピュータ(米軍の研究のために設計され、1946年に完成した「ENIAC」)には、1万8000個の真空管が使われており、ダンスホールがいっぱいになるような大きさだった。

こうした真空管コンピュータは、時間をかけて小さくなっていった。ただし、世界初の商用コンピュータである、1951年に発表された「UNIVAC I(ユニバック・ワン)」には当時で100万ドル以上のコストを要した。そしてその顧客は大企業や、国勢調査局のようなデータを大量に持つ政府機関だった。トランジスタによるパーソナルコンピュータが中流家庭に入ってきたのは、1970年や1980年代になってからのことだ。

トランジスタがなかったとしたら、私たちはコンピュータが家庭ではなく職場で使うものだという世界を生きていたかもしれない。スマートフォン、携帯ナビゲーション、平面ディスプレー、駅の運行状況を示す電光掲示板などはもちろん、デジタル腕時計もない。これらはいずれも、トランジスタがなければ動かないからだ。

「トランジスタは、遠距離通信、データ通信、航空、音響映像の記録装置など、現代のあらゆる技術の基盤になっている」とトディ氏は語る。

トランジスタ技術は、これから75年でどう変わるか

2022年の世界は、1947年のそれとはまったく違う。これが主にトランジスタによるものであることは否定しがたい。だとすると75年後の2097年は、トランジスタによってどのような世界になるだろうか。

何らかの確信をもって語ることは難しい。現在、トランジスタはほぼすべてがケイ素(シリコン)で作られている――シリコンバレーという名称はそこから来ている。しかし、それはいつまで続くのだろうか。

[関連記事: The trick to a more powerful computer chip? Going vertical.]

ケイ素のトランジスタはすでに小型化が進んでおり、これからどれだけ小型化が可能なのか、技術者にもはっきり分からなくなっている。ムーアの法則には終わりがあるのかもしれない。エネルギー問題を意識している研究者は、データセンターなど大型施設のCO2排出量を削減したいといった理由から、消費電力が少ないコンピュータチップを開発したいと考えている。

ケイ素に代わるものを開発しようとする研究者も増えてきている。得体の知れない量子効果や、ほんの少しの磁石を利用するコンピュータチップを考えている人たちがいる。ゲルマニウムや変わった形状の炭素など、ケイ素に代わる物質に目を向ける動きもある。いつの日か、ケイ素のトランジスタに取って代わるものがあるとしたら、それは何なのだろうか。その答えは、まだはっきりしていない。

「あらゆる需要を満たせる技術はない」とIEEEのサクセナ氏は語る。2090年代を特徴づける技術は、まだ発明されていない可能性が大きい。

この記事は、Popular ScienceのRahul Raoが執筆し、Industry Dive Content Marketplaceを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。