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廃熱をエネルギーに変える

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東京大学の研究者たちが、潜熱、つまり物質が固体・液体・気体から別の状態(相)に変化するときに吸収・放出するエネルギーから電気を作り出した。この成果は、熱電変換として知られる、温度変化を利用して電気を作る装置である熱化学電池の可能性を推し進めるものだ。すべての物質は適切な状況下で相変化が可能であるため、この研究は広範にわたる物質が熱電変換に利用される可能性を有するという考えを支持するものだ。これまでは無駄に捨てられていた潜熱を利用することで、装置が自身を冷やしながら自身のエネルギーを作れるようになり、他のエネルギー源への依存度を下げられる可能性がある。

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2023年の夏、我々は観測史上最も暑いとされる日を経験した。幸運にもエアコンを持っている人は、1日中とまではいかなくてもかなりの時間でフル稼働させていただろう。夏の気温上昇と技術の利用増加は、家庭用と業務用の両方の冷却システムの需要が増えていることを意味する。空調・冷却技術はすでにエネルギー利用の大部分を占めているため、増加するこの需要を満たすことは、環境と人々の生活の向上に向けた国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」を目指す各国にとって難題となっている。しかし、我々がこれらの冷却システムから発生して無駄に捨てられている熱の少なくとも一部を利用して、システムを動かすために必要な電気を、コストと炭素排出を抑える方法で作れるようになるとしたらどうだろうか。

東大の研究者たちは、物質の相が一つの状態から別の状態に変化するとき、例えばエアコン内の水が蒸発・凝縮して冷却効果をもたらすときに生じる潜熱エネルギーの可能性に興味を持った。エアコン装置から外に吹き出されている熱い空気については気がつきやすいが、内部に水が凝縮するときの潜熱に気づくことはほとんどない。熱電変換では、熱を利用して電気を作る。それができる装置の一つが熱化学電池だ。

東大のチームでは、PNIPAM(プニパム:正式名称は「ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)」というハイドロゲル(水を多く含む高分子材料)を、ビオロゲンと呼ばれる化合物で変性させたものを使って独自の熱化学電池を作った。この変性ハイドロゲルには、熱に反応するポリマー(高分子)が含まれていた。つまり、温度変化に反応し、低温では高分子が伸びた状態になって水に溶けるが、高温では高分子が丸まって水に溶けなくなるものだ。チームは、この変性ハイドロゲルを利用した熱化学電池を使い、相変化(溶けているか否か)によって発生する非常にわずかな潜熱エネルギーを使って電圧を発生させることに成功した。

東京大学大学院理学系研究科・化学科の山田鉄兵教授は、「我々は、潜熱を熱電変換に利用できる可能性があることを初めて確認しました」と述べている。

「我々は、さまざまな種類の材料を熱化学電池に利用できると考えています。世界中のあらゆる物質は、適切な条件下で相を変化させることができます。例えば、クリームがアイスクリームに、砂がガラスに、水が蒸気になるなどです。この方法では原則的に、たとえごくわずかな温度差であっても電気エネルギーを抽出することが可能であり、熱電変換を利用できる状況の数が大きく増えることになります」

熱化学電池の性能は、小さな温度差からどのくらいの電圧を生じさせることができるかで評価されるが、この値はゼーベック係数と呼ばれる。これが高いほど多くの電気エネルギーを抽出できる。有機化合物を使った熱化学電池のゼーベック係数は、通常は温度単位ケルビン当たり1マイクロボルト(1ボルトの100万分の1)未満だが、今回の実験では、ケルビン当たり2マイクロボルトを超えた。

「これは驚くべき成果です」と山田教授は述べる。「我々はこれまでに、pHの変化を利用してケルビン当たり2マイクロボルトを作り出す熱化学電池を作成していますが、相変化からのエネルギーをそのまま利用したのはこれが初めてです」

研究者たちは、今回の研究が冷却技術や温度管理装置、温度センサーのような他の技術の向上に役立つことを期待している。「我々はすでに、熱化学電池の実用的な応用を検討できる段階に到達しています。例えば、サーバールームや車のエンジンを冷却しながら発電できるようになることを期待しています」と、山田教授は述べる。「現時点での真の課題は、この技術があまり知られていないことです。業界、政府、学術機関が協力して、早急に社会実装を実現する必要があります」

研究論文:Direct conversion of phase-transition entropy into electrochemical thermopower and Peltier effect

この記事は、SpaceDaily.comが執筆し、Industry Dive Content Marketplaceを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。