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リトアニアの発明、太陽電池技術躍進の最前線に

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29, 30, 32…──これらはランダムな数字ではなく、太陽電池の効率を表した数値だ。入射する太陽光を電力に変換する割合で測定される。末尾の省略記号も無作為ではなく、タンデム太陽電池の効率がすでに32%を上回っていることを表している。リトアニア・カウナス工科大学(KTU)の研究者アルチョム・マゴメドフ(Artiom Magomedov)博士は、「世界中の研究チームのあいだで、ある種の競争が進行中です。この1年間で、太陽電池効率の新記録が3~4回更新されています。時間がかかっているのは、学術論文の発表だけです」と話す。

科学誌『Science』に2023年7月6日付で掲載された論文の共著者であるマゴメドフ博士によると、正式に発表されたタンデム型ペロブスカイト太陽電池の最新記録は32.5%だ。論文では、この記録更新を可能にした、シリコンとペロブスカイトのタンデム太陽電池の改善策について報告している。

「タンデム太陽電池には10以上の層があるので、円滑な動作を確実にするのは技術的に非常に困難です。このような太陽電池の開発には、多数の研究者が参加します。例えば、私たちの研究チームは、10以上ある層のうちの一つでホール輸送材料(HTM)でできた層を担当しています」と、マゴメドフ博士は説明する。

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リトアニア・カウナス工科大学の化学者チームは、単分子層に自己組織化する材料を合成した。これは新世代の太陽電池のための非常に革新的なコンセプトだ

KTUの化学者チームは2018年、分子1個分の厚みの層を形成する材料を合成した。単分子層として知られるこの材料は、さまざまな表面を均一に覆うことができる。この材料を利用して、高効率ば太陽電池がすでにいくつか開発されている。この発明の考案者の一人であるマゴメドフ博士によれば、KTUの革新的技術は、最新の太陽光技術を開発している科学者らのあいだで、すでに一般的なものになっているという。

「私たちが開発した材料は世界各地の研究グループによって利用されており、このテーマに関するほぼすべてのカンファレンス発表で、この材料の応用についての話が聞かれます」と、マゴメドフ博士は話す。

次世代太陽電池の大量生産はまだ先

先述したScience誌掲載の論文は、マゴメドフ博士にとっては同誌に掲載された2回目の共著論文だ。前回の論文のフォローアップとして、目前にある課題に対する解決策を提示している。

マゴメドフ博士は次のように説明する。「私たちの材料は、最高効率を達成する助けになりますが、その上に層をもう一つ形成するのは困難です。Science誌に前回の論文が掲載されて以来、この材料がさまざまな状況でどのような振る舞いをするかについて、多くの注目とコメントをいただきました。今回の論文では、この問題に対処するための一つの方法を示しています」

KTUの研究チームが提案した改善策と、世界中の科学者たちから寄せられた解決策が、超高効率のタンデム太陽電池の構築につながった。今回の科学論文で、その詳細を参照することができる。超高効率のタンデム太陽電池は、ドイツの公益法人ヘルムホルツ協会に所属する研究機関「HZB(Helmholtz-Zentrum Berlin für Materialien und Energie)」のスティーブ・アルブレヒト(Steve Albrecht)教授が主導する研究グループが構築した。

シリコン太陽電池は、潜在的な効率のピークが29%にとどまる。しかし、気候変動危機が続く現在、世界はますます多くの代替エネルギー源を必要としている。タンデム太陽電池は、2種類の光活性層で構成されており、上層にはペロブスカイト太陽電池素子を、下層にはシリコンを配置する。シリコン層が可視スペクトルから赤色光を捕集すると同時に、ペロブスカイトが青色光を捕集するため、太陽電池の効率が向上するわけだ。しかしマゴメドフ博士によると、新世代の太陽電池が現在使われている太陽電池に置き換わるのには、まだ時間がかかるという。

「タンデム太陽電池による発電は、使用される追加材料がより安価なため、理論上は低コストになると考えられます。しかし実際のところ、技術プロセスは大量生産の準備がまだできておらず、最終的な商用製品は存在していません。さらには電池自体も、現時点では実験室内で開発されているだけであり、まだ答えが見つからない問題を提起しています。例えば、すべての材料が大量生産に適しているわけではないという点です。これは、代わりのものを見つける必要があることを意味します」と、マゴメドフ博士は述べる。

この種の電池生産における現時点で最大の課題の一つは、電池の安定性だという。太陽電池の耐用年数は25年と見込まれており、その間に効率が10%低下する。だが、それほど長期間にわたる試験を実施するのは困難であり、新世代の太陽電池がどの程度劣化するかに関する決定的な答えはない。

太陽電池向け新材料で協力する、リトアニアの化学者と世界の専門家たち

太陽光技術向け化学物質の合成と分析は、マゴメドフ博士にとって大学学部時代からの研究テーマだ。学部課程が始まった当時、マゴメドフ博士はKTUのヴィタウタス・ゲタウティス(Vytautas Getautis)教授の研究グループに所属していた。太陽電池向け新材料の需要が拡大するのに伴い、KTUの有能な化学者チームは、持てる技能を発揮しニッチ(特定分野)を切り開いて自分たちの地位を確立し、国際的な評価を得てきた。

「私たちは、おそらく世界で最も特殊化した研究グループでしょう」と、マゴメドフ博士はジョークを言う。

マゴメドフ博士は、良い成果がモチベーションを維持して共同研究への心躍る展望を与え、新たな研究の機会を開いていると言う。国際的な科学の進歩に貢献するのは素晴らしいことだ。さらに、太陽光技術の進歩は今日の世界という背景において極めてタイムリーな問題であり、この分野での発明は広く応用される可能性があると、マゴメドフ博士は主張する。

「私たちが取り組んでいるのは、応用範囲が非常に広い最新電子機器です。そして言うまでもなく、太陽光技術自体のテーマでは、太陽エネルギーの貯蔵と電池の問題が必然的に浮上します」と、マゴメドフ博士は述べる。

ゲタウティス教授率いるKTU化学者の研究グループは現在、タンデム型シリコン・ペロブスカイト太陽電池の実験的な生産ラインを開発するプロジェクトに携わっているほか、開発した材料を発光ダイオード(LED)など他の技術に応用する方法を模索している。さらに並行して、実験室で開発された半導体がなぜそのように機能するか、といった根本的な問題の探究も行っている。

『Science』誌や、『Nature』グループに属する専門誌のように非常にハイレベルな学術誌での科学論文の発表は、KTUの研究者らにとっては特に目新しいことではない。マゴメドフ博士によると、一流科学誌への掲載は、個人的な勝利感が得られるだけでなく国際的な評価にもつながり、国際的な協力や科学活動への参加がはるかに容易になるという。

太陽電池の効率向上に役立つ技術の考案者の一人であるマゴメドフ博士は、「最近では、諸外国のパートナーとコンタクトを取る際に、長々と自己紹介する必要がなくなりました。人々は私たちの研究をすでに知っているのです」と話している。

研究論文:Triple-halide perovskite interface engineering for high-performance silicon tandem solar cells

この記事は、SpaceDaily.comより、Industry Diveの DiveMarketplaceを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。