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新しいロボットを数秒でデザインする「即席イノベーション」が可能なAI

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ノースウエスタン大学の研究者が率いるチームが、ロボットをゼロから設計する世界初の人工知能(AI)を開発した。

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研究室でAIが設計したロボット Image Credit:Northwestern University

新たなAIの検証のため、研究チームはシステムに1つの単純なプロンプトを与えた。「平面上を歩行できるロボットを設計せよ」というものだ。自然が、歩行能力を持つ最初の生物を生み出すまでには数十億年の歳月を要したが、新たなアルゴリズムは進化のプロセスを圧縮し、光速のようなレベルで早送りした。歩行能力を持つロボットの設計にかかった時間は、わずか数十秒だった。

しかも、このAIプログラムはただ速いだけではない。軽量ノートパソコンで走らせることができる上に、まったく新しい構造をゼロから設計できる。こうした特徴は、従来の典型的なAIシステムとは対照的だ。従来の典型的なAIシステムでは、膨大なエネルギーを要するスーパーコンピューターを使った演算や、途方もなく巨大なデータセットがしばしば必要になる。さらに従来のシステムは、膨大な訓練データを利用してもなお、人間の創造性の制約を受ける──人間が過去に生み出したデザインを模倣するだけでは、新しいアイデアを生み出すことはできないのだ。

今回の研究は、2023年10月3日付で米国科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載された。

今回の研究を率いたノースウエスタン大学のサム・クリーグマンは、「今回我々が発見した、極めて高速なAI駆動のデザインアルゴリズムは、進化の渋滞を回避でき、人間のデザイナーのバイアスに陥ることもありません」と述べる。「我々はAIに、平面を歩くことができるロボットを作るよう指示を与えました。そして、ボタンを押しただけで、これまでに地球上を歩いたどんな動物にも似ていないロボットの設計図が、瞬く間に生成されました。私はこれを『瞬間的進化』と呼んでいます」

クリーグマンは、ノースウエスタン大学マコーミック工学研究科のアシスタントプロフェッサーで、ロボティクス・生物システム研究センターに所属し、コンピューター科学、機械工学、生化学エンジニアリングを専門としている。論文の筆頭著者は、クリーグマンの研究室に所属する研究者のデビッド・マシューズが務めた。クリーグマンとマシューズは、共著者のアンドリュー・スピルバーグ、ダニエラ・ラス(マサチューセッツ工科大学)、ジョシュ・ボンガード(バーモント大学)と緊密に連携し、数年をかけてこの画期的業績を達成した。

ゼノボットから「新しい生命体」へ

クリーグマンは2020年、ゼノボット(xenobot)と呼ばれる、完全に生物の細胞だけで作られた史上初の「生きたロボット」を開発して広くメディアの注目を集めた。クリーグマンのチームは今回の新たなAIについて、人工生命の可能性探究における次なる段階と位置づけている。ロボットそのものは、目を引くものではない。小さく、不安定で、不格好な上に、いまのところ生物素材で作られてはいない。しかし、クリーグマンに言わせれば、これは動物のように、この世の中で直接的に行動することができる、AIによってデザインされたツールの新時代の幕開けを象徴しているのだ。

「人々はこのロボットを見て、役立たずのガジェットと思うかもしれません」と、クリーグマンは言う。「私に見えているのは、まったく新しい生命体の誕生なのです」

ゼロから歩行まで数十秒

AIプログラムは、どのようなプロンプトによっても開始させることができるが、クリーグマンのチームは、シンプルな要求からスタートした。地面を歩くことができる物理的機械を設計せよ、というものだ。研究チームによるインプットはこれだけで、あとはAIが仕事を引き継いだ。

コンピューターはその思考実験を、石鹸ほどの大きさの仮想ブロックからスタートした。この段階では、振動することはできるが明らかに歩行能力はなかった。目標に達していないことを認識したAIは、すぐにデザインを繰り返し始めた。そのたびにAIはデザインを査定し、欠点を特定し、仮想ブロックを少しずつ削って構造をアップデートした。やがて仮想ロボットは、その場で跳ね、前方に跳ね、ずりずりと進むようになった。AIは最終的に(9試行が終わった後に)、1秒間に本体の半分の距離を歩行できるロボットを作り上げた。この速度はおおむね、急ぎ足で歩くヒトの半分に相当する。

微動だにしないただのブロックから、れっきとした歩行ロボットに至るまでの設計プロセス全体に要した時間は、ノートパソコンを使ってわずか26秒だった。

「いまや誰もが、進化が起こるのを目の前で見ることができます。AIは、リアルタイムでロボットの構造に改良を重ねていくのです」と、クリーグマンは言う。「従来、進化するロボットを作るには、スーパーコンピューターを使って何週間も試行錯誤を重ねる必要がありました。また言うまでもなく、動物がこの世界を走り、泳ぎ、飛び回るようになるまでには、数十億年の試行錯誤を要しました。これは、進化には先見性がないためです。生物の進化は、未来を見越して、特定の変異が有益か有害かを見極めることはできません。我々はこの目隠しを取り去る方法を発見し、数十億年におよぶ進化を一瞬に凝縮させることに成功しました」

脚の再発見

驚くべきことに、AIは誰に頼ることもなく、自然が生み出したのと同じ歩行のためのソリューションにたどり着いた。それは脚だ。ただし、自然が一貫して左右対称のデザインを採用してきたのに対し、AIは異なるアプローチをとった。完成したロボットは、3本の「脚」が前後に並び、背びれのようなものがあり、全身に小孔が開いていた。

「ロボットに脚をつけるようAIに指示したわけではないことを考えると、実に興味深い」と、クリーグマンは言う。「脚が、地上を動き回るのに便利な手段であることを、AIは独自に再発見したのです。実際、脚を使った推進は、地上を移動するのに最も効率的な手段です」

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クリーグマンの研究チームは、仮想ロボットが実世界で通用するかどうかを検証するため、AIが画面上でデザインした仮想ロボットを設計図として、実際のロボットを作ってみた。チームはまず、ロボット本体の周囲の空間を再現した鋳型を3Dプリンタで制作した。次に、鋳型に液状シリコーンゴムを流し込み、数時間かけて硬化させた。硬化したシリコーンを取り出すと、弾力ある柔軟な本体が完成した。

こうして、仮想空間におけるロボットの挙動、すなわち歩行を、実世界で再現する準備が整った。研究チームがゴム製のロボット本体に空気を満たすと、三本脚が伸展した。本体から空気が抜けると、脚は縮んだ。ロボットの内部に断続的に空気を充填することで、脚の伸展と収縮を繰り返させ、ゆっくりだが着実に運動させることに成功した。

斬新なデザイン

脚の進化は理にかなったものだったが、小孔が追加されたことは興味深い。AIは、ロボット本体の全体にわたって、ランダムと思われる位置に小孔を設けた。クリーグマンは、本体を多孔性にすることで、軽量化するとともに柔軟性を実現し、歩行の際に脚を曲げられるようにしたのではないかと考えている。

「小孔が何の役に立っているのかは分かりませんが、重要であることは確かです」と、クリーグマンは述べる。「というのも、小孔のないバージョンのロボットは、まったく歩けないか、非効率にしか歩けなかったのです」

総じてクリーグマンは、ロボットのデザインに驚き、魅了された。ヒトが設計したロボットはたいてい、ヒトやイヌ、あるいはホッケーのパックのような形をしていると、彼は指摘する。

「人間はロボットをデザインするとき、見慣れたものに似た姿にする傾向があります」と、クリーグマンは言う。「しかしAIは、新たな可能性を開拓し、ヒトが想像すらできなかった新しい道を示すことができます。型にはまらない思考や想像を後押ししてくれるのです。このことは、我々が直面する最も難しい課題のいくつかを解決に導くかもしれません」

将来的な応用可能性

AIが設計した最初のロボットは、のそのそ前進する以外にほとんど何もできないが、クリーグマンは、このプログラムで設計されたツールが秘める膨大な可能性に思いを馳せている。いつの日か、このように設計されたロボットが、倒壊した建物の瓦礫の合間を縫って移動し、温度や振動といった生命活動の兆候を感知して、閉じ込められた人や動物を発見するかもしれない。あるいは、下水道の内部を移動して問題点を精査し、パイプの詰まりを直したり破損箇所を修復したりするかもしれない。さらには、人体内部で活動するナノロボットのデザインにAIを利用すれば、血流に乗って移動して動脈血栓を除去したり、病気を診断したり、がん細胞を死滅させたりすることさえ可能になるかもしれない。

「こうした新たなツールや治療法の実現を阻む唯一の障壁は、どうデザインすればいいのか、我々には見当もつかないということです」と、クリーグマンは述べる。「幸いなことに、AIは独自のアイデアを持っています」

研究論文:Efficient automatic design of robots

この記事は、SpaceDaily.comより、Industry Diveの DiveMarketplaceを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。