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水素で走る未来に向けて、いま自動車メーカーが考えていること

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水素で走る未来に向けて、いま自動車メーカーが考えていること

2024年1月中旬、米ネバダ州ラスベガスで大規模に開催された「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)」では、いくつかの企業が、未来の代替燃料の目玉として水素を紹介した。2023年秋の時点で、一部の報道が「水素は終わった」と宣言していたことを考えると、これは少し驚きだったかもしれない。業界の潮流を見ると、時間と資金の焦点はバッテリー電力に集中しているように思われ、水素は主流から数光年離れているように感じられる。

とはいえ、水素への参入を試みている自動車メーカーがいくつかあるのも事実だ。滑らかな乗り心地のトヨタ自動車の「MIRAI(ミライ)」や、現代自動車(ヒョンデ)の「Nexo(ネッソ)」、アウディ(Audi)や本田技研工業(以下、ホンダ)、BMWなども探究を続けてきた。さまざまな課題があるにもかかわらず、水素という選択肢の開発を示唆したり、取り組みを約束する企業が存在している。

クリーンエネルギーに関する米国の現政権の方針も、そのプロセスを加速している。米国エネルギー省は2023年10月、低コストでクリーンな水素の製造に焦点を当てた「クリーン水素ハブ」を7つの地域に開設するため、70億ドル(約1兆500億円)を投資すると発表した。これらのハブは、米国各地の中心地に戦略的に配置される。具体的には、太平洋岸北西部(ワシントン、オレゴン、モンタナの3州)、中西部(イリノイ、インディアナ、ミシガンの3州)、東海岸地域(ペンシルベニア、デラウェア、ニュージャージーの3州)、アパラチア地域(ウェストバージニア州など)、南カリフォルニア、テキサス州のメキシコ湾岸、ハートランド水素ハブ(ミネソタ、ノースダコタ、サウスダコタの3州)だ。

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ホンダは全力投球

ホンダの取締役兼代表執行副社長を務める青山真二は2023年8月、『ポピュラーサイエンス(PopSci)』の記事のなかで、水素の需要と供給の間には微妙なバランスが存在し、現時点では価格が消費者にとって課題となっている、と述べた。水素の価格は、平均すると1kgあたり13~15ドル(約1950~2250円)であり、2ガロン(約7.5リットル)のガソリンとほぼ同等だ。現在、オクタン価AKI87のガソリン(米国における「レギュラーガソリン」)の米国平均価格が1ガロン(約3.8リットル)あたり約3ドル(約450円、米国自動車協会の調査による)なので、水素はいまでも、ガソリンと比べて2倍以上の費用がかかることになる。

しかし、これによってホンダが思いとどまるわけではない。太陽光発電と風力発電は季節や気象条件の影響を受けやすいため、単独では不安定だと、同社は主張している。再生可能エネルギーを利用して水素を作り出せば、さらにグリーンなサイクルになる。

ホンダの勤続30年のベテラン社員として事業開発統括部長を務める一瀬新は、「再生可能エネルギーの安定利用を確実にするためには、発電における変動の影響を吸収できるような、電気を蓄える手段が必要です」と話す。「水素が、エネルギーキャリアとして高い潜在能力を示すのはこの点です」

ホンダは1990年代半ばに、水素エネルギーを提唱し、その可能性を研究するために時間と資金を注ぎ込むことを約束していた。2002年には、米国環境保護庁の販売認定を受けた燃料電池車としては世界初である「ホンダFCX」のリース販売を開始し、複数の改良を経て洗練させていった。その一例が、2008年からリース販売が開始された5人乗りセダン「クラリティ(Clarity)」だ。クラリティが2021年に生産中止になった後でさえ、ホンダは、以前にリースされていたクラリティセダンで使われていた燃料電池を使って燃料電池発電所を建設し、カリフォルニア州にある同社のデータセンターに緊急用バックアップ電源を提供している。さらにホンダは2024年、同社のクロスオーバーSUV「CR-V」をベースにした、まったく新しい燃料電池自動車を発表する予定だ。

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水素インフラの強化

電気自動車(EV)が主要な焦点であり続けている自動車業界の未来だが、その一方で、米国のドライバーたちは、公共の充電インフラについて懸念し続けている。水素を使う自動車の場合は、その懸念が2倍(あるいは10倍、ひょっとすると100倍)になる。水素充填ステーションは、カリフォルニア州以外に存在しないからだ(ハワイに1カ所だけあるものを除く)。

連邦政府は2024年1月、この問題の緩和に向けて多少の前進を示した。バッテリー電源の充電ステーションと、水素燃料電池の充填ステーションに限定した資金供給として、6億2300万ドル(約935億円)を発表したのだ。そのうち11%近くにあたる7000万ドル(約105億円)は、北中央テキサス政府評議会(North Central Texas Council of Governments)に割り当てられ、5カ所の水素燃料補給ステーションを建設することになっている。これらの施設は、テキサスと南カリフォルニアの間にある、交通量の多いトラック輸送回廊を支援し、商業的な交通を促進することを目的としている。

電動トラックを製造する米新興企業のニコラ(Nikola)も、2024年のCESで、同社初の水素燃料電池を使った電動トラックを発表した。(※同社は以前、創業者で当時CEOだった人物が、自社技術の誇大宣伝と虚偽発言によって苦境に陥った。この人物はその後辞任。2022年10月に陪審から投資家を欺いたとして有害評決を受け、2023年12月には連邦地裁が禁錮4年の判決を出した。)ニコラは2023年、製造本部をカリフォルニア州サイプレスから350マイル(約560km)離れた、アリゾナ州フェニックスの南にある町に移した。同社の燃料電池EVトラックは、最長500マイル(約800km)の航続距離を達成し、水素ステーションでは20分で燃料を補給できるとしている。しかしそれでも、十分な燃料補給インフラがない場合、トラックがどうやって長距離を移動するのかという疑問は残る。

ニコラはその補完として、移動式の燃料補給機を用意し、1日に最大30台のトラックを支援するのに必要なエネルギーを搬送する計画を立てている。また、カリフォルニア州公共輸送委員会(California Transportation Commission:CTC)から受けた4200万ドル(約63億円)を元に、EV用インフラを建設するヴォルテラ(Voltera)と提携して、カリフォルニア州に6カ所の大型車向け水素ステーションを開設する予定だ。

一方、ドイツの企業ボッシュ(Bosch)は、気候中立を目指す未来に水素電力は必要であると考えており、水素の開発と製造に向けて26億ドル(約3900億円)を拠出する計画だ。さらに2030年までに水素技術で約53億ドル(約7950億円)の売上を生み出すことを表明し、大きな賭けに出ている。

水素燃料電池の課題

米国エネルギー省のエネルギー効率・再生可能エネルギー局は、水素について、副産物として水だけができる、排出ゼロのクリーン燃料であると述べている。表面上は理想的に聞こえるが、水素には、特に生産と貯蔵に関して、独自の課題がいくつかある。

水素燃料の生産には、いくつかの方法がある。熱化学反応を使う方法や、電気を使った水電解、太陽光(光触媒)を利用した方法、風力を利用した方法、微生物や藻などを使う方法などだ。ほとんどの水素燃料電池センターでは、以前から天然ガスを使っているが、これはグリーンなエネルギーとは言えない。また、メタンから水素を分離する方法も広範に利用されているが、メタンが漏れた場合は、利益以上に害をもたらしかねないリスクがある。(風や太陽光など)再生可能エネルギーを利用するのが何よりもグリーンだが、最もコストが高い選択肢のひとつとなる。

マサチューセッツ工科大学(MIT)エネルギーイニシアチブの主任研究員エムレ・ゲンサー(Emre Gençer)は、いくつかある方法のうち、手ごろな価格かつ産業規模で利用できるものとして2つの方法を挙げている。そのうちのひとつは、再生可能エネルギーか原子力エネルギーによって発電した電気で水電解を行うものだ。ボッシュには、この方法を進めるための計画がある。

現在ボッシュは、直流電流を使って化学反応を起こす電気分解を利用して、水を水素と酸素に分解する電解槽の部品開発に熱心に取り組んでいる。風力発電や太陽光発電と組み合わせて利用することで、このサイクルが、全体としてさらにグリーンになる。同社は「水素は未来の燃料であると確信する」と述べ、固定式と移動式の両方の燃料電池の開発に取り組んでいる。

科学者たちが次に取り組むべき難題は、水素の貯蔵だ。水素は密度が低いため、高圧で圧縮し、利用に適した体積にする必要がある。あるいは、超低温で液化する必要がある。貯蔵に関しては、まだかなりの部分が開発途上だが、政府はインフラを支援するべく資金を提供し、自動車メーカー各社も研究開発に取り組んでいる。また、全固体電池も検討対象となっている。トヨタは2024年1月はじめ、固体電池を搭載した車をまもなく発表する計画があることを認めた。来年の今頃には、これらの技術がさらなる進展を見せているかもしれない。

この記事は、Popular ScienceのKristin Shawが執筆し、Industry DiveのDiveMarketplaceを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。