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蚊をばらまくドローンが伝染病から人々を守る

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Using drones to reduce disease-spreading mosquito populations

写真提供: N. Culbert/IAEA.

蚊やダニ、ノミといった吸血昆虫を介して人間に伝播する感染症は、ベクター媒介性疾患と呼ばれる。蚊が、マラリアやデング熱、黄熱病、ジカ熱など、多くのベクター媒介性疾患を拡散させる要因であることはよく知られている。

世界保健機関(WHO)によると、吸血昆虫を介して広がる疾患は、世界で発生する感染症全体の17%を占めており、年間100万人以上の命を奪っている。よって、その拡大と流行を予防する手段を開発することはきわめて重要だ。予防手段が見つかれば、多数の命を救えることになる。

科学者たちは近年、環境に有害な化学物質をまき散らすことなく、害虫の個体数を減らしたりコントロールしたりする方法を数多く考案してきた。そのひとつが「不妊虫放飼法(SIT)」だ。SITは一種のバースコントロールで、放射線を使って不妊化したオスの蚊を、対象地域の空中に散布し、野生のメスの蚊と交尾させる手法だ。

不妊化されたオスの蚊が、繁殖力のあるメスの蚊と交尾をしても子孫は生まれないため、害虫の個体数を減らすことができる。しかし、ベクター媒介性疾患の発生率を低下させるためには、疾患が多数発生している地域に、適切に不妊化されたオスを継続して大量散布する必要がある。これまでは、不妊化されたオスを低コストで広範囲に空中散布できる方法がないことがネックとなり、SITを大規模に導入することができなかった。

こうした背景を受け、国際的な合同研究チームがこのほど、無人航空機(UAV)、つまりドローンを使ってSITを展開し、ベクター媒介性疾患を拡散させる蚊の生息数を管理・減少させる新たなシステムを開発した。チームを構成したのは、オーストリアのウィーンに本拠を置く「食料・農業における核技術FAO(国連食糧農業機関)/IAEA(国際原子力機関)共同事業部」、そして、発展途上国にドローン等の技術を広げることを目的とする組織「ウィー・ロボティクス(WeRobotics)」、ブラジルのバイオ研究センター「モスカメド(Biofbrica Moscamed Brasil)」だ。

工学系ジャーナル『Science Robotics』で2020年6月に論文が発表されたこのユニークなシステムは、不妊化されたオスの蚊を、ドローンを使って広大な地域に向けて散布するものだ。

この研究に携わった、「食料・農業における核技術FAO/IAEA共同事業部」の医学昆虫学者ジェレミー・ブイエー(Jeremy Bouyer)は、「われわれは論文で、ドローンによる蚊の完全自動化散布システムを報告しました」と述べた。「このシステムはブラジルで実験が行われ、不妊化されたネッタイシマカのオスを、質を維持しながら一様に散布し、不妊化されたオスと、野生のオスの比率を安定させることに成功しました」

Using drones to reduce disease-spreading mosquito populations

写真提供: N. Culbert/IAEA.

ブイエーら合同研究チームの主な目標は、散布されたオスの蚊がどのくらい生存・分散するのか、性的競争力はあるのかを測定することだった。オスの蚊は、大量増殖され、分類・処理と放射線照射、マーキングを経て、ドローンで対象地域に空中散布された。

研究で考案されたドローンによる散布システムでは、蚊は金属製のふた付き容器に入れられ、摂氏8度から12度に冷却され、圧縮される。容器ひとつには、不妊化されたオスの蚊が、最大で5万匹入れられている。容器のふたが開くと、回転するシリンダーのなかに蚊が落ちていき、回転に合わせて空中へと放出される仕組みだ。

「回転スピードによって、1分間に散布される不妊化オスの数がコントロールされます」とブイエーは説明する。「すべて自動化されており、放出速度は、ドローンの位置とスピードに応じて制御可能です。私たちの研究成果によって、蚊の不妊虫放飼法の実用性が大きく前進したと言えるでしょう。このやり方なら、人口密度の高い地域でも、低コストで蚊を散布できます」

これまでのところ、研究チームはこのシステムの評価をブラジルで行っている。目標は、ベクター媒介性疾患を広めるネッタイシマカの個体数を減らすことだ。総合的に見て、不妊化され、散布されたオスの蚊は、メスの蚊との交尾で野生オスと競合できたことがわかっている。つまり、散布地域内に生息するネッタイシマカ全体を、効果的に不妊化へと導いたということだ。

不妊化されたオスをドローンで散布するこのシステムによって、SITの導入コストが大幅に削減できるようになれば、大規模実施が容易になる。このシステムはまた、SITを活用できる理想的な方法かもしれない。たとえば、アクセスの問題を克服して、人間が容易に近づけないような場所であっても、不妊化されたオスの蚊を散布できるかもしれないからだ。

「将来的には、蚊の成虫を先に小型ケースに入れて圧縮してから放射線を照射し、散布場所まで運搬できるかたちにしたいと考えています」とブイエーは話す。「届いたケースを直接ドローンに積み込んで散布できれば、専用の施設も要りません」

研究チームがブラジルで実験を行った蚊のドローン散布システムは、およそ12kgの重さがあった。しかし、今後はより小型のプロトタイプを開発する予定だ。重さがヨーロッパのドローン等級C1に適合する900g未満のもので、200グラム(最大で3万匹)の蚊を積載し、都市部上空を最長15分間飛行できるタイプだ。

の不妊虫放飼法を大規模運用するためのもうひとつの課題は、蚊のオスとメスの鑑別をより低コストでできる技術の導入です」とブイエーは言う。「メスを大量増殖して散布してしまう事態が起きないようにするためには欠かせない技術です。メスの蚊は血を吸ったり病気を伝染させたりしますから。IAEAは、FAOやほかの組織と提携して、この問題に対処するための技術を開発中であり、近いうちに試験も行われる予定です」

詳細情報: J. Bouyer et al. Field performance of sterile male mosquitoes released from an uncrewed aerial vehicle(不妊化され無人航空機で散布されたオスの蚊の効果、フィールド調査結果) Science Robotics (2020)  DOI: 10.1126/scirobotics.aba6251
研究概要:robotics.sciencemag.org/content/5/43/eabc7642

© 2020 Science X Network

原文:Using drones to reduce disease-spreading mosquito populations(2020年7月20日発行、同日にhttps://techxplore.com/news/2020-07-drones-disease-spreading-mosquito-populations.htmlより取得)

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