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水素を利用して「太陽エネルギーの輸出」を目指すオーストラリアの試み

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RoschetzkyIstockPhoto

近年の水素の生成や貯蔵、利用のイノベーションは、クリーンエネルギーの究極の源に変えることができる

一世紀近く前、英国の科学者J・B・ホールデンは、風力を利用して水素を生成するという「エネルギーの未来」を予測した。彼は水素を、重量比でいうと最も効率的なエネルギー貯蔵手段だと述べた。

ホールデンは、こうした未来の実現は400年先だろうと考えていた。しかし近年、水素の生成や貯蔵、利用のイノベーションが数多く誕生しているおかげで、いわゆる「水素経済」の到来はずっと早まる可能性がある。また水素によって、オーストラリアの新たなエネルギー輸出市場が開拓されるかもしれない。

水素は、それ自体は燃料ではなく、エネルギーを輸送するエネルギーキャリアだ。

水素は、電気を用いた電気分解によって、水分子を水素と酸素に分解することで生成される。生成された水素は、高圧で圧縮され、極低温で液化されたあと、ガソリンやディーゼルとほぼ同じように用いられるか、発電のために燃料電池で利用される。

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太陽光や風力、水力によって発電された電力を液体水素に変換することで、電力を必要な場所に輸送することができる。世界中のほとんどの国において、電力が必要な場所というのは、発電される場所からかなり離れている。

水素の最大の利点は、クリーンエネルギーの究極の源になりうるという可能性だ。

西オーストラリア大学(UWA)エネルギーセンターのドンク・チャン教授は、「水素には、燃焼させても二酸化炭素を排出しないという利点があります」と語る。このため、風力や太陽光、水力などの再生可能エネルギー源のみで水素を生成した場合、二酸化炭素の生成を心配する必要は一切ない。

水素への注目は、過去数十年間で盛衰してきた。最初のブームのきっかけとなったのは1970年代の石油危機で、その後、危機が収まるにつれて興味は失われた。その後、2000年代初頭に、気候変動の脅威とピークオイル説(近い将来、世界の石油生産はピークに達して、その後は下り坂に転じるという説)によって再び関心が集まった。世界的な金融危機による減速と、オーストラリアの資源ブームの影響を除けば、政府と研究機関は協力して重点的に水素研究に取り組んできた。

ロイヤルメルボルン工科大学(RMIT)のジョン・アンドリューズ教授は、水素はクリーンエネルギー源であると同時に、少なくとも、石油やディーゼルと同等の支出に見合うだけの価値があると語る。

「自動車分野において水素は、今日のガソリン車やディーゼル車に匹敵する走行距離をもつ車両を提供します」とアンドリューズ教授は言う。「5kgの水素を車に搭載すると、燃料補給間隔は最大600kmになります」

さらに、圧縮した高圧ガスを用いる水素燃料自動車は、燃料補給をわずか5分で行えるという利点がある。これに対して、電気自動車だと再充電に6~8時間を要する、と同氏は指摘する。

さらに水素には、余剰電力の貯蔵に使うという用途もある。電力網だけでなく、個々の家庭でも、余剰電力の貯蔵に使われる可能性があるのだ。「余剰電力を電気分解装置に供給すれば、水素を生成できます。それを圧縮するか、何らかの方法で貯蔵しておけば、電力が欲しいときに燃料電池に供給して、電力網に戻すことができます」とアンドリューズ教授は説明する。

それでは、なぜ水素経済はまだ実現していないのだろうか?

西オーストラリア大学のチャン教授は、問題の一つにインフラがあると指摘する。

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「水素は素晴らしいものですが、一夜にして天然ガスの燃焼から水素の燃焼に切り替えることはできません。ガソリン車やディーゼル車をやめて水素を使い始めることもできません」と、チャン教授は言う。

発電のためであれ、輸送燃料のためであれ、水素を大規模に利用するには、例えば水素供給ステーションを設営するなど、多額のインフラ投資が必要になる。チャン教授は、オーストラリアの地勢とまばらな人口分布を考慮すると、少なくとも当面は高くつくと指摘する。

このため、オーストラリアが水素エネルギーの輸出国になる方が、より達成可能な展望ではないかとして、これに焦点を当てる人々もいる。オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)の主席科学研究員マイケル・ドーランド博士は、これは魅力的な筋書きだと言う。日本などのように、未利用地が少なく日照が限られた国と比べれば、オーストラリアの再生可能エネルギー生成容量は膨大だからだ。

ドーランド博士は、「オーストラリア北西部のピルバラ地域のような場所は、太陽光の強さと、曇りの日がないという点で、世界でもっとも太陽資源に恵まれていると考えられます」と語る。「つまり、海岸沿いに大規模な太陽光発電所か風力発電所、あるいはタスマニア州であれば水力発電所を建設できる可能性があるということです。そして、そうした再生可能エネルギーを日本に届ける必要があります」

水素は、ピルバラ地域で得られた太陽光発電エネルギーを、東京の街路を走る水素駆動車の燃料タンクに輸送するという、「エネルギー・ベクトル」(エネルギーの輸送および貯蔵を可能にする手段)の役目を果たすことができる。

しかし、日本に水素を届けるにはまだ難題がある。選択肢の一つに、水素を圧縮して液化する方法があるが、それには気体を約マイナス250度まで下げなければならず、多大なエネルギーを消費するのだ。

別の選択肢としては、水素と窒素を反応させてアンモニアを生成する方法がある。これは十分に確立された技法で、一世紀近くにわたって産業規模で実施されている、とドーランド博士は言う。アンモニアは水素よりもずっと扱いやすい温度で圧縮して液化することができ、輸送が比較的簡単だ。 実際、オーストラリアと日本は2017年1月、液化水素の大量輸送に関する初めての安全基準を発表した

最近まで欠けていたのは、輸出先で、アンモニアから水素を取り出す技術だ。しかし、オーストラリア連邦科学産業研究機構は最近、金属膜を用いて、ガス化されたアンモニアから純度100%の水素を精製する技術を試験するパイロットプラントの設立を発表した

同プラントでは、アンモニアから1日わずか5kgの水素を生成することから始める。しかしこの技術は、オーストラリアの太陽光が、日本や韓国、さらにはヨーロッパの沿岸に輸出されるという一連の流れを完成させると期待されている。

 

この記事は、英ガーディアン紙のビアンカ・ノグラディが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comまでお願いいたします。