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曇りの日も安心。“生きた”太陽電池

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Pexels

太陽光発電は、石油を代替するエネルギー産生法として注目されている。しかし天候によって発電量にばらつきがあるのが大きな欠点だった。カナダ、ブリティッシュコロンビア州の科学者は、遺伝子組み換え大腸菌を利用し、安価で持続可能な「バイオジェニック太陽電池」を開発。薄暗い太陽光でも、まばゆい太陽光と同等の発電が可能だ。

太陽エネルギーは、いくつもの長所を持つ。二酸化炭素を排出せず、化石燃料からの脱却を助けてくれる無尽蔵のクリーンエネルギーだ。ただし、太陽に働いてもらう必要があるため、曇りの日が多い場所ではあまり役に立たない。

こうした問題を、遺伝子操作された細菌が解決してくれるかもしれない。色素を使い、光をエネルギーに変換する細菌だ。

曇りの日が多いカナダ、ブリティッシュコロンビア州の科学者たちが、大腸菌を利用し、安価で持続可能な太陽電池を開発している。生きた有機体からつくられているため、「バイオジェニック(生物起源の)太陽電池」(日本では「バイオ太陽電池」という呼称が一般的)と呼ばれている。

バイオ太陽電池の実験はこれが初めてというわけではないが、ほかとは異なる仕組みであり、発生する電流も多いと研究チームは述べている。さらに、低照度でも、高照度と同じように発電できるという。

光によって「励起」、つまり活性化し、十分な量の電子を放出する物質であれば、太陽電池の発電に使用できる。従来の太陽電池、つまり無機太陽電池では、結晶シリコンが使われているが、バイオ太陽電池の場合、光によって「励起」する物質は生物由来のもので、今回の研究では色素(リコピン)が使われる。

Cloudy skies in British Columbia.

カナダ、ブリティッシュコロンビア州の曇り空
PxHere

ブリティッシュコロンビア大学化学生物工学科のヴィクラマディティヤ・ヤーダフ教授は、「ブリティッシュコロンビア州は、脱炭素化の世界的なリーダーを目指しています」と話す。「目標達成の鍵を握るのは、信頼できる発電とクリーンエネルギーの供給です。エネルギー分野の脱炭素化に関しては、太陽エネルギーが最有力候補です。しかし、ブリティッシュコロンビア州の冬空は陰鬱であり、太陽発電のための素材には特別な条件が課せられます」

研究チームによるソリューションは、安価で、最終的には「従来の太陽電池に匹敵する効率性を実現可能」という。たとえ従来の太陽電池と肩を並べることができなくても、採掘現場や深海探査など、低照度の環境下で重要な役割を果たすことができると研究チームは確信している。

「バイオ太陽電池は、無機太陽電池を補完する存在になると思います」とヤーダフ教授は話す。「まだ初期段階の技術ですが、すでに有望な用途がいくつか生まれています。センサーが必要な鉱山など、低照度の環境では、私たちが開発しているようなバイオ太陽電池が役立つでしょう」

the anode of a solar cell

太陽電池の陽極の概念図。リコピンを生成する細菌(オレンジ色の球体)を、二酸化チタンのナノ粒子でコーティングしたバイオ素材を用いる。
ヴィクラマディティヤ・ヤーダフ(Vikramaditya Yadav)

バイオ太陽電池の研究はこれまで、細菌が光合成に使う有機色素の抽出に注力してきた。しかし、有機色素の抽出は、費用のかかる複雑なプロセスであり、毒性のある物質を使う上に、色素を壊してしまうこともある。そこでヤーダフ教授らは、少し違うアプローチをとることにした。細菌の中に色素を残し、細菌の遺伝子を組み換えてリコピン(トマトなどの赤い果実に含まれる色素)を大量生成するようにしたのだ。

次に、半導体として機能する鉱物で細菌をコーティングし、太陽電池のガラス面に塗布。すると、細菌を塗布したガラス面が陽極の役割を果たし、同じ場所に設置した対照群よりはるかに高い電流密度で発電した(1平方センチ辺り0.686ミリアンペア。対照群は平均0.362アンペア)。ヤーダフ教授らは、この研究成果を「Small」誌に発表した。

cells under a scanning electron microscope

電子顕微鏡で見た太陽電池。
ヴィクラマディティヤ・ヤーダフ(Vikramaditya Yadav)

感光色素を使うこと自体は新しい概念ではないが、さまざまな障害に直面した過去がある。1988年、スイスの化学者マイケル・グレッツェルが感光色素を用い、色素増感太陽電池(DSSC)と呼ばれる太陽電池を開発した。

「ほとんどのDSSCには明らかな短所があります」とヤーダフ教授は話す。「自然資源から色素を抽出するには、毒性のある溶媒と、エネルギーが必要です。また、抽出された色素は、太陽電池に導入する前から、感光性がどんどん劣化していきます。私たちはこうした短所の解決に取り組んでおり、特に低照度の環境下での使用を念頭に、太陽電池をもっと安価なものにすることを目指しています」

ただし、まだ完成には程遠い。現状では、細菌は発電の過程で死んでしまうため、細菌を死なせないための方法を見つけ、無限に色素を生成できるようにしなければならない。電池を微調整して、従来の太陽電池に近い電力を供給できるようにする計画もある。

「第1世代の試作品なので、大幅な改良が必要です。シリコン系太陽電池に比べると、細菌を使った太陽電池の電流密度は25分の1程度です」とヤーダフ教授は話す。「私たちの技術は、従来の太陽電池と競合できるレベルにはありません。まだ足元にも及びません」

testing a solar cell

太陽シミュレーターで太陽電池のテストを行い、現実と同じ条件で性能を評価している。
Arman Bonakdarpour and David Wilkinson

多くの科学的発見がそうであるように、今回の発見も偶然から生まれたものだ。「もともとの目的は、細菌の“ミニ工場”をつくり、栄養補助食品に使うリコピンなどのカロテノイドを大量生産することでした」とヤーダフ教授は説明する。つまり、食品に添加し、健康効果を高めるための物質を大量生産しようとしていたのだ。「ところが、リコピンの鮮度を維持するという課題に直面しました」

透明なガラス瓶に入れると、リコピンは急激に劣化したため、ヤーダフ教授らは遮光瓶を使うことにした。しかし、光にさらされたリコピンが劣化するのを見たとき、いくつもの科学的な疑問が浮かび、新たな研究の道が開かれた。「化学の世界では通常、劣化は電子の放出を意味します。そこで、私たちは次のような疑問を持ちました。“測定可能な電流が発生するほど電子を放出しているのだろうか?”」

「透明な瓶に入ったリコピンの変化を見て、1人の学生が叫びました。“リコピンは光にさらされると、これほど簡単に劣化するの? 太陽電池に入れたらどうなるのだろう?”。この一言をきっかけに、私たちはDSSCを開発することに関心を持ちました」とヤーダフ教授は振り返る。

「(鉱物を)コーティングした細菌をそのまま使うという決断は一種の賭けでしたが、その甲斐はありました。思わぬ発見は、科学者の素晴らしい味方です。今回の成果はそうした偶然の出来事と、“なぜ?”だけでなく“なぜしないのか?”と問いかけた、好奇心旺盛な学生たちのおかげでもあります」

マリーン・シモンズは、気候、エネルギー、芸術、文化などのテーマを扱うニュース配信サービス「Nexus Media」に寄稿している。

この記事は「Popular Science」に掲載されました。

この記事は、Popular Scienceのマリーン・シモンズが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comまでお願いいたします