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UKが直面する水素社会への理想と現実
イギリス政府の気候アドバイザーは、炭素の排出削減目標を最も安上がりに達成するには、現在大量にあるガスボイラーの代わりに水素燃料ボイラーを導入し、電気暖房設備と併用することが必要だと提言している。
イギリス気候変動委員会(CCC)は、エネルギーシステムにおいて水素が果たしうる役割について述べた報告書のなかで、同国が環境志向的な暖房(グリーンヒーティング)へと転換するにあたって直面する、巨額だが避けては通れないコストについて詳しく述べている。
報告書が提言している最も経済的なシナリオは、暖房器具を電化し、同時に水素ボイラーを設置して併用するというものだ。2050年までにこのシステムに移行するには、年間280億ポンド(約4兆円)、GDP(国内総生産)の0.7%のコストがかかるという。
電力会社はエネルギー源の低炭素化を急ピッチで進めている。しかし、ほぼすべての住宅はいまだに、暖房および調理の器具に関して、天然ガスを主とした化石燃料に依存している。
報告書によれば、代替策があることはほとんど知られていない。2020年代には暖房器具の脱炭素化について決定が下される予定だが、消費者の理解度は「達すべきレベルにはほど遠い」という。
一般家庭では暖房器具としてラジエーターを引き続き使用できるが、将来的には、いまよりもずっとエネルギー効率の高い家にして、ヒートポンプ(電気を使って地面や空気から熱を集める技術)とガスボイラーを併用するべきだとCCCは考えている。
空気熱源ヒートポンプの価格は6000ポンドから7000ポンド(85万円から100万円)ほどだが、普及とともに価格が下がることが期待されている。
イギリスは、2050年までに炭素排出を80%削減するという長期目標を掲げている。それを達成するには、ガスボイラーはいずれ、水素ボイラーと交換される必要がある(こうした水素ボイラーは、予備の暖房としても使用可能なものだ)。
CCCの最高責任者クリス・スタークは、同委員会はこれまでヒートポンプについて「少し懐疑的な見方」をしていたが、水素ボイラーに移行するまでのあいだ、ガスボイラーと併用するハイブリッド暖房器具として発売を推奨できると考えられるようになったと述べた。
「私が水素について慎重だったのは、万能の方策だと言われることが多かったためだ。しかし水素に、エネルギー効率と、ヒートポンプからの供給を付け加えたシミュレーションモデルで良好な結果が出て驚いている」とスタークは述べた。
スタークは、暖房の脱炭素化を目指した計画を今後3年で策定するよう、政府に要請した。
報告書には、「当面は天然ガスに依存した状態を維持し、問題を先送りしたいという強い政治的な思惑」が政府にはあるかもしれないが、早めに対策を講じたほうがコストも安く済むし得策だと書かれている。
暖房の脱炭素化には膨大な費用がかかるが、消費者がエネルギーのために総合的に負担する費用は現在とほぼ変わらない可能性があるとCCCは考えている。風力や太陽光、原子力による発電量が増えて電気代が下がることと、電気自動車への移行で車の燃料費が安くなることが見込まれているためだ。
スタークは、水素について以前よりも楽観的に考えられるようになったと言う。また、水素は「私たちがいずれ必要とするもの」を提供してくれると話す。とはいえCCCは、水素を「炭素排出量が少ない方法」で生産することは大きな課題になるだろうとしている。
いまのところ、水素はその大部分が天然ガスから製造されているため、炭素排出量が大きい。しかし将来的には、水素の生産時に、炭素の回収・貯留技術を導入する必要があるだろう。再生可能エネルギーの電力と電気分解を使った水素の大量生産は、これまで「不適切に高額」と見られていた、とCCCは話す。
さらに、溶鉱炉や焼成炉などの、産業プロセスにおける炭素排出を削減するうえで、水素の活用がますます重要になることは明らかだと述べた。
この記事は、The Guardianのアダム・ヴォーンが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comまでお願いいたします。