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グーグルが達成した「量子超越性」

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Rost-9D—Getty Images/iStockphoto

まずは、今回の話題に関する簡単な三択問題をやってみよう。「量子超越性(Quantum Supremacy)」とは何だろうか。

1) ジェームズ・ボンドの活躍を描いた映画シリーズ「007」の次回作。2020年夏に劇場公開予定。
2) リーグに加入予定のスポーツチームに命名される、史上最高級の名前
3) 世界最大規模で最強クラスの企業の一つ(ヒント:名前がGで始まりoogleで終わる企業)によって構築されたコンピューターが成し遂げたばかりのすごいことで、大いに憂慮すべき事態。

3と答えた人、あなたは正しい――「大いに憂慮」の部分を除いては。量子超越性という、インターネット上をいま駆け巡っているこの言葉は実のところ、とてつもなくすごい種類のコンピューターが達成したことを、非常にしゃれた感じで言い表しているだけだ。このコンピューターは、量子原理で動作するだけでなく、その動作を非常に巧みに習得しているため、従来型コンピューターを実際にしのぐまでになっている(この言葉の「超越性」という部分はそこから来ている)。

あなたがこの記事を読むのに使っていると思われる従来型シリコンコンピューターは、情報を1または02つの状態のうちの一つにエンコードするチップに基づいている。これら10のすべてを、数百万、数十億、数兆という単位で集積して組織化すれば、それは意味を持つようになる。ちょうど、4Kテレビ画面の830万画素や、フランスの画家ジョルジュ・スーラの点描画『グランド・ジャット島の日曜日の午後』が、無数の点から画像を作り出すのと似たようなものだ。

だが、これらの10は定義上、取り得る値はどちらか一方であり、両方にはならない。そして量子の世界は、完全に別の次元に存在する。「シュレーディンガーの猫は死んでいるか、生きているか?」という質問に「その通り(Yes)」と答えることを可能にするのが量子科学だ。

2本のスリットがあるスクリーンに向けて発射された1個の電子が、右のスリットを通過したか、左を通過したかを量子科学者に尋ねると、答えは「もちろん!(You bet!)」である可能性が高い。その理由は、量子の世界では、あらゆるものが同時に複数の状態で存在し得るからだ(例外:量子の世界を観測すると、その瞬間にどちらか一方の状態になる。シュレーディンガーの家に行ったら、飼い猫を見てはいけない理由がこれだ。なぜなら、見る過程で猫を殺してしまう可能性があり、そうするとシュレーディンガーが激怒するからだ)。

量子チップで構築されたコンピューターは、情報をビットではなく、量子ビット(キュービット)でエンコードする。キュービットは、従来型コンピューターと同様に10の状態を取るだけでなく、10の重ね合わせ状態で存在することができる。

量子チップの見た目は、これといって特別なところはない。普通のコンピューターチップのように見えるが、異なる点は、単体シリコンではなく、超低温の超伝導状態で相互作用しているイオン、光子、電子などに基づいていることだ。

「Sycamore」と呼ばれるグーグル(Google)の量子コンピューターは、それ自体はさして重要でないことを実行したことで10月23日、メディアをにぎわせた。つまり、乱数を生成する量子回路を分析し、それが実際にランダムに機能していることを確認したのだ。

これ自体は、特に特筆すべきものではない。しかしこの成果は、権威ある学術誌『ネイチャー(Nature』での論文掲載に値すると判断された。さらに、より読みやすくて専門性が高くない『Nature explainer』誌に、いつになくはしゃいだ感じのタイトル「ハロー、量子ワールド!(Hello, Quantum World!)」が付けられた記事も掲載された。

グーグルの成果をこの大騒ぎに値するものにしたのは、第一に、その速度だった。Sycamoreは、乱数問題をたったの200秒で解いた。現在の最も強力なスーパーコンピューターでさえ、これと比較すればノロマであり、同じ偉業を達成するのに1万年を要するという(プラスマイナス100年程度の誤差を含む)。

もっと重要な点は、グーグルの量子コンピューターが、与えられたタスクをどのように実行したかだ。従来型の2進法コンピューターの場合、例えば、ある数式の解を4だと返すとき、それは解が4であるという意味だ。もし量子コンピューターが同じ4という解を返す場合、それは、解が73でも126でも他のあらゆる値でもない限りにおいて4だということを意味する。量子コンピューターは膨大な回数の計算を同時並行的に実行し、いわゆる確率分布を求めることで問題を解く。確率分布によってすべての解を分析し、最終的に正解を見つける。

(面白い方の)ネイチャー誌の論文は、理解の助けとして、このプロセスを2個のいかさまサイコロを振ることになぞらえている。最初はサイコロが不正に操作されていることが分からないが、何千回、何百万回、何十億回とサイコロを振ると、例えば7や11が、本来の確率より高い頻度で出ていることが分かる。この発見の中に、求める答えがある。

グーグルは、Sycamoreが完成に近いなどと主張するつもりはまったくない。真の実用化に至るまでには、今後改良すべき点の方がはるかにたくさんある。とは言うものの、今回初めての成果となった乱数の結果も、暗号解読の分野では価値がある可能性がある。

なお、ライバルのIBMは懐疑的なブログ投稿で、十分な記憶領域を持つ従来型のコンピューターなら、Sycamoreが実行したのと同じ問題を2.5日で解ける可能性があると主張した。2.5日という時間は200秒に比べるとずっと長いものの、1万年よりはるかに短いのは確かだ。

いずれにせよ、コンピューター史上の節目がやって来ていることは否定できない。ネイチャー誌の記事の「ハロー!」という見出しをよそに、実際には、量子の世界は以前から存在してきた。われわれがそこに到達したということが今回のニュース、それも非常に大きなニュースなのだ。

 

この記事は、TIMEJeffrey Klugerが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comまでお願いいたします。