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アメリカの温室効果ガス排出量減少は、なぜいいニュースではないのか
ある予備的な試算によれば、アメリカの温室効果ガス排出量は2018年に急増した後、2019年は2.1%の減少に転じたという。
20年前であれば、このような減少は朗報だった。しかし、報告書を作成した調査会社ロジウム・グループ(Rhodium Group)の調査チームは、世界最大の経済規模で温室効果ガス排出量が世界2位であるアメリカがパリ協定の削減目標を達成するには、この程度の減少では足りないと指摘している。
エネルギー気候チームのシニアアナリスト、ハナ・ピット(Hannah Pitt)は、「順調とは言えない。このままでは目標達成は不可能だ」と述べる。「連邦レベルで追加的な対策を講じなければ、目標達成は難しく、おそらく不可能だ」
温室効果ガス排出量が減少した理由として、報告書は、電力部門における石炭から天然ガスへの移行を挙げている。石炭は、二酸化炭素排出量が多く、しかも、天然ガスと比べて価格が高い。天然ガスへの移行が進んだ結果、石炭による発電は1975年以降で最も低い水準となった。そして、電力部門の温室効果ガス排出量は10%減少した。
しかし、電力部門の排出量削減には限界がある。問題の元凶である石炭火力発電所は、その多くがすでに閉鎖している。石炭の代わりに何を使うかという問題もある。石炭ほどではないものの、天然ガスも、カーボン・フットプリントは大きい。「電力部門から、あとどれくらい絞り出すことができるかは不明だ」とピットは話す。
さらに科学者たちは、天然ガスの輸送過程で、別の温室効果ガスであるメタンがどれくらい排出されるかが正確にわかっていないと警告している。もし、より大きな推定が正しいと証明されれば、石炭よりも天然ガスのほうが利点があるという論拠はかなり小さくなる。
さらに大きな問題は、電力部門の改善がほかの部門に広がっていないことかもしれない。アメリカの温室効果ガス排出量の中で、電力部門が占める割合は約4分の1。輸送、産業、農業、建設が残りを構成する。これらの部門の排出量は、2019年に停滞していた。方向転換を促すには、おそらく政策の見直しが必要になるだろう。ドナルド・トランプ政権は、排出量削減に貢献していた政策を多数覆しつつ、排出量が減少すると、自らの手柄にしようとしている。
これらすべての要素が重なり、アメリカの気候変動対策は絶望的な状況に陥っている。2015年、当時のバラク・オバマ政権は2025年までにアメリカの温室効果ガス排出量を、2005年の水準から少なくとも26%削減すると宣言した。当時、この目標は控えめだと評価され、将来の政権がより厳しくするだろうと考えられていた。しかし、2019年の排出量は、オバマ前政権の目標を達成できる可能性がどんどん小さくなっていることを示唆している。ロジウムの報告書によれば、オバマ前政権の目標を達成するには、毎年約3%の排出量削減を2025年まで続ける必要があるという。
たとえこの目標を達成できたとしても、21世紀中の全世界の気温上昇を1.5度以下に抑制するには、はるかに積極的な対策が必要になると、科学者たちは警告している。21世紀中の気温上昇が1.5度を超えれば、何百万もの人々が移住を余儀なくされたり、地球上からサンゴ礁が失われたりといった壊滅的な影響がもたらされると予測されている。アメリカは大きなパズルの1ピースにすぎないが、見通しは決して明るいと言える状況ではない。
この記事は、TIMEのJustin Worlandが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comまでお願いいたします。