CLOSE

About Elements

美しい未来のために、
社会を支えるテクノロジーを

TANAKAは、「社会価値」を生む「ものづくり」を世界へと届ける「貴⾦属」のスペシャリスト。
そして、「Elements」は、わたしたちのビジネスや価値観に沿った「テクノロジー」や「サステナビリティ」といった
情報を中⼼に提供しているWEBメディアです。
急速にパラダイムシフトが起きる現代において、よりよい「社会」そして豊かな「地球」の未来へと繋がるヒントを発信していきます。

Elements

美しい未来のために、
社会を支える技術情報発信メディア

検索ボタン 検索ボタン

新しい化学分析は、地球規模の冷却に関する従来の説明を覆す

この記事をシェアする

Houston TX (SPX) Aug 03, 2020

約1万3000年前に地球が劇的に寒冷化し、気温が約3度低下したのは、科学者の間で長年にわたって知られていることだ。その原因についてはいくつかの説があるが、主流となってきた説は、いわゆる地球外事象とするものだ。つまり、宇宙空間から飛来した巨大な天体が地球に衝突したか、大気圏で爆発したという説だ。

米国テキサス州の研究チームはこのほど、より可能性の高い別の説明を裏付ける新しい証拠を報告する論文を、『サイエンス・アドバンシズ』誌に発表した。現在の欧州大陸にあたる地域で起きた火山噴火が寒冷化の原因だとするこの説は、後の地球進化を形作った事象をめぐる考え方を根本から覆している。

論文の第一執筆者で、ヒューストン大学地球大気科学部の博士課程大学院生であるナン・ソン(Nan Sun)は、「更新世は全体的に温暖でしたが、その末期には新ドリアス期と呼ばれる寒冷期がありました」と話す。「多数の生物種の絶滅を引き起こしたこの寒冷期は、北米大陸の石器文化であるクローヴィス(Clovis)文化の消滅と時期が重なっています」

論文の責任執筆者で、ヒューストン大で同位体地球科学を専門とするアラン・ブランドン(Alan Brandon)教授は、「この研究は、寒冷化事象の実際の誘因が、宇宙空間に由来するものではなかったことを意味しています」と指摘した。「誘因は地球上のものでした。これは、寒冷化事象を引き起こす可能性のあるメカニズムが、宇宙の天体以外にも存在することを示しています。火山は、人々が考えていたよりはるかに重要である可能性があります」

この研究プロジェクトには、ヒューストン大のソンとブランドン教授の他に、テキサス州にあるベイラー大学(Baylor University)地球科学部のS.L.フォアマン(S.L. Forman)とK.S.ベフス(K.S. Befus)、テキサスA&M大学ファースト・アメリカンズ研究センター所長のマイケル・R・ウォーターズ(Michael Waters)などの研究者が参加している。

研究チームは、テキサスヒル・カントリーと呼ばれるテキサス州中部の丘陵地帯にあるホールズ洞窟で採取した堆積物の同位体分析を行った。この洞窟は、新ドリアス期を含む年代と関連があることが知られている。

同位体分析では、オスミウムと呼ばれる元素と、強親鉄性元素(HSE:イリジウム、ルテニウム、プラチナ、パラジウム、レニウムなど)の濃度に着目。各元素について、他の元素に対する存在比の測定などを実施した。その結果、ホールズ洞窟の元素の相対存在比が、宇宙空間から飛来した隕石、小惑星やその他の天体が地球に衝突した際にもたらされた物質を含有する堆積物中の比率とは異なることを、ソンは突き止めた。

これは、新ドリアス期に起きた寒冷化が、地球外天体の衝突によって引き起こされたものではない可能性を示している。その原因は、地球上で起こった何かであるはずだ。

しかし、それは何か?

ソンによると、オスミウム同位体分析と元素の相対存在比の特徴は、過去に火山ガスで報告された特徴と一致していたという。これらの特徴は、アリューシャン列島、北米カスケード山脈、欧州などを含む北半球各地で発生した大規模噴火の結果である可能性が高い。

例えば、現在のドイツにあたる地域に位置するラーハーゼー(Laacher See)火山などは、時期的に合致する。ラーハーゼー火山は、新ドリアス期の初めに噴火したことが分かっている。その新ドリアス期には、過去1万5000年間に記録されたなかでも、最も現代に近い、劇的な寒冷化事象が起きた。

当時の地球は、おそらくは氷床の流出が原因となって、転換点に達していた可能性がある。1か所または複数の巨大な噴火が、寒冷化を促進する原動力をもたらしたのかもしれない。

ただしブランドン教授は、すぐに確信に至ったわけではないと指摘した。「初めは懐疑的でした」と、ブランドン教授は言う。「考え得るあらゆる可能性を調査して、この結論を導き出したのです」

火山噴火はもともと、可能性のある説明の一つと見られていたが、関連する地球化学的痕跡が存在しないという理由で、一般的には退けられていたとブランドン教授は述べる。代わりに多くの科学者は、新ドリアス期に関連する元素を、地球外天体の衝突に起因すると考えていた。

この他にも可能性のある原因として検討されているのは、北大西洋からの巨大氷床の流出や、超新星爆発によるオゾン層の激減などがある。こうした現象が引き起こした大気や地球表面の変化が、寒冷化につながったと考えられているわけだ。

だが、実際に観察されている寒冷化を後押ししたのが、ただ1回の大規模火山噴火かどうかはまだ未解決の問題だと、研究者たちは指摘している。当時の地球が、おそらくは氷床流出などによって転換点に到達しており、それと同時期にラーハーゼー火山の噴火が発生して、寒冷化を促進するのにちょうど適切な組み合わせをもたらした可能性がある。

ヒューストン大のソンは今回の研究について、寒冷化を引き起こした可能性の高い主要原因を特定したことに加えて、強親鉄性元素とオスミウム同位体比の両方を分析することが有効であることを強力に示したと述べている。さらに同大のブランドン教授は、今回の研究は学際的研究の重要性も示していると指摘し、研究チームには、同位体地球化学者、人類学者、地球科学者、火山学者などが含まれていると述べた。

この記事は、SpaceDaily.comが執筆し、Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。