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高効率な有機太陽電池を実現するための励起子寿命の役割を解明

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Study uncovers the role of exciton lifetimes in enabling highly efficient organic solar cells
アンドレイ・クラッセンが励起子寿命の測定に使用した装置。Credit: Classen et al.

有機太陽電池は第3世代の太陽電池技術であり、従来の半導体pn接合の代わりに電子ドナー・アクセプター(EDA)素材を用いている。有機太陽電池の性能はここ数年で大幅に向上しており、現在では電荷キャリア産出量(すなわち電流生産)および太陽スペクトラムとの適合性の両面で、従来の無機太陽電池に迫っている。

従来の太陽電池と比べ、有機太陽電池がいまだに遅れている唯一の点が、達成可能な電圧(Voc、開放電圧)だ。電力は、電圧と電流の積であるため、Vocが小さいことが有機太陽電池の製品化の妨げになっている。

ドイツの電子工学・エネルギー技術素材研究所(i-MEET)と、ギリシャの国立ヘレニック研究財団(NHRF)の研究チームは、有機太陽電池の製造に使用される素材の効率化と高電圧化を実現する方法を研究している。学術誌『Nature Energy』に掲載された彼らの論文によると、発電効率のよい有機太陽電池の製造にとりわけ有望なのは、励起子寿命が長い素材だ。

共同研究者のひとりであるアンドレイ・クラッセン(Andrej Classen)は、i-MEETで博士号を取得したばかりだが、これまで有機太陽電池における低Vocの物理的要因を解明するための研究を続けてきた。従来の太陽電池と異なり、有機素材は分極電荷(bound charge、すなわち励起子=exciton)を形成する。これを自由電荷に変換して電気を発生させるには駆動力が必要だ。

けれども、エネルギー保存の法則により、高い駆動力は自由電子への変換を容易にする一方で、Vocを低下させる。そこでクラッセンは、Vocのロスを最小限に抑えつつ励起子を電気に変換するため、どうすれば駆動力を削減できるかを考えはじめた。

Study uncovers the role of exciton lifetimes in enabling highly efficient organic solar cells
統制された条件下でデバイスの電気的性能を測定するためのサンプルホルダー。Credit: Classen et al.

さらに、電気変換が不可能になるような「駆動力の下限」があるのか、それとも、こうした制限が特定の素材特性に依存しているのかについても検討した。彼の狙いは、駆動力の大小が、さまざまな素材の質にどう影響を与えるかを解明し、より高いVocを実現する駆動力を備え、かつ励起子を電気に変換する効率がよい素材を設計することだった。

この研究に携わった時間分解分光法の専門家であるラリー・リューアー(Larry Lüer)はTechXploreに対して、「アンドレイ(・クラッセン)は、エネルギーオフセットを最小限に抑えた素材で電圧を最大化する方法を探究するなかで、一般的な最先端素材には深刻な電流ロスの問題があることに気づいた」と語った。「新たな小分子アクセプターの特定の性質、すなわちY6の長い放射性寿命を備えた素材だけが、大電流を維持できた。このことで、研究テーマの視野が広がった。エネルギーオフセットが大きい最先端素材では、高い駆動力が超高速の電荷発生につながるが、放射性寿命と無関係のため、しばしば注目されてこなかった」

クラッセンとリューアーは、駆動力がゼロという限界条件でのケースから、電荷発生の説明とシミュレーションを開始した。こうして彼らは、有機太陽電池の素材設計における新たなルールを特定することに成功した。

研究チームを率いたのは、i-MEETの所長とエアランゲン・ニュルンベルク大学の教授を兼任し、新たなデバイスの高精度な調製に関する研究で知られるクリストフ・ブラベック(Christoph Brabec)だ。チームはまた、経験豊富な世界の有機化学者たちと協力し、太陽電池素材の検証と設計をおこなった。

国立ヘレニズム科学財団に所属する有機合成の専門家であるクリストス・L・ココス(Christos L. Chochos)は、構造は類似しているが最高被占軌道(HOMO)レベルが(それぞれ60meVずつ)異なる4種類のドナーポリマーを合成した。

Study uncovers the role of exciton lifetimes in enabling highly efficient organic solar cells
一般的な有機太陽電池デバイス。6つの金属製の上部電極が見える。下部電極は透明で、金属製のサイドバーで接続する。Credit: Classen et al.

クリストフ・ブラベックが率いる研究グループのデバイス技術専門家であるトーマス・ホイミュラー(Thomas Heumüller)はTechXploreに対して、「アンドレイは、これらのドナーポリマー1種類につき5種類ずつアクセプターを混合した。うち4種は、最新の非フラーレンアクセプター(NFA)だった。こうして、まったく同じ条件で20種類の太陽電池を調製した」と語った。「その後、最先端の手法で太陽電池の外部量子効率、励起子寿命、Vocロスを計算した。i-MEETで実現した高解像度のサンプルと、ドナーポリマーの等距離エネルギー間隔により、これまでも知られていた、機能的エネルギー依存性によってVocロスが生じるメカニズムを、疑問の余地なく特定することができた」

クラッセン、リューアー、ブラベック、ホイミュラー、ココスらによる発見は、より効率的な有機太陽電池を開発する道を開き、実世界の状況に合わせて改良できる可能性がある。さらに研究チームにより、Vocロスは、電子ドナーとアクセプターの間の「ボルツマン平衡(Boltzmann equilibrium)」と呼ばれる現象にも左右されることが明らかになった。

これは、駆動力を受けた励起子がCT状態に変換される際に、一部のCT状態は逆の経路をたどり、励起子に逆変換される現象だ。駆動力が小さいほど、平衡が「励起子への変換」側にシフトするため、このプロセスが重要になる。

リューアーは、「近年、多くの研究者がCT状態に注目し、吸収体特性(ハイブリダイゼーション=hybridizationの概念)を向上させ、非放射性のロスの回避に取り組んでいる」と述べる。「だがアンドレイは、駆動力がゼロの限界条件では、Vocのロスは励起子の放射性および非放射性崩壊という経路によって生じ、CT状態の喪失とは無関係であることを示した。したがって、効率的な励起子変換のためには、適切なエネルギーレベルを備えた強発光アクセプターの開発がもっとも重要だといえる」

今回の研究は、最終的には発電効率が20%を超える有機太陽電池の設計・開発につながる可能性があり、そうなれば製品化に弾みがつくだろう。だが、このような太陽電池を実現させるためには、今回の研究で明らかになった励起子とCT特性の相互作用を、ボルツマン平衡の観点からさらに解明する必要がある。

ホイミュラーは、「ハイブリダイゼーションの概念のほかにも、四極モーメントの発生など、CTエネルギーに影響を与える形態的要因も考慮しなければならない」と語る。「リューアーと私は現在、CT界面状態の理解を深めるための研究をおこなっている。現段階では、有望な効率を実現した『ヒーロー』素材はほんの一握りにすぎない。有機太陽電池の最大の長所とされる汎用性を実現できるよう、潜在的な素材候補の幅を広げていきたいと考えている」


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詳細情報: The role of exciton lifetime for charge generation in organic solar cells at negligible energy-level offsets. Nature Energy(2020). DOI: 10.1038/s41560-020-00684-7.

© 2020 Science X Network

原文: Study uncovers the role of exciton lifetimes in enabling highly efficient organic solar cells(2020年10月6日発行、同日にhttps://techxplore.com/news/2020-10-uncovers-role-exciton-lifetimes-enabling.htmlより取得)

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この記事は、TechXploreが執筆し、Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。