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テスラのオートメーションを率いた起業家が実現する、製造システムの真の自動化

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未来の工場やインダストリー4.0が話題になっている。しかし現在の製造システムは、真の自動化を実現するという意味では、依然として時代遅れで、断片化されている。一部の領域はデジタル化されているかもしれないが、これらのシステムをモニタリングし、相互通信させることはしばしば多大な労力を必要とする。

2年近くにわたってテスラ(Tesla)のオートメーション・エンジニアリング部門を率いてきたルーク・ルロワ(Luc Leroy)氏は、この問題の解決方法を知っていると確信している。ルロワは2020年夏、テスラを離れてフル・スピード・オートメーション(Full Speed Automation)を創業。フランス語で「速度」を意味する、ヴィテス(Vitesse)と呼ばれるプラットフォームの最初のバージョンを完成させるため、320万ドルを調達したところだ。

ヴィテスは、製造業務に関わるすべてのデジタル機器を自動検出し、管理者がそれらを簡単なポイント・アンド・クリックでつなげられるミドルウェア・レイヤーになる予定だ。APIを用いたノーコード・アプローチで、メーカーが自社システムを強化するスピードを加速させる。

ルロワにとってフル・スピード・オートメーションは、個人的なキャリアの集大成だ。典型的なソフトウェア開発からキャリアをスタートし、思いがけず製造業に足を踏み入れたルロワは、スピードやアジリティーといった面から見たときの両業界の差に衝撃を受け、そのギャップを埋めようと決意した。

「モバイルユーザーやウェブ、テクノロジー関連スタートアップといったものから期待される内容とは、大きな隔たりがあることに気がつき始めた。それらの世界では、24時間後には何かを稼働させることが求められていた」とルロワは話す。「一方、製造の世界は非常にゆっくりしていた。そして、私はその事実に興味をそそられるようになった。アジャイル開発プロセスにおけるイテレーション(一連の工程を短い期間で何度も繰り返すことによって完成度を高めていくアプローチ)や、ベンチャー成功の秘訣とされる『フェイル・ファスト(fail fast:早く失敗し反省を得ること)』といった概念が存在していなかった。それらは、純粋なソフトウェアの世界では10~15年前から、皆が当たり前と思っていた事柄だ」

ルロワが最初のスタートアップを創業したのは20年以上前、フランスのパリでのこと。テレビ放送用の拡張現実(AR)サービスを提供する会社だった。2003年には、3Dソフトウェア・メーカーのOKYZを共同創業した。3Dモデルを作成してPDF文書に埋め込むことができる技術を所有していた同社は、2004年にアドビ(Adobe)によって買収された。その後、ルロワはシリコンバレーに拠点を移し、アドビのものとなったPDF+3D製品を使用するメーカーとの関係を深めていった。

そこで目にした光景に、ルロワは驚いた。

「リーン生産やジャストインタイム、在庫ゼロについて学校で教わったことは、すべて正しくないことに気が付いた」と振り返る。「交換部品を注文すると、2カ月前に日本でつくられて、環境を汚染する船で地球を横断し必要になるまで棚に保管されていた部品がやってくる。それを在庫ゼロと呼んでいるのだ」

問題の一部は、製造システムがあまりに「遅すぎる」ことだった。ソフトウェアをアップグレードする際には、従業員がUSBメモリを持って工場内を歩き回り、組み立てラインの各部を手動で更新していた。組み立てラインの各部を通信させるには、メーカーは膨大なリソースを投じてカスタムソフトウェアを開発しなければならない。製造システムが進化すると、そのカスタムソフトウェアが遅くなりすぎたり、反応しなくなったりすることもあった。

アイアンマンのようなスマートヘルメットを製造する企業で働いた後で、ルロワはテスラに採用された。テスラでは、野心的な生産目標を達成するため、組み立てラインを自動化することが優先課題となっていた。

「我々の使命は持続可能な輸送、そして最終的には持続可能なエネルギーへの移行を加速させることだった」とルロワは話す。「私にとっては大きな意味のある仕事だった」

ルロワのチームは、テスラの車「モデル3(Model 3)」を生産する上での「大問題」を解決することになった。チームは、工場に何千台もあるロボットの更新を自動化するツールを開発した。ルロワは18カ月後、テスラで得た知見がはるかに多くのメーカーに役立つのではないかと考え始めた。

「最高レベルのAIといった、品質管理や安全性のためのコンピュータービジョンを持つことは可能だ」と、ルロワは話す。「ただし、それぞれのためのソフトウェアは、それぞれの業界のなかに存在している」

オートメーションを民主化する

テスラは話題性があり時価総額も高いため、優秀なエンジニアを数多く雇うことができる。しかし、普通のメーカーではそうはいかない。この10年で自動車・金融・保険といった業界の大手は事実上のソフトウェア企業となり、開発者を大量に採用しているとはいえ、全体的な状況は変わっていない。

そのためテスラが開発したようなシステムを、ほかの企業は簡単には再現できない可能性がある。そうした問題を解決するには、誰でもアクセスできるよう、ソリューションはできる限りシンプルなものでなければならない、とルロワは主張する。だからこそ、ノーコード・アプローチを重視しているのだ。ユーザーインターフェースはポイント・アンド・クリックで、工場内のすべてのデバイスを接続できるものになるだろう。

「これらのツールを民主化して、経験豊富な技術者がすぐに使用できるようにする方法を見つける必要がある」とルロワは言う。

ヴィテスはさまざまなアセットをAPIを経由して接続する、水平的な構造になる予定だ。その結果、工場管理者は自社工場の自動化のレベルを劇的に高めることができる。この中間的なレイヤーが導入されれば、工場は素早くイテレーションを行い、数週間や数カ月ではなく数日で、製品ラインをリセットできるようになる。さらにデータ収集もシンプルで整理されたものになり、リアルタイム監視の精度が高まるだろう。

ルロワは2020年夏以降で6人のチームを編成し、概念実証を行ってきた。2021年第2四半期のベータ版リリースを目標に、名前が明かされていない複数の製造パートナーと共に、改良に取り組んでいる。統合を容易にするため、部品提供者と連携し、ヴィテスのライブラリーに機器の大規模なカタログを取り込む作業も進めている。

ヴィテスはその目標をさらに拡大するため、今回のシードラウンドで320万ドルを調達した。パリに本社を置くハードウェア・クラブ(Hardware Club)のベンチャーキャピタル部門HCVCが率いたこのシードラウンドに参加したのは、カタパルト・ベンチャー・キャピタル(Catapult Venture Capital)、シードキャンプ(Seedcamp)、セリーナ・キャピタル(Serena Capital)、キマ・ベンチャーズ(Kima Ventures)、ディアスポラ・ベンチャーズ(Diaspora Ventures)のほか、製造サプライヤーGYSのCEO、ブルーノ・ブイグ(Bruno Bouygues)氏をはじめとする業界幹部などだ。

この記事は、VentureBeatのクリス・オブライエン(Chris O’Brien)が執筆し、Industry Diveを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。