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スイッチひとつで冷・暖房ができるスマートマテリアル

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夏の暑い日に日向に車を停めたことがある人なら誰でも知っているように、窓ガラスは太陽光を採り入れることには優れているが、熱を逃がすのは大の苦手だ。だがデューク大学のエンジニアたちが開発した窓に似たスマートテクノロジーは、スイッチを切り替えるだけで、太陽光から熱を回収することも物体を冷却することもできる。このアプローチは空調システムの効率化に大きく貢献し、米国だけで20%近いエネルギー使用量の削減につながる可能性がある。

「私たちは、太陽光加温と放射冷却を切り替えられる史上初のエレクトロクロミック(electrochromic)デバイスの効果を実証しました」と、デューク大学アシスタント・プロフェッサー(機械工学・材料科学)のポーチュン・シュー(Po-Chun Hsu)は言う。「このエレクトロクロミック・チューニング技術には可動パーツは存在せず、常時チューニングが可能です」。

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新たに開発された、パッシブ(受動的)な加温冷却システムの内部構造の図解。可視光と熱放射の両方と相互作用するように設計されている

エレクトロクロミック反応を利用して、ガラスを瞬時に透明から不透明に、またはその逆に変化させるという「エレクトロクロミックガラスを使ったスマートウィンドウ」は、比較的新しい技術だ。こうした現象を引き起こす方法は多数あるが、いずれも、2枚の薄い電極層のあいだにサンドウィッチのように導電性素材を挟み、2層のあいだに電流を流すという点では共通している。この技術を可視光条件で実現することは困難だが、より難しいのは中赤外線(放射熱)条件で駆動させることだ。

シューと大学院生のチェンシー・スイ(Chenxi Sui)は論文のなかで、どちらの波長域の光とも相互作用し、受動加温と受動冷却の切り替えが可能な薄いデバイスの有効性を示した。加温モードでは、デバイスが暗色に変化して太陽光を吸収し、中赤外線が出ていくのを防ぐ。冷却モードでは、暗色だった窓のような層の透明度が増し、同時に鏡面が出現する。この鏡面は太陽光を反射し、中赤外線をデバイスの内側から放散させる。

この鏡面は、可視光に対して透明ではないので、このデバイスが家庭やオフィスの窓に置き換わることはないだろうが、建物の表面に利用できる可能性がある。

「どちらの条件でも機能する素材を開発するのはきわめて困難です」と、シューは言う。「私たちのデバイスは、熱放射に関してこれまで実証されたなかで最も広いチューニング帯域をもつものです」

デバイスの開発にあたり、研究チームには2つの主要課題があった。ひとつめは、可視光条件でも熱放射条件でも透明で導電性のある電極層をつくること。この2つの特性はトレードオフの関係にあるため、ほとんどの導電性素材、例えば金属、グラファイト、酸化物などは条件に合致しない。そこでシューとスイは自ら素材の開発にあたった。

研究チームはまず、原子1個分の厚さのグラフェン層に目をつけたが、薄すぎてどちらのタイプの光も反射あるいは吸収できなかった。加えて導電性も不十分で、大規模デバイスとして機能するのに十分な電気を通すことができなかった。こうした制約を回避するため、シューとスイはグラフェンの表面に薄い金の格子を重ね、電気の通り道とした。これにより、グラフェン層の光の透過率はやや低下したが、トレードオフとして導電性は許容範囲だった。

もうひとつの課題は、2つの電極層のあいだに収まり、光と熱の吸収と透過を自在に切り替えられる素材の開発だった。研究チームは、プラズモニクスと呼ばれる現象を利用することでこれを実現した。ナノスケールの金属粒子を数ナノメートル間隔で配置すると、粒子の大きさと間隔の広さに従って決まる特定の波長の光を捕捉することができる。この研究では、ナノ粒子をクラスター状にランダムに配置することで、広帯域の波長と相互作用させ、太陽光を効率よく吸収させることに成功した。

実証実験では、電極層のあいだを電流が通過することにより、金属ナノ粒子が電極の表面付近に凝集した。これにより、デバイスが暗色に変化するだけでなく、デバイス全体が可視光と熱を吸収した。さらに、電流の向きを逆転させると、ナノ粒子は、透明な電解液の中に再び溶解した。一方から他方の状態への転換は、1~2分で完了した。

「実世界では、デバイスは何時間も一方の状態を保つことになるので、転換によって生じる数分のロスは誤差の範囲です」とシューは言う。

この技術を日常生活の環境に応用するには、まださまざまな課題がある。おそらく最大の障壁は、ナノ粒子に可能な凝集と溶解のサイクル数を増やすことだろう。プロトタイプでは数十回しか転換させることができず、そのあとは活性が失われた。また、冷却モードの太陽光反射についても改善の余地がある。近い将来には、周囲温度を下回る冷却も可能になるだろうとシューは考えている。

技術が成熟するにつれて応用範囲は広がりそうだ。この技術を外壁や屋根に用いれば、ほとんどエネルギーを消費せずに建物の冷暖房効率の改善が期待できる。建物の外面に、再生可能なリソースを冷暖房に利用できる動的な性能を導入することで、ここ数十年の間に主要な炭素排出源のひとつとなっている、建築資材の使用量を削減できる可能性もある。

「このような技術が、建物のエンベロープ(窓や外装材等)やファサードとして、建物のパッシブ(受動的)な冷暖房機能を担うことで、空調システムで使用されるエネルギーを大幅に削減できることが期待されます」と、シューは言う。「私はこの研究成果に自信を持っていますし、将来展望はとても明るいと考えています」

通電によって素材の色や透明度が変化するエレクトロクロミック技術を用いたこの研究の詳細は、学術誌『American Chemical Society Energy Letters』に10月14日付で掲載された。

研究レポート:
“Ultra-Wideband Transparent Conductive Electrode for Electrochromic Synergistic Solar and Radiative Heat Management”

この記事は、SpaceDaily.comが執筆し、Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。