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脱炭素電力システムにはエネルギー貯蔵が不可欠

  • 環境
2022/7/15

変動性再生可能エネルギー(VRE:Variable Renewable Energy)の普及率が高いかたちで脱炭素化が進んだエネルギーシステムでは、太陽光がないときや風が吹いていないときや、VREによる発電量が少ない、あるいは電力需要が高いときにも、電力を供給し続けるためにエネルギー貯蔵が必要になる。マサチューセッツ工科大学エネルギー・イニシアチブ(MITEI)による報告書「Future of Energy Storage(エネルギー貯蔵の未来)」では、エネルギー貯蔵の必要性を明確にしたうえで、VRE資源とエネルギー貯蔵を利用して、2050年までに脱炭素電力システムを効率的に実現する道を探っている。

MITEIはこの学際的な報告書で、政府に対しエネルギー貯蔵を効率的に展開・利用するため、電力システムの計画・運用・規制に役立つ高度な分析ツールに投資するよう提言している。

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報告書「Future of Energy Storage(エネルギー貯蔵の未来)」は、エネルギー貯蔵技術と関連政策の長期的な展望・提言を探る3年間の研究の集大成だ。報告書が詳述しているように、エネルギー貯蔵は風力や太陽光などの再生可能エネルギーを、電力網の脱炭素化と気候変動対策に必要な規模で、経済および物流面で実行可能なものにするための重要な要素だ

エネルギー貯蔵技術は、発電や送電のほかデマンド・レスポンスなど、本質的に電力システムのすべての要素を代替または補完する能力を持つため、これらのツールは将来電力システムの設計者、運用者、規制当局にとって不可欠なものになるだろう。報告書はまた、州や連邦レベルで、規制当局の補完的な人材配置とスキルアッププログラムへの追加支援も行うべきだと述べている。

MITEIの報告書は、エネルギー貯蔵が、電力システムの脱炭素化を信頼性の高いかたちで安価に実現することを示唆している。MITの化学工学シェブロン教授で、MITEIのディレクターを務めるロバート・アームストロング(Robert Armstrong)氏は報告書の責任者として、「化石燃料発電所はこれまで、送電網に供給される電力を調整することで、その時々の電力需要に対応してきた」と説明する。

「しかし、風力や太陽光などのVRE資源は、1日単位の変動、季節的な変動、天候の変動に左右されるため、電力需要に応じた送電が常に可能なわけではない。私たちの研究では、VREが大部分を占める電力システムにおいて、エネルギー貯蔵は、コスト効率の高い方法で信頼性を維持しながら、電力の需給バランスを取る助けになることがわかっている。その結果、電力セクターの枠を超えて、多くの最終消費活動の電化を支援できる」

MITEIが3年をかけて実施したこの研究は、経済全体の電化と脱炭素化を推進しながら、過剰あるいは不公平な負担を回避する方法として、産学官がエネルギー貯蔵技術の開発・展開の道筋を描く手助けを行うことを目的としている。

この研究では、米国の3つの地域に焦点を当て、エネルギー貯蔵と電力システムの設計について、地域ごとに異なるアプローチが必要であることを明らかにしている。さらに研究チームは、2050年を見据えたモデリングツールを用い、米国だけでなくインドをはじめとする「新興国・途上国」(EMDEs:Emerging Markets and Developing Economies)にも焦点を当てた。

この研究結果は、エネルギー貯蔵がEMDEsで果たす強力な役割を浮き彫りにしている。これらの国々では、経済全体が急速に拡大するほか、消費電力が多い空調などの技術の導入によって今後30年間で電力需要が大幅に増加すると予想されている。特に、低コストのガスが入手不可能で石炭火力発電に依存しているEMDEsでは、送電網の脱炭素化において蓄電池が中心的な役割を果たす、と報告書は指摘している。

研究チームはインドについて、新しい石炭火力発電所への投資よりも、VREとエネルギー貯蔵への投資の方が中長期的に有利だと報告している。ただし、カーボンプライシングのような政策によって強制的に排除しない限り、既存の石炭火力発電所は存続する可能性がある。

報告書著者の一人で、MITEIの科学技術担当副責任者を務めるロバート・ストーナー(Robert Stoner)氏は、「地球規模の脱炭素化という課題において、EMDEsは極めて重要な役割を担っている」と述べる。「私たちの研究結果は、再生可能エネルギーとエネルギー貯蔵において、これからの数十年で生じるコスト低下をEMDEsが活用し、経済発展や現代化を犠牲にすることなく、気候変動のリーダーになる方法を示している」

この研究では、電気化学的貯蔵、熱的貯蔵、化学的貯蔵、力学的貯蔵という4種類の貯蔵技術を検証している。リチウムイオン電池、揚水発電、熱的貯蔵の一部など、すでに実証済みで商業展開可能な技術もいくつかある。そのため、報告書は政府に対し、2050年までに利用を開始するため、他の貯蔵技術に研究開発(R&D)を集中させるよう提言しており、具体的には、地球上に豊富に存在する物質を使った代替的な電気化学貯蔵技術を推進するプロジェクトなどが含まれる。また、プロジェクト管理を妨げることなく成功に報いるような奨励策や仕組みも提案している。

さらに報告書は連邦政府に対し、より多くのエネルギー貯蔵プロジェクトを可能にするため、技術実証プロジェクトに関する規則を一部変更するよう求めている。知的財産権と引き換えに費用を出す政策は、知識の普及を妨げると報告書は主張しており、米国内の他の機関と情報を共有する実証プロジェクトについて、連邦政府が要件を定めることを提唱している。

報告書によれば、停止を予定している化石燃料発電所の多くは、化石燃料ボイラーを「蓄熱装置と新しい蒸気発生機」に置き換えることで、有用なエネルギー貯蔵施設に転換できるという。この改造は、既存の技術で実現可能だ。電力システムの脱炭素化によって放棄されるはずの資産を活用できるため、発電所の所有者や地域コミュニティにとっては魅力的かもしれない。

報告書は水素についても考察しており、エネルギー貯蔵に水素が活用されるかどうかは、経済全体で水素がどれくらい利用されるかによる、と結論づけている。報告書によれば、水素の幅広い利用は、水素の製造・輸送・貯蔵にかかるコスト、さらには、水素の最終的な用途におけるイノベーションのペースに左右される。

脱炭素化が進んだ電力システムでは、時間ごとの卸売価格や限界価値の分布が変化する、と報告書は予測している。現在の卸売市場に比べて、非常に安価な時間帯がかなり多くなり、高い時間帯も多くなるというのだ。そしてこの予測を踏まえて、「卸売価格が高く、電力不足が示唆される時間帯」から、「卸売価格が安く、電力供給が十分と示唆される時間帯」へと電力使用をシフトすることで、すべての消費者が利益を得られるような小売価格設定と負荷管理を導入すべきだと提言している。

「エネルギー貯蔵の未来」は、MITEIの「Future of(〜の未来)」シリーズの9回目にあたる報告書だ。このシリーズでは、エネルギーや環境に関する複雑で重要な問題を探求している。これまでの研究は、原子力、太陽エネルギー、天然ガス、地熱、石炭(排出された二酸化炭素の回収・貯留を伴う)、そして、米国の電力網などのシステムを対象にしてきた。今回の研究の中核となった資金は、アルフレッド・P・スローン財団(Alfred P. Sloan Foundation)とハイジング・サイモンズ財団(Heising-Simons Foundation)によって提供された。MITEIのメンバーで、北欧最大のエネルギー企業であるエクイノールとシェルも、追加支援を行った。

この記事は、SpaceDaily.comが執筆し、Industry Dive Content Marketplaceを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.com.までお願いいたします。

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