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EVを支える、電池のリサイクル・レース

  • 環境
2022/8/24

アセンド・エレメンツがリサイクルした硫酸ニッケル、ブラックマス、正極材、炭酸リチウム、硫酸コバルト。Top Image Credit:Ted + Chelsea

2019年10月下旬、米アリゾナ州スコッツデールのリサイクル施設で火災が発生した。約4万平方フィート(約3700平方メートル)の敷地が炎に包まれ、時速60マイル(秒速25メートル)超の風によって、近くの高速道路に大量の煙が流れ込み、道路は通行止めになった。消火には翌朝まで時間を要した。この火災の影響で、施設を運営するリサイクル業者は、一帯での回収を中止せざるを得なくなったという。焼け野原と化したリサイクル施設には年間8万5000トンの廃棄物を処理する能力があったが、施設の閉鎖により廃棄物は埋立地に行くしかなくなった。

火災の原因は何だったのか? それは携帯電話やノートパソコンに使われているリチウムイオン電池だ。非常に効率性が高いこの電池は、ほとんどの場合は安全だが、寿命を迎えた後も不安定なエネルギーを蓄え続けるため、不用意に廃棄すると爆発や火災を引き起こす可能性がある。米環境保護庁が2021年に公表した報告書によると、2013~2020年に28の州でこのような火災の公的記録があり、1年間に十数件の火災が発生した施設もある。リスクは大きくなる一方だ。調査会社ライスタッド・エナジーによれば、世界のリチウムイオン電池市場は、2030年までに20倍に成長すると見られている。

これほど多くの電池が廃棄されるという事実は、化石燃料からの脱却にとって、深刻な問題を提起する。電池の原料は、電気自動車(EV)の鍵を握る要素だが、リチウム、コバルト、ニッケルなどの金属は産出国も限られ、ますます入手困難になってきている。次世代のEVを動かすには、世界中の塩原や鉱床から何千トンものリチウムやコバルトを採掘する必要があり、それにはコストがかかるうえ、環境破壊にもつながる。

コーネル大学の工学教授で、エネルギーシステムにおけるリチウムなどの元素のライフサイクルを研究する尤峰崎(Fengqi You)氏は、「私たちはできる限りリサイクルに努めるべきですが、電池の場合、リサイクルはさらに重要性が増します」と述べる。尤氏によれば、米国のEV産業はリチウムに依存しているが、リチウムは世界中で採掘・精製されているため、必要不可欠な材料の生産を国内で管理することが難しくなっている。世界のサプライチェーンに何かが起きれば、これらの貴重な金属の供給が途絶え、環境技術への転換が遅れることになる。

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▲ 粉砕した電池から不純物を浸出させ、リチウム、ニッケル、コバルト、グラファイトを取り出す装置。Image Credit:Ryan Roddick

しかし、良い知らせもある。いちど死んだ電池が再びよみがえるかもしれないのだ。アリゾナ州の都市スコッツデールで火災の原因になったような古い電池から、そこに含まれる重要な金属を取り出してサプライチェーンに戻せばいい。適切なインフラがあれば、新しい電池に必要な金属の採掘量を大幅に減らすことができる。さらに、廃棄物から生じる火災のリスクも減らすことができるのだ。

米国でEVの人気が高まるなか、一握りのスタートアップがそうしたプロセスの実現に取り組んでいる。先頭を走っているのは、アセンド・エレメンツだ。同社は2022年夏、ジョージア州に巨大な電池リサイクル施設を開設し、リチウム、コバルト、ニッケルの回収を開始する。そして、ライバルたちもそれに食らいついている。第1世代のEVがすべて廃車になる前に、規模を拡大しようと競い合っているのだ。こうした努力によって、化石燃料と、不要な採掘に依存しないシステムが構築され、「リサイクルのループ(輪)」が完成する可能性もある。

英国系米国人の化学者マイケル・スタンリー・ウィッティンガム(Michael Stanley Whittingham)氏は1970年代後半、充電式リチウムイオン電池の最初の概念的フレームワークを示し、2019年にノーベル賞を授与された。その発表から10年間、NASAからオックスフォード大学までさまざまな組織が、中核技術をさらに発展させた。しかし、この概念が実用化されたのは1991年のこと。ソニーがビデオカメラの稼働時間を延ばすため、この電池を使い始めたときだ。以来、リチウムイオン電池のエネルギー密度はほぼ3倍になり、その製造コストは97%以上も下がった。1991年当時の製造コストは約7500ドルだったが、2018年には200ドルを切った。

すべての電池は化学エネルギーを貯蔵し、それを電気に変換することで稼働する。通常の電池は、アノード(負極)とカソード(正極)に異なる導電性の金属を使用する。負極と正極は分離され、間に電解質がある。機器のスイッチを入れると、負極に閉じ込められていた電子が電池の外に流れ出し、回路を通って正極の電荷に引き寄せられる。電子が回路内を移動することで、電気が発生する。

通常の電池では、このプロセスを逆転させる方法はない。負極の電子が十分に放出されると、電池は寿命を迎える。一方、リチウムイオン電池では、周期表で最も軽く、反応性が高い金属の一つであるリチウムのおかげで、通常の電池と比べて寿命がはるかに長い。充電されていない状態では、大量のリチウム原子が正極にたまっている。機器を電源に接続すると、反応性の高いリチウム原子が素早く電子を放出する。この電子は、外部回路を通って移動し、負極で静止する。重要な利点は、これらの離れゆく電子が、正電荷を帯びたリチウムイオンを残し、それらが電源の負電荷によって引き寄せられることだ。これらは、電解質の中を負極に向かって移動し、そこで捕捉される。ここで、電源に接続されていた機器を電源から外し、スイッチを入れると、このプロセスが逆転する。もともと不安定なリチウムイオンは、電解質中を通って正極に戻るが、その際に電子も一緒に移動して電気が発生する。電子とイオンは、次に電池が充電されるまで、正極に存在することになる。

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▲ アセンド・エレメンツの機械は、粉砕されたリチウムイオン電池からグラファイトを回収し、従来のリサイクル業者に販売する。Image Credit:Ryan Roddick

この正極の構造が、電池寿命の鍵を握る。ニッケル、コバルトといった金属がラザニアのような構造をとることで、薄い層の間にリチウムイオンと電子が閉じ込められる。しかし、イオンが電池の中を往復するたびに、このラザニアがゆがみ、原子構造が膨らんだり割れたりする。充電のたび、制御されないさまざまな化学反応が起こるにつれ、ちょうど私たちの体が年とともに老化するように、電池も時間とともに劣化していく。通常、肉眼ではこの劣化を確認できないが、数年のあいだにエネルギー移動が難しくなっていく。平均的なリチウムイオン電池は、数千回の充電で寿命を迎える(しかし、それでも電荷を保持するため、老朽化すると電池は燃えやすくなる)。

EV産業の急成長に伴い、リチウムをはじめとする、EVを支える金属の需要が急増している。その結果、中国、チリ、オーストラリアなど、重要な鉱床を持ついくつかの国で採掘ブームが起きている。全世界の生産量は、2010年には3万1000トンだったが、そこから3倍超まで拡大し、2021年には11万トンに達した。しかし、世界のEV市場は年間約20%のペースで成長しており、生産が追い付かないほど需要が高まっている。国際エネルギー機関(IEA)は、リチウムの年間生産量は2030年までに200万トン近く需要を下回るようになると予測している。また、少なくとも3~4大陸で採掘できる可能性があるにもかかわらず、精製所や電池工場はほとんど中国にあるため、典型的なボトルネックが生じている。もし生産能力が向上しなければ、2030年までに材料価格が3倍になる可能性もある、とライスタッド・エナジーは述べている。

需要の高まりは、環境コストの上昇にもつながる。企業は、地中から金属を取り出す際に年間数百億ガロンの水を使用しており、チリなど乾燥した国の資源を圧迫している。チベット、アルゼンチン、米国のリチウム鉱山周辺では、魚の死や淡水の枯渇、汚染が報告されているのだ。

これらすべての要素が、リサイクルの必要性を高めている。実用化から数十年間は、リチウムイオン電池の価値が低く、わざわざ使用済み電池を新しい材料に変える必要はなかったが、それでも埋立地行きを阻止しようとする動きはあった。その代表が、NPO「コール2リサイクル(Call2Recycle)」だ。製品がもたらす環境リスク(と法的責任)を軽減するため大手電池メーカーが1990年代に設立し、資金を提供しているNPOだが、その後、廃棄物を主に3つの供給源から回収するプログラムを立ち上げた。3つの供給源とは、修理センター、自治体の廃棄物処理施設、全米に1万6000ある回収ボックスのネットワークだ。2021年は800万ポンド(約3600トン)を超える電池を回収した。

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▲ 回収した金属を含む水溶液をテストするアセンド・エレメンツの電池材料技術者ディレン・ミストリー(Dhiren Mistry)氏。Image Credit:Ryan Roddick

プログラムの運営責任者を務めるエリック・フレデリクソン(Eric Frederickson)氏は、「立ち上げ当初は、ニッケルカドミウム電池が主流でした」と振り返る(携帯可能な、ある程度大型の電動工具によく使われる電池のことだ)。いまは、「私たちが回収する電池で最も多いのはリチウムイオンです」という。

米国は長年リチウムのリサイクル能力が低く、コール2リサイクルは回収した廃棄物を国外に出荷しなければならなかった。しかしいまは、これらの廃棄物を新しいEV用電池の材料に変えてくれる新たな顧客が現れている。

米国の新興企業であるアセンド・エレメンツの研究開発施設は、マサチューセッツ州ウースター郊外の、何の変哲もないオフィスパークにある。外から見ると、中にいる全員がコンピューターのキーボードを叩いていると思うだろう。しかし、現実はもう少し混沌としている。フロントオフィスの奥に倉庫があり、そこでリチウムイオン電池のリサイクルプロセスを微調整し、規模拡大の準備を進めているのだ。

同社のシステムは、粉砕した金属を化学溶液に溶かし、浸出によって再び固体に戻す「湿式製錬(hydrometallurgy)」と呼ばれるプロセスを独自にアレンジしたものだ。同社の手法は乾式製錬(pyrometallurgy)と呼ばれる、古くから用いられていた手法を改善したものになる。乾式製錬では、電池をかなり加熱して溶解させたうえで成分を分離する必要があり、ダイオキシンやフランなどの有毒ガスが発生する。

アセンド・エレメンツの共同創業者であり、最高技術責任者(CTO)を勤めるエリック・グラッツ(Eric Gratz)氏は、筆者に安全ゴーグルを渡して仕事場を案内してくれた。発電機の音にかき消されないよう大声で話しながら、グラッツ氏は筆者を、タンクと機械が連結されたものが十数個並んでいる天井の高い空間に導く。そこにはスチール製の大型容器が3つそびえ立つほか、長さ約10フィート(約3メートル)のアコーディオンを思わせる装置が2つ、そしてパイプやチューブでつながれた小さなタンクのセットがあった。

これらすべてが、巨大なフレンチプレス・コーヒーメーカーのように機能する、とグラッツ氏は説明する。アセンドは、コール2リサイクルのような回収業者やEVメーカーから使用済み電池を買い取り、目の細かいシュレッダーで粉砕する。これが、業界用語で「ブラックマス」と呼ばれる粉のかたちでウースターの施設に届く(フレンチプレスに入れられるジャワコーヒーの粉のようなものだ)。目的は、廃棄電池を液化しプラスチックや不要な金属などの不純物を取り除き、化学構造を変化させた後、再び粉に凝縮して新たな電池の製造に利用することだ。

グラッツ氏はまず、3つの大型容器に案内してくれた。その奥には、粉砕された電池を入れておくホッパーがある。まず、ブラックマスをパイプで容器に入れ、独自の化学混合物で溶かし、リチウム、ニッケル、コバルトの原子構造をバラバラにする。それほど難しいことではない。難しいのは、それを再び粉に戻すことだ。

アセンド・エレメンツは、新しい正極の材料をつくりたいと考えている。なぜなら、これが最も難しいためだ。しかし、粉砕された電池には数種類の金属が含まれており、なかには有用でないものもあるため、まずは不要なものを分離する必要がある。我々は、忙しそうに動き回る技術者たちをよけながら、アコーディオンのような機械にたどり着いた。この機械は、液状にしたブラックマスを、何段階かあるフィルターパネルに通すことで、不要な固体をこし取る。ちょうど、フレンチプレスでコーヒーの粉を押し下げるような感じだ。グラファイトや銅の破片がフィルターに付着し、黒や黄緑の染みを残す。同社は、これらを梱包し、従来のリサイクル業者に販売する。

次に、残った混合物を、2つの重要な要素に分離する。ニッケル、コバルト、マンガンの混合物とリチウムだ。アセンドはこの手法を独自に開発し、競合他社との差別化を図っている。ただしグラッツ氏は、リチウムのユニークな化学的性質も利用していることを認めている。ほとんどの金属は熱を加えると溶けやすくなるが、リチウムは高温になると溶けにくくなる。つまり、残った混合物を加熱することで、極めて重要な金属を分離できるということだ。最終的に得られるのは、一般的なシェーカーに入れてある、ごく普通の塩に見える粒だ。

そして、ブラックマスを沈殿させて粉に戻す。これも独自開発のプロセスであり、「スター・ウォーズ」に登場する旧世代のドロイドのような機械で行われる。大きな台形の箱に小さな装置を乗せた機械だ。アセンドのチームは、各バッチのニッケルとコバルトの濃度を、購入者の仕様に合わせて調節できる。例えば、ニッケルを多く含む電池は、寿命は短くなるものの、より多くのエネルギーを保持することが可能で、一度に数百マイルも走行する自動車に最適だ。この粉末と抽出したリチウムをミキサーで混ぜ合わせると、最終製品は、最初に施設に届けられた粉と同じものに見える。グラッツ氏はその証拠として、ビフォーアフターの容器を見せてくれた。しかし実際には、リサイクルされた粉末は分子構造が若返っており、再び反応性の高いリチウムイオンを蓄えることができる。

このプロセスは極めて効率的だ。アセンド・エレメンツは、最も高価な金属であるニッケルとコバルトを98%も回収している。グラッツ氏によれば、リチウムの回収率は80%くらいだという。工場から出荷される黒い粉は、文字通りすぐに使うことができる。電池メーカーは通常この物質をホイルに吹き付け、丸めたり折り畳んだりしたものを新しい電池に入れる。

アセンドがウースターで行っていることは複雑に見えるかもしれないが、これは、2022年夏にジョージア州アトランタ近郊でオープンする、15万4000平方フィート(約1万4300平方メートル)超の電池リサイクル施設のプロトタイプなのだ。この施設は、米国南東部で起きているEVビジネスのブームにとって中核のひとつとなるだろう。フォルクスワーゲンは近い将来、テネシー州チャタヌーガの工場にEV部門を立ち上げる予定だ。フォードは、ケンタッキー州やテネシー州などに組立工場と複数の電池工場を建設している。アセンドの施設はまだ稼働していないが、フォード、フォルクスワーゲンといった大手に電池を供給するSKバッテリー・アメリカなどのメーカーはすでに、製造用の廃棄物をパレットで出荷し始めており、現在、出発を待つパレットが1トン単位で積み上げられている。

アセンドがジョージア州にオープンする施設は、使用済み電池などの廃棄物を年間約3万3000トン処理し、最大7万台のEVにリサイクル金属を供給できる。マーケティング担当バイスプレジデントのロジャー・リン(Roger Lin)氏は、自動車メーカーは使用済みEV用電池から再構成された材料を購入するというシンプルな一方向の契約か、または、自社工場で余った廃棄物を提供し、それを復活させた形で受け取るという双方向の契約を結ぶことができると説明する。アセンドが自動車メーカーから使用済み電池を引き取り、購入希望者がいれば、新しい材料をつくるという方法もある。

アセンドのCEO、マイク・オクロンリー(Mike O’Kronley)氏は、この施設で使用する古いEV用電池が、引き出しの奥で忘れ去られている携帯電話のような運命にならないことについては自信がある。「EV用電池1個は、携帯電話1000個に相当します」とオクロンリー氏は話す。「携帯電話に比べると、回収してリサイクルセンターに運ぶのがはるかに容易です」。自動車解体業者や廃品回収業者にとっては、アセンドのような企業にEV用電池を売ることには価値があるとオクロンリー氏は主張する。

アセンドは顧客集めでは先行しているかもしれないが、ライバルとの激しい競争に直面している。ニューヨーク州ロチェスター近郊に工場を建設しているカナダのリサイクル会社リ・サイクル(Li-Cycle)と、テスラの元CTOが立ち上げたレッドウッド・マテリアルズだ。両社とも、アセンドと同様の湿式製錬プロセスを用い、独自システムの規模を拡大している。

現時点では、引退したEVがまだ少ないため、リサイクル金属の需要に見合うだけの電池は供給できない。アセンドのグラッツCTOは「世界中の電池をすべてリサイクルしても、おそらく需要の20~30%しか供給できないでしょう」と話す。道路を走るEVの数が増え続ける限り、大量のリチウム、コバルト、ニッケルを採掘し続ける必要があるということだ。

それでもアセンドは、いずれEVに乗る人が過半数に達し、古いEVから新しいモデルに乗り換えていくことを期待している。「そうなれば、同じニッケル、コバルト、リチウムの原子を繰り返しリサイクルすればいいのです」

この記事は、金属をテーマにした「PopSci」の2022年夏号に、バッテリーに関する3部構成シリーズのパート3として掲載されたものです。パート1パート2、その他のPopSci+の記事にはそれぞれのリンクからアクセスできます。

この投稿「The race to close the EV battery recycling loop」は最初にPopular Scienceに掲載されました。

この記事のオリジナルはPopular Scienceに掲載されました。

この記事は、Popular ScienceのJake Bittleが執筆し、Industry Dive Content Marketplaceを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。

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