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電気飛行機は、バッテリー重量との戦いを制するか

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高速試験を終えた電動航空機。Image Credit: Eviation

2022年9月18日、米国ワシントン州の滑走路を電動航空機が疾走した。滑走中に前輪が地面から浮いたが、離陸は意図的に行わなかった。今回は初飛行に先立つテストであり、メーカーによれば初飛行は「間近に迫っている」という。

アリス(Alice)と呼ばれているこの航空機は、全長約57フィート(約17m)。まだ試作段階ではあるものの、かなり洗練されている。将来、ケープエアなどの航空会社に導入されれば、9人の乗客と荷物を乗せて1~2時間、距離にして170~230マイル(約270~370km)の飛行が可能となる。このコミューター機の操縦室は2人用だが、操縦士1人による運行も認められる予定だ。

業界は、炭素集約型の産業から脱却する方法の一つとして電動航空機に期待を寄せており、従来の旅客機とは異なる外観を持つ電動航空機を開発する企業もある。例えば、ジョビー・アビエイションのエアタクシーは垂直離着陸が可能で、従来の旅客機とはデザインが異なる。しかし、エビエイションという企業がつくったアリスは、従来の旅客機にかなり近い。以下では、このアリスについて紹介しよう。

バッテリーは「腹部」

アリスのモーターは、バッテリーの電力で動く。当然、電力の供給源であるバッテリーは機体の「腹部」とも言うべき底部にあり、胴回りも少し広くなっている。

バッテリーは重量があり、エネルギー密度も通常の燃料に及ばないため、電動航空機の大きな制約になっている。アリスの試作機に搭載されているバッテリーは総重量8000ポンド(約3600kg)強で、テスラやリビアンなど一部の自動車メーカーが採用しているものと同様の、円筒形のリチウムイオン電池だ。荷物については客室の後ろに貨物室がある。

Watch this sleek electric plane ace its high-speed ground test客室レイアウトのイメージ図。Image Credit: Eviation

その他のデザイン要素も、「比較的短距離の定期便」という任務をバッテリーの電力で実現することを最優先している。エビエイションのグレゴリー・デイビスCEO兼プレジデントは、「電動航空機の開発は重量との戦いであり、抗力との戦いでもあります」と話す。「私たちの課題は、揚抗比(揚力・抗力の比率)を可能な限り高めることです」

アリスの翼は細長く、後退角は付けられていない。細長い翼は、アスペクト比が高い翼と呼ばれる。「可能な限り効率的な翼が必要です」とデイビス氏は言う(例えば、戦闘機F-16の翼は、効率よりも性能と超音速を重視した設計になっている)。

できるだけ重量を抑えるため、機体の大部分が炭素複合材料でできている、とデイビス氏は説明する。また、飛行制御システムはいわゆるフライ・バイ・ワイヤで、デイビス氏によれば、やはり軽量化が目的だという。フライ・バイ・ワイヤでない航空機は、パイロットが操縦室で行なった操作を機体に反映させる際に、金属ケーブルなど機械的な接続を使っている。一方、フライ・バイ・ワイヤの航空機は電子信号で同じことを行うため、ケーブルなどの物理的な接続が不要になるのだ。

プロペラは「背中」に

機体の後部には2つの電気モーターがあり、2つのプロペラを回転させる。マグニックスという企業が製作しているモーターだ。航空会社のハーバー・エアも、マグニックスのモーターで水上機を電動化している。

アリスの場合、後部のパワーユニットは「片側で650kWのパワーを出すことができるため、両側を合わせると、離陸時に1.3MWのパワーを機体に供給できます。これはすごいことです」とデイビス氏は話す。

現在のところ、エビエイションが最終目標にしている量産機の航続距離と、間もなく初飛行を迎える試作機の航続距離には、当然ながら隔たりがある。「バッテリーがまだそこに到達していないのです」とデイビス氏は説明する。「意外ではないと思いますが、バッテリー技術は電動航空機にとって最大の課題です」。アリスの開発とともに、電動航空機や電気自動車という産業で革新が続くことが期待されている。

デイビス氏はバッテリーの現状について、「業界全体の課題」と表現する。試作機は、「バッテリー技術が一つの仕事を成し遂げることを実証」するのにぴったりだ、とデイビス氏は考えている。

もちろん、この新しい領域に挑んでいるのはエビエイションとその航空機アリスだけではない。前述したジョビー・アビエイションやベータ・テクノロジーズなどは、ヘリコプターのように離着陸する電動エアタクシーを飛行させている。ただしベータ・テクノロジーズのデモ機は、米空軍のパイロットによる最近の飛行や、数カ所に立ち寄ったアーカンソー州への旅においては、従来の航空機と同じように離着陸している。他にも、アーチャーウィスクなどが電動航空機の開発に取り組んでいる。一方、「ヘビーサイド」という1人乗り航空機を開発していたキティホークは、2022年9月21日に会社を畳むと発表した。

また関連ニュースとしては、ハート・エアロスペースという企業がハイブリッド航空機「ES-30」を開発している。同社が、完全電動の小型航空機から持続可能な航空燃料(SAF)を動力源とするタービン発電機を搭載した30人乗りのハイブリッド航空機に方針転換した理由は、航空専門サイト「Air Current」に詳述されている

エビエイションのデイビス氏は、現在の開発状況をNASAのマーキュリー計画に例えている。同計画では、アポロ11号が月面着陸する8年前の1961年、米国人初の弾道飛行に成功した。「私たちがアリスで行っていることは、アラン・シェパードがレッドストーン(ロケット)で宇宙を目指したのと同じようなことです。私たちはできる、と示すことが目的なのです」とデイビス氏は話す。「電動航空機を世界の一部にすること。電動航空機が当たり前の存在になり、私たちの子供世代が空の旅に利用すること、それが目的地です。私たちはできる、と示さなければなりません」

以下の動画は、高速地上走行のテストの様子だ。

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昨日、高速地上走行の回転試験を行い…成功に終わった。次は初飛行だ。pic.twitter.com/x5vh16iHuV — エビエイション・エアクラフト(@EviationAero)、2022年9月19日

この記事は、「Watch this sleek electric plane ace its high-speed ground test(洗練された電動航空機の、高速地上走行試験)」として最初にPopular Scienceに掲載された。
この記事のオリジナルはPopular Scienceに掲載された。

この記事は、Popular ScienceのRob Vergerが執筆し、Industry Dive Content Marketplaceを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。