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MITの海洋科学者、現実味を帯びる「海底採掘」の環境負荷を推定

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人類が深海で資源採掘を行うようになったら、どんな影響があるだろうか。この疑問は、海底鉱物資源への関心が高まるにつれ、ますます緊急性を帯びてきた。深海の海底には、「多金属団塊(polymetallic nodules)」と呼ばれる、ジャガイモほどの大きさがある太古の岩石が散在しており、この中に含まれるニッケルやコバルトは現在、需要が急騰している。電気自動車の動力源や、再生可能エネルギーの貯蔵手段として不可欠な電池の原料として、また加速する都市化などの現象を受けてのことだ。深海には膨大な多金属団塊が存在するが、深海底の採掘が海の生態系にどんな影響が及ぶかについては未知の部分が多く、議論が絶えない。

マサチューセッツ工科大学(MIT)の海洋科学者チームによる新たな研究は、このテーマに脚光を当てるものだ。彼らは、採掘艇が海底から団塊を回収する際に巻き上げる、堆積物のプルームに注目した。

学術誌『Science Advances』に掲載された本研究は、多金属団塊が豊富に存在するクラリオン・クリッパートン海域(Clarion–Clipperton Zone:CCZ)と呼ばれる太平洋の海域で、2021年に行われた調査航海の結果に基づくものだ。MITの研究チームは、縮尺モデル段階の採掘艇を水深4500mの海底で操作し、採掘艇に取り付けた装置で、堆積物プルームの撹乱状態を測定した。採掘艇の操作は事前に綿密に計画した通りに行われ、研究チームは操作に伴って発生する堆積物プルームを記録し、その特性を測定した。

測定の結果、採掘艇の後方に生じる密度の高い堆積物プルームは、自重によって拡散していくことがわかった。この拡散のあり方は、流体力学用語で「混濁流(turbidity current)」と呼ばれる。プルームは、海底から高さ2m以内という比較的低い位置を保ちながら徐々に拡散した。これまでの想定では、プルームは発生してすぐに水柱のもっと高い位置まで到達すると考えられていたという。

論文の共著者のひとりであり、MITで機械工学を研究するトーマス・ピーコック(Thomas Peacock)教授は、「プルームの動きは、いくつかの仮説とは大きく異なるものでした」と述べる。「深海採掘に伴うプルームのモデル化は、我々が特定したプロセスを考慮に入れて、その影響評価を行う必要があるでしょう」

今回の研究には、ピーコックに加え、MITから筆頭著者のカルロス・ムニョス=ロヨ(Carlos Munoz-Royo)、ラファエル・ウィヨン(Raphael Ouillon)、スーハ・エル=ムサディク(Souha El Mousadik)のほか、スクリプス海洋研究所からマシュー・アルフォード(Matthew Alford)が参加した。

深海での操作

複数の採掘企業が、多金属団塊の回収を目指してトラクター大の採掘艇の海底配備を提案している。採掘艇は、団塊を堆積物と一緒に吸引したあと、採掘艇の内部で団塊と堆積物を分離する。団塊は、海上の船まで垂直に立ち上がる「ライザーパイプ(海底坑口装置から船まで連結されているパイプ)」を通して海上に送られ、堆積物の大半は採掘艇の背後に廃棄される。

ピーコックらのグループは以前に、海上採掘船の操作中に海中に戻される堆積物のプルーム動態を調べている。今回の研究で、彼らは採掘の別の側面に視点を移し、採掘艇そのものが生み出す堆積物プルームを測定した。

研究チームは2021年4月、CCZでの多金属団塊の採掘方法を検討しているベルギーの海洋土木建築会社、グローバル・シーミネラル・リソーシズNV(GSR)による海洋探査に参加した。欧州主体の研究チームであるマイニング・インパクツ2も、並行して同様の調査を行った。この海洋探査では、40年以上ぶりにCCZで縮尺モデル段階の採掘艇のテストが実施された。「パタニア(Patania)II」と名付けられたこの採掘艇は高さ3m、幅4mで、想定されている事業用採掘艇のおよそ3分の1のサイズだ。

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「パタニア(Patania)II」の試作車による、低層濁流プルームへの進入、走行、離脱を動画に撮影したもの。車両前部に取り付けられた計測用ポストは海底から約3mの高さに達する。Image Credit: Global Sea Mineral Resources。動画(20倍速)はこちら

GSR社が採掘艇の団塊採集性能を検証する一方で、MITの研究チームは、採掘艇の後方にできる堆積物プルームを記録した。そして「セルフィー」および「ドライブバイ」と呼ばれる、事前にプログラムされた2種類の操作を行った。

いずれの操作も、最初は、採掘艇が吸引機能を完全にオンにしたまま直線移動するところから始まる。研究チームは、採掘艇を100m走行させて経路上にある団塊を回収させた。その後、「セルフィー」操作では、吸引機能を停止し、来た道を戻って、形成されたばかりの堆積物プルームを通過する指示を与えた。この操作の間に、採掘艇に搭載されたセンサーが堆積物の濃度を測定した。これにより研究チームは、採掘艇が撹乱を起こした数分後までの状況を把握することができた。

「ドライブバイ」操作では、採掘艇の経路から50~100m離れた位置に、センサーを搭載した係留装置を設置した。採掘艇が団塊を回収しながら移動するのに伴って発生したプルームはやがて拡散し、1~2時間後に係留装置を通過する。この「ドライブバイ」操作により、より長い数時間という尺度で、堆積物プルームがどのような変化をたどるかをモニターした。

プルームの「息切れ」

ピーコックらは、採掘艇を複数回にわたって操作した結果、深海資源採掘に伴って発生する堆積物プルームの変化を記録することに成功した。

「採掘艇は、まずは透明度の高い海水中を移動し、海底にある団塊を発見します。その後、濃密な堆積物プルームが突然現れ採掘艇を包み込むのです」と、ピーコックは述べる。

セルフィー操作の記録から、いくつかの先行研究で予測されていたプルームの挙動が裏付けられた。潜水艇が巻き上げる大量の堆積物は非常に密度が高いため、周囲の海水とある程度混ざった後もプルームとなって周囲の海水とは別の流体であるかのようにふるまい、自重によって拡散していく。この現象は混濁流と呼ばれる。

「混濁流は一定時間、おおむね数十分は自重によって拡散しますが、その間に堆積物を海底に落としていき、やがて息切れします」と、ピーコックは説明する。「そのあとは、海流の力が自然拡散よりも優勢になり、堆積物は海流に運ばれるようになるのです」

研究チームの推定によれば、プルームが係留装置を通過する時点で、堆積物の92~98%は海底に沈殿するか、あるいは海底から高さ2m以内の低層を漂っていた。ただし、この堆積物がずっとこうした状態を保つかどうかは不明確だ。水柱のさらに高い位置に押し上げられる可能性もある。チームは現在、今後の課題としてこの問題を検討しており、深海採掘に伴う堆積物プルームの挙動をより正確に理解することを目指している。

「この研究により、あるタイプの団塊採掘活動に伴う堆積物撹乱の初期の挙動が明らかになりました。最大の発見は、このような採掘によって混濁流のような複雑なプロセスが生じることがわかったことです。従って、深海採掘活動の影響をモデル化するにあたっては、こうしたプロセスを考慮に入れる必要があるでしょう」と、ピーコックは述べる。

今回の研究には参加していない、オランダ王立海洋研究所に所属する海洋地質学者ヘンコ・デ・スティグター(Henko de Stigter)は、同研究について以下のように評価する。「深海底採掘によって生じる堆積物プルームは、環境への影響面からみると重大な懸念事項です。実際の採掘場所から遠く離れた場所まで拡散し、深海生物に影響を与える可能性があります。この論文は、堆積物プルームの初期の挙動に関して、重要な知見をもたらすものです」

本研究は、米国立科学財団(NSF)、ARPA-E、イレブンス・アワー・プロジェクト(the 11th Hour Project)、ベニオフ海洋イニシアチブ、グローバル・シーミネラル・リソーシズの助成を受けておこなわれた。研究チームは、出資者は調査・分析のいかなる側面にも関与していないと述べている。

この記事は、SpaceDaily.comが執筆し、Industry Dive Content Marketplaceを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。