半導体性能を左右する貴金属の戦略的役割

エレクトロニクス 半導体
半導体性能を左右する貴金属の戦略的役割
※本画像はイメージである。

引用元: EE Times Asia
日 付: 2026年5月1日
著 者: 井原 康孝(田中貴金属工業株式会社 取締役執行役員)
リンク: The Strategic Role of Precious Metals in Defining Semiconductor Performance

半導体業界では長年、トランジスタの微細化が性能向上を支えてきた。しかし現在、その潮流は大きく変化しつつある。AIや高性能コンピューティング(HPC)の急速な発展に伴い、半導体性能を左右する要素は、単なる微細化から「材料技術」へと重心を移している。

半導体工業会(SIA)によると、2024年の世界半導体売上高は6,270億ドルに達し、AI、高性能コンピューティング、自動車の電動化、産業デジタル化を背景に、2030年までに1兆ドルを超えると予測されている。また、IDCはAI関連半導体需要が2030年まで二桁成長を続けると見込んでおり、ハイパースケールデータセンターやエッジAIシステムの拡大が市場を押し上げている。さらに、市場調査会社Omdiaは、2026年の半導体市場成長率予測を62.7%へ大幅に引き上げている。

こうした成長は、単に生産量を増加させるだけではない。設計思想そのものを変化させている。電力密度は急速に高まり、熱設計余裕は縮小し、特に車載や産業用途では長寿命化への要求も強まっている。この環境下において、金、銀、パラジウム、プラチナ、イリジウム、ルテニウムといった貴金属は、単なる補助材料ではなく、デバイス性能を実際にどこまで引き出せるかを左右する中核材料となっている。

半導体製造における貴金属の重要性

貴金属は、その優れた物理的・化学的特性によって、半導体製造において独自の役割を担っている。

例えばは、耐腐食性、接合信頼性、加工性に優れ、微細ピッチ接続や高信頼性パッケージングに不可欠な材料である。一方、は金属中で最も高い電気伝導率と熱伝導率を持ち、ダイアタッチや放熱用途において重要な役割を果たしている。

また、パラジウムは硬度、導電性、耐酸化性のバランスに優れ、ルテニウムプラチナは、低抵抗かつ高耐久性が求められる先端プロセスの薄膜形成分野で重要性を増している。

半導体製造の拡大に伴い、これらの材料をどのように調達し、効率的に利用・回収するかという観点も重要性を増している。性能だけでなく、資源循環や供給安定性まで含めた材料マネジメントが求められる時代となっている。

AI時代に求められる材料性能

井原は、「AIやHPCの拡大によって、半導体設計の優先順位は根本的に変化している」と指摘する。

「これまで業界はトランジスタの微細化を中心に発展してきたが、AIやHPCでは、厳しい熱・電気環境下で動作する高度集積デバイスから、いかにシステムレベルの性能を引き出すかが課題となっている」と述べる。

さらに、「計算密度が高まるにつれ、発熱は局所化し、電力供給要求も厳しくなる。加えて、パッケージやインターコネクトレベルでの長期信頼性が極めて重要になっている」と説明している。

こうした環境では、材料そのものが、システム性能を左右する要素となる。。ダイアタッチ材料、接合材料、薄膜、めっき層、テスト材料に至るまで、熱除去効率や電流安定性、長期信頼性に直接影響を与える存在となる。特にAIやHPCシステムでは、高負荷状態が長時間継続するため、熱ストレス下での電気的・機械的安定性が重要視されている。

半導体製造全体を支える田中貴金属の材料技術

デバイス構造が複雑化する中、材料技術の重要性はさらに高まっている。田中貴金属では、導電性だけでなく、耐熱性、耐腐食性、信頼性を総合的に実現する材料として、貴金属材料の開発を進めている。

1885年の創業以来、140年以上にわたり貴金属事業を展開してきた同社は、調達、精製、高純度管理、材料設計、アプリケーション開発に至るまで幅広い技術基盤を構築してきた。現在では、半導体前工程、パッケージング、テスト工程までをカバーする材料ポートフォリオを展開している。

前工程では、 CVDやALD成膜向けの高純度貴金属プリカーサや、ルテニウム系材料、低抵抗・高耐久薄膜向け スパッタリングターゲットを提供している。

また、パッケージ分野では、金・金合金パラジウムコート銅などの ボンディングワイヤを展開するほか、 パワーデバイス向けに厚膜アルミワイヤや銅リボンも提供している。さらに、 貴金属めっき技術により、高電流密度や熱サイクル環境下においても、耐腐食性、安定した接触抵抗、長期耐久性を実現している。

持続可能性を支える貴金属リサイクル

半導体製造が資源集約型産業となる中で、貴金属リサイクルの役割は「環境対応」から「事業継続に不可欠な要素」へと変化している。加えて、貴金属価格の変動が続く中、コスト抑制と安定供給の観点からも、材料効率とリサイクルの重要性が高まっている。

田中貴金属では、回収・精製・再製品化を一体化したクローズドループシステムを構築している。

井原は、「リサイクルは単なるサステナビリティ施策ではない。品質管理、供給安定性、資源利用効率を実現するための重要な仕組みであり、クローズドループ型の材料循環はすでに産業界の標準となりつつある」と述べている。

こうした取り組みは、次世代半導体やパワーエレクトロニクス分野を支えると同時に、貴金属の循環利用促進にも貢献している。

本記事は、EE Times Asiaにより2026年5月1日に公開された記事をもとに、同社の許諾を得て田中貴金属が翻訳・掲載したものである。

本記事はEE Times Asiaに掲載されたものであり、詳細は以下より確認可能である。
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