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田中貴金属工業の挑戦~自動車と半導体で一気拡大の戦略~④画期的材料開発で勝負

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2021年3月8日 電子デバイス産業新聞

田中貴金属グループの事業概要を見れば、実に全体の70%を産業用貴金属製品が占めていることがわかる。巷間、知られているような貴金属宝飾品と資産用貴金属商品は約30%となっており、田中貴金属グループの主力は、産業向け製品にあるのだ。それでいて産業事業とコンシュマー事業が補完しあう形で、年度ごとの外的要因に柔軟に対応するという、かなり基盤のしっかりした事業形態である。
主要事業となる産業材の製品では、世界におけるトップシェアクラスにかなりの製品が挙げられる。ボンディングワイヤー、ウエハーバンプメッキプロセス、ハードディスクメディア用白金合金ターゲット、車載センサー用白金系粉末ペーストなどの半導体/電子部品関連においても、世界シェアをかなり多く占有している。

プリカーサを武器に前工程攻略
「半導体の後工程においては、ボンディングワイヤーをはじめとして、様々に強い製品がラインアップされている。しかしながら、当社としてはこれまであまり踏み込んでいなかった半導体の前工程の分野に向かっていきたい。ALD/CVDプリカーサ、ターゲット、メッキ液などの分野で前工程にマッチングする製品開発に全力を挙げている。前工程は、非常に大きな生産金額のあるところであり、ここを攻めない限り、田中貴金属の今後の飛躍的な発展はあり得ないとも思っている」。
こう語るのは、田中貴金属工業にあって、取締役常務執行役員であり、新事業カンパニープレジデントの任にある庄司亨氏である。庄司氏は、千葉県木更津市出身、千葉県立君津高校を出て、千葉工業大学金属工学科に学ぶ。卒論のテーマは、「航空機用アルミニウム合金のクリープ破壊耐性向上に関する研究」というものであった。
田中貴金属工業に入社後は、金合金細線の連続鋳造技術をはじめとして、燃焼触媒、環境浄化触媒、酸化物分散強化型白金、ディーゼル排ガス浄化触媒などの技術開発に意欲的に取り組んだ。2020年4月に現在の職に就いたのである。


       庄司 亨氏

「半導体製造においては、超微細化のニューウェーブが巻き起こっている。半導体の微細化が進むにつれ、構造の複雑化・細線化の影響により、従来の製造方法では製造が困難となってきており、この対応については、貴金属を用いたプリカーサ、つまり前駆体の適用が不可欠なのだ。ルテニウムという貴金属から作られるプリカーサは、CVD装置の中で100~200℃程度の低温で気化することができ、これが微細化の進むウェーハプロセスで低抵抗かつ緻密な成膜材料として、次世代品への採用が大いに期待されている。」
こう語るのは、田中貴金属工業にあって執行役員であり、新事業カンパニーの技術開発統括部の化学材料開発部長である奥田晃彦氏である。奥田氏は、大阪府高槻市出身、大阪府立高槻北高校を出て、関西大学工学部化学工学に進み、博士論文まで取っている。自由闊達な田中貴金属の社風に憧れて入社したという。


      奥田 晃彦氏

さて、ルテニウムプリカーサは、現在汎用で使われているタングステンや銅等からの置き換えを想定しているものである。圧倒的な低抵抗と、そして低温処理が可能となるため、微細加工のところではウルトラ技を発揮できるとも言っている。20年10月には従来の液体ルテニウムプリカーサに比べて蒸気圧を100倍以上に高めたALD/CVD用プリカーサ「TRuST(トラスト)」の開発に成功している。本プリカーサにより、スマートフォンや、需要の伸びが目覚ましいデータセンターで使用される半導体の高性能化・省電力化に貢献したいという強い思いがあるのだ。

LED、ディスプレーにも展開
田中貴金属はこの他にも、民生エレクトロニクスの分野においては、LEDやディスプレー向けに様々な製品を持っている。フラットパネルディスプレイのガラスパネル基板においては、白金製ガラス溶解装置はなくてはならない存在である。古くは液晶テレビから、有機EL、更にはマイクロLEDまで、貴金属材料はフラットパネルディスプレイに幅広く使われている。ICボンディング、各種配線材料、コネクター、リードフレームなどに田中の製品は活躍しているのだ。また、新たな接合材料としてサブミクロンサイズの金粒子を用いた金ペースト材料「AuRoFUSE」にも注力している。AuRoFUSEは、低電気抵抗、高熱伝道度を維持しながら、鉛半田の接合温度よりも低い200℃で高い接合信頼性が得られるのが特徴だ。またドライプロセスによる作業性も高く、高出力、大電流のチップを中心に様々な用途への展開が広がっている。
新紫外LED向けの新封止材料開発にも注力している。新たに開発に成功したのは、金スズ付き石英ガラスリッドと呼ばれるものであり、クラックやメタライズ剥離を抑制することができるため、歩留り改善とコスト削減に貢献するという。
135年という長い歴史を持つ田中貴金属工業は、今後も持てる力のすべてを新規開発に注ぎ込み、IoT時代を切り開く画期的な製品開発に全速全開で挑戦していく構えなのである。

(特別編集委員 泉谷渉)

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